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「10年で初めての非常事態」のタカを救えるか!?”開幕”で初先発の岡本健ってどんな投手?

田尻耕太郎スポーツライター
初先発を控え28日、ヤフオクドームで練習を行った(筆者撮影)

”開幕”内定だった千賀が先発回避

 昨季まで“3連覇”を果たしている交流戦に臨むソフトバンク。球界きっての交流戦巧者だが、今年は故障者が続出したこともあり、決して見通しは明るくない。

 27日、交流戦前最後の試合だった楽天戦(ヤフオクドーム)も4対8と完敗して、ここまでは23勝23敗の貯金0。貯金なしで交流戦に臨むのは5年ぶりで、工藤公康監督が就任してからは初めてだ。

 それでも工藤監督は「勝率5割で戦ってきたことは、100%じゃないけど満足しているところもあります」と前を向いた。

 だが、27日の試合が終わってしばらく経った頃、ソフトバンクにまたもや悲報が駆け巡った。29日の交流戦“開幕投手”が内定していた千賀滉大投手が最終調整だったブルペン投球で右手指に出来たマメをつぶしたとされ、先発を回避することになった。

倉野C「10年やって、こんなこと初めて」

 26日には東浜巨が右肩関節機能不全の症状で1軍登録を抹消されたばかりのところで、千賀は右前腕部の張りから復帰が見込まれていただけに、ショックの大きさは計り知れない。

 倉野信次投手統括コーチは「考えていたことが、ことごとくダメになった。10年間コーチをやっていますが、こんなことは初めて。リスクマネジメントをしながら3パターンほどは常に考えていますが、全部潰れたのは初めてです。それくらいの非常事態」と困り顔を浮かべた。

 ソフトバンクの交流戦開幕カードは、甲子園球場での阪神戦だ。

 初戦となる29日、予告先発として発表されたのは岡本健投手だった。

社会人時代、全国MVPの右腕

 プロ5年目の25歳、兵庫県姫路市出身。神戸国際大付属高校から新日鐵住金かずさマジックを経て‘13年ドラフト3位でソフトバンクに入団した。同期の1位が今季ブレイクを果たした加治屋蓮で、2位は鉄腕リリーバーの森唯斗だった。

 同じ社会人出身の投手の中でやや出遅れた右腕だが、当時の実績は彼らよりも上だった。都市対抗ではベスト4。さらにドラフト後に出場した日本選手権では先発、抑えにフル回転してチームの初優勝に貢献。岡本は最高殊勲選手賞に選ばれた。

 しかし、プロ入り後はフォームのバランスを崩してなかなか結果を残せずにいた。1軍実績は今季の8登板も含めて35試合、1勝0敗1ホールド、防御率3.57。昨年6月18日の広島戦(マツダ)で2回1安打無失点と好投し、プロ初勝利をマークしている。

 今季は8試合で勝ち負けなし、防御率2.61。5月は6試合に投げて防御率1.04とここ最近は好投を続けており、直近登板だった25日の楽天戦も2回を打者6人で完ぺきに抑えていた。倉野コーチは「最近は安定感がある」と抜てきの理由を明かした。

先発はプロ1年目の2軍戦以来

 岡本は28日、ヤフオクドームで行われた先発投手練習に参加。その終わりに、報道陣の囲み取材を受けた。

 先発を伝えられたのは27日の試合終了後。もし登板があれば、別の投手が起用される可能性もあった。「初めに聞いた時は『エ? マジで?』というのが率直な気持ち」と岡本自身も驚きを隠せなかったという。

「先発できることに嬉しい気持ちもありますけど、緊張すると思います。0対0から始まる場面で投げる。中継ぎとは違う責任感がありますから」

 先発は2軍でも一度しかない。「たしかプロ1年目。5回投げたと思います」。本人はしっかり覚えていた。‘14年9月17日、雁の巣球場での中日戦。この時は5回を投げて3安打2三振無四球で1失点と上々の内容で勝利投手になっている。

 また、甲子園は高校3年春のセンバツでマウンドに上がっている。それ以来の登板になるという。さらに地元に近いとあって家族や友人も応援に来てくれると、この時は笑顔で語った。

「ここ最近は変化球である程度カウントを作ることが出来ている」

 プロ入り当初は「分かっていても打たれない火の玉ストレートを」と意気込んでいた。その気持ちはまだ変わっていないが、勝つための投球に何が必要なのか、自身を冷静に見つめることが出来るようにもなった。

攝津先輩の涙に決意新た

 1週間前の火曜日は自主トレでお世話になっている攝津正投手が復活白星を挙げた。

「感動した。僕も泣きそうになりました」

 攝津は決して完ぺきな内容ではなかったが、絶対に抑えてやるという気迫が全身からみなぎっていた。

「フォームとか投球技術ではない、そういうトコロは僕も真似できる。明日の登板では僕もその気持ちで投げたい」

 倉野コーチは「長い回を投げようと思わずに、中継ぎのつもりで1回ずつ」と全力投球指令を出している。その一方で「僕らは非常事態と思っているけど、選手側はそうじゃなくチャンスととらえてほしい。人生を変えるくらいの気持ちで。ポッと訪れたチャンスで野球人生を変えた選手はこれまでもいるんだから」と期待を寄せた。

 ソフトバンクでは昨年5月31日、石川柊太が初先発でプロ初勝利をつかんだ。あれから1年が経ち、今ではチームのエース格にまで成り上がっている。

 自分の力で人生を変えるチャンスをつかんだ岡本。運命の一戦、心から期待したい。

スポーツライター

1978年8月18日生まれ、熊本市出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。卒業後、2年半のホークス球団誌編集者を経てフリーに。「Number web」でのコラム連載のほかデイリースポーツ新聞社特約記者も務める。2024年、46歳でホークス取材歴23年に。 また、毎年1月には数多くのプロ野球選手をはじめソフトボールの上野由岐子投手が参加する「鴻江スポーツアカデミー」合宿の運営サポートをライフワークとしている。

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