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H&Mの新コンセプトストアが銀座並木通りに登場 ゆったり空間・厳選商品・コーヒー提供で大人客も回帰

松下久美ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表
特別な体験を提供するH&M銀座並木通り店。コーヒーショップも日本初。写真全て筆者

スウェーデン発のファストファッションブランド「H&M」が5月11日にオープンした銀座並木通り店は、「H&M」のポテンシャルを再認識させられるコンセプトストアであり、「H&M」離れをしていた人々や業界関係者も要必見のストアになっている。場所は「ユニクロ」のグローバル旗艦店「ユニクロトウキョウ」や、「無印良品」の世界旗艦店「無印良品 銀座」にもほど近い銀座2丁目の並木通り沿いで、サザビーリーグ傘下のセレクトショップ「エストネーション」の店舗跡地に入店したもの。一部に当時の面影が残るハイイメージな店舗空間に、厳選したウィメンズとメンズのアイテムやシーズンコレクションをゆったりと陳列している。日本で初めて、テイクアウト型のコーヒーショップを導入するとともに、「H&M ホーム」のリアル販売を行っており、「特別な体験ができる店舗」(アネタ・ポクシンスカH&Mジャパン社長)と明確に位置付けている。

売り場面積は3層で1300平方メートル。開店初日には40代以上の高年齢層も多く来店し、「商品が高見えする」(実際の販売価格に比べて高価に見えるという意味)や、「素材感が良くなった」「大人が通勤や食事会に使えそうなクロージング(スーツやジャケットなど)があるのを初めて知った」「H&Mのイメージが変わった。買いたくなる商品がたくさんあった」「こんなにメンズが充実していたんだ」「久しぶりに店に入ったけど、安くてビックリ!」といった顧客の声が聞こえてきた。

銀座といえば、「H&M」が2008年に日本1号店をオープンし、5000人が行列してファストファッションブームを巻き起こした、歴史的にも重要な場所だ。中央通り沿いの新橋寄り(銀座7丁目)に店を構えていたが、銀座内での人気エリアやトラフィック(交通量)の変化などもあり、契約更新をせず、2018年に閉店していた。

オープニング記者会見に登壇したアネタ・ポクシンスカ社長。同日発売の「ミュグレー H&M」を着用
オープニング記者会見に登壇したアネタ・ポクシンスカ社長。同日発売の「ミュグレー H&M」を着用

ポクシンスカ社長は「銀座は、日本に住む方だけでなく海外の方もわかっている通り、東京でとても重要な場所です。その銀座に特別な店舗を再オープンできるのを嬉しく思っています。長年にわたって栄えていて、ラグジュアリー系の店舗や買い物客も多くいらっしゃる場所です。私たちH&Mはすべての方々にファッションを届ける、ファッションの民主化の実現を目指すブランドです。オンラインストアの台頭や長きにわたるコロナ禍などがあり、今、リアル店舗の重要性が改めてクローズアップされています。ショッピング体験という意味では、商品のトランザクション(売買)、購買体験に加えて、付加価値の体験が重要になってきていると思います。銀座並木通り店は特別なサービスを提供する店舗と位置付けています。その一つが、H&M ホームの一部商品の販売です。2016年からオンラインで展開して人気を得ていますが、実際に買い物を楽しんでいただける唯一の店舗になります。また、コーヒーショップを併設しています。ショッピングを楽しむとともに、コーヒーや紅茶を楽しめる、国内で初めての店になります。H&Mにとって東京・銀座は特別に重要な街です。厳選されたサービスや付加価値を感じていただける、他にない、唯一無二の店舗です。多くのお客さまをこの並木通り店にお迎えするのを楽しみにしています」と語る。

まずは、「H&M」銀座並木通り店の特徴や工夫について、室井麻希PRコミュニケーション・マネージャーはこう解説する。

1:高感度な店舗内装にゆったり陳列した特別ストア

「入店されたお客さまから、『わぁっ』という声を聞いて嬉しかったのですが、通常のH&Mとはかなり異なった形態の店舗です。キッズの取り扱いはなく、メンズとウィメンズを扱う大人向けのストアです。3層で、注目のコンセプトやコレクションを扱う1階はグリーン、ウィメンズの2階はイエロー、メンズの3階はブルーにカラーリングをすることで、ファッションのインスピレーションを高めたいと思っています。商品を輝かせたい!とVMD担当者が話す通り、商品を陳列する間隔やスペースなどにも余裕があり、見通しが良く、いろいろな導線を通ってゆっくり買い物を楽しんでもらえる仕様になっています。また、店内には椅子やベンチも多く設けています。商品を眺めながらコーヒーショップで購入したドリンクを楽しんでいただいたり、お連れ様をお待ちになっていただくなど、自由にお使いいただければと思っています」。

3階メンズフロア。雑貨も含めて商品が映えるゆったりとした陳列を導入。スポーツラインの「H&Mムーブ」やデニム、スーツ、ベーシック、カジュアル、バカンスなどテーマごとにわかりやすく展開している
3階メンズフロア。雑貨も含めて商品が映えるゆったりとした陳列を導入。スポーツラインの「H&Mムーブ」やデニム、スーツ、ベーシック、カジュアル、バカンスなどテーマごとにわかりやすく展開している

2:日本初のコーヒーショップ、ヴィーガンクッキーも用意

海外では、「H&M」の本国スウェーデンのストックホルムや、スペインのバルセロナ、ドイツのハイデルベルグなどの店舗と、2017年にスタートした「ARKET(アーケット)」業態でカフェを展開している。銀座並木通り店では、テイクアウト型ながらも、日本国内で初めてコーヒーショップを併設し、コーヒーやカフェラテ、紅茶、スイーツを提供する。「H&Mは常にサステナビリティを念頭に置いてビジネスを行っています。コーヒー豆の調達や使用についてもガイドラインがあります。今回は京都を拠点とする小川珈琲に協力いただいていますが、環境や社会に配慮した国際フェアトレード認証と、有機JAS認証を取得したコーヒー豆を使ったオーガニックコーヒーを提供します。スイーツは植物性の原材料を使ったヴィーガンスイーツを用意しました。カップやパッケージなどは環境負荷の少ない紙製のものを使用して提供します。5月14日までの4日間はイートインコーナーも設けています」。

サステナビリティに配慮した、フェアトレードのコーヒー豆を使用したオーガニックコーヒーや、ヴィーガンスイーツを提供するコーヒーショップを日本初展開
サステナビリティに配慮した、フェアトレードのコーヒー豆を使用したオーガニックコーヒーや、ヴィーガンスイーツを提供するコーヒーショップを日本初展開

3:「H&M ホーム」が日本で初めて店舗で買える

「H&M ホーム」は欧州や米国ではリアル店舗とオンラインとで、インテリア雑貨や、寝具やクッション、ラグなどのホームファブリック、キャンドルや収納グッズなどを販売している「デザイン性を重視したインテリアブランド」だ。日本では2016年にオンラインで取り扱いをスタート。「かなり人気もあり、今回はお客さまからの要望の声があり、導入することを決めました。コーヒーショップのカウンターの隣にコーナーを配置。キッチン・ダイニングに関連したマグカップやお皿などの食器やランチョンマット、ペーパーナプキン、フラワーベースやキャンドルなど約40アイテムをセレクトして展開しています。今後は季節に応じて入れ替えていく方針です。売れ行きによっては取り扱いアイテムを拡大していくこともあるかもしれません」。

オンラインでしか買えなかった「H&M ホーム」の一部商品が初めて店舗でも購入できるようになった。まずはキッチン&リビング関連商材を中心に40アイテムを展開。顧客の反響に応じて品ぞろえや型数を充実させる
オンラインでしか買えなかった「H&M ホーム」の一部商品が初めて店舗でも購入できるようになった。まずはキッチン&リビング関連商材を中心に40アイテムを展開。顧客の反響に応じて品ぞろえや型数を充実させる

4:ショッピング体験を高めるLab(ラボ)として柔軟な取り組みを実施

「この店舗は、いろいろなお客さまにより良いショッピング体験をしていただくために、新しい取り組みを柔軟に取り入れていく、ラボのような位置づけとしています。新しいものもいち早く紹介していきます。開店日はデザイナーズコラボレーションの「Mugler H&M」(ミュグレー エイチ・アンド・エム)の発売日でもあり、ブルーの壁面装飾やカーペットを敷いたり、撮影ブースを設けるなど、このコレクションを祝う特別仕様の内装を施しました(5月14日まで)。先行して9日にはVIPイベントも実施しました。今後も楽しいこと、面白いこと、お客さまのショッピング体験を高められることを積極的に行い、オープン後もインスピレーション溢れる空間・店舗にしていきたいと考えています」。

開店に合わせて同日発売された「ミュグレー」とのデザイナーズコラボレーション「ミュグレー H&M」のポップアップストアを開設。ボディコンシャスなコレクションに朝から行列ができた。外国人客の多さも目立った
開店に合わせて同日発売された「ミュグレー」とのデザイナーズコラボレーション「ミュグレー H&M」のポップアップストアを開設。ボディコンシャスなコレクションに朝から行列ができた。外国人客の多さも目立った

5:不良品をアップサイクルした古着回収ボックス登場

「H&M」の古着回収サービスは、2013年から開始し、今年で10周年を迎える。自社以外の服も回収する店が特徴の一つでもある。「銀座並木通り店の回収ボックスは、H&Mで発生した不良品をアップサイクルした、循環型リサイクルボード『PANECO(パネコ)』を使用してつくりました。私たちが目指す循環型ファッションの実現を表現した、この店舗向けの特別仕様としています」。

▼アネタ・ポクシンスカ社長に聞く、日本の出店戦略とローカライゼーション

――日本の代表に就任し、2022年春に来日してから1年が経過しました。コロナ禍はまだ続いていますが、日本でのビジネスは回復していますか?また、銀座並木通り店は国内125店舗目となりますが、今後の出店ペースや想定エリア、立地についてはどう考えていますか?

ポクシンスカ社長:少しずつ回復の兆しはありますが、劇的には戻っていない状況です。けれども、日本にはまだまだ成長のチャンスがあります。直近でも7ー8店舗を連続でオープンしていますし、オンラインも強化しながら、実店舗を増やしていく考えに変わりはありません。ロケーションについてはバランスを取っていきます。都心と地方、駅前と郊外型ショッピングモールなど、地域によって異なる顧客のプロファイルに合わせていくことが一つ。もう一つはブランディングという意味で、出店すべき立地を判断していきます。出店立地や取扱商品は、オンラインの販売データも活用しながら決定していきます。最近では、4月27日に東京・南砂に新たな店舗スタイルの小型店舗をオープンするなど、店舗フォーマットも地域や立地に合わせたものにしていきます。

注:東京都江東区のイオンスタイル南砂内2階に「H&M イオンスタイル南砂店」をオープンした。1フロアで、売り場面積は約830平方メートル。コンパクトでありながらH&Mの世界観を感じられ、かつ、ウィメンズ、メンズ、(ヤング向けの)DIVIDED(ディバイデッド)、ベビー・キッズのフルコンセプトを扱えるように、特別なレイアウトを開発。マネキンは使用しない一方で、入店してすぐのメインエリアや様々な場所に設置した大型サイネージでイメージ発信を行っている。

――銀座には再出店になりましたが、同じエリア内に2号店、3号店などを出店していく考えは?

ポクシンスカ社長:2018年に銀座店を閉店してから、常に再出店の可能性を模索してきました。コロナ禍によって来街客数がかなり減った時期もありましたが、それも戻りつつあり、今が素晴らしい店舗をオープンするのに最適なタイミングだと思って決定しました。2号店、3号店というのも、銀座にはそれだけのポテンシャルがあると思います。ハイストリートで店舗を継続していくのは難しいことでもありますし、コロナ禍でクローズした店もありました。銀座はラグジュアリーブランドが強い場所で、ファッション志向のお客さまが多い場所です。私たちは、ファッション性の高い商品をアフォーダブルに提供しているので、銀座のお客さまとの相性も良いと思っています。チャンスがあれば検討していきたいと思っています。

銀座2丁目の並木通り沿いにオープンしたH&M銀座並木通り店。目の前をファッションコンシャスな人々や高級車も多く通行していく
銀座2丁目の並木通り沿いにオープンしたH&M銀座並木通り店。目の前をファッションコンシャスな人々や高級車も多く通行していく

――1年前のインタビュー時に、日本市場に向けたローカライズを強化していくとおっしゃっていましたが、現在の進捗状況は?

ポクシンスカ社長:ローカライズは継続して強化しています。好まれるスタイル提案も増やしています。昨年の秋冬から、日本フィットの商品をデザイン・販売したりもしています。ゴールデンウィーク商戦に向けて、モデルの水原希子さんとコラボレーションしたコレクションも投入しました。

2階のウィメンズフロア。アジアフィットや日本で企画・デザインした商材も投入している。日本企画で開発したモデルの水原希子とのコラボコレクション(左)も販売中だ
2階のウィメンズフロア。アジアフィットや日本で企画・デザインした商材も投入している。日本企画で開発したモデルの水原希子とのコラボコレクション(左)も販売中だ

――コーヒーショップが日本初登場となりました。スウェーデンには「お茶とオヤツの時間」として「フィーカ」の習慣があります。アネタ社長流のフィーカは?

ポクシンスカ社長:スウェーデンではシナモンロールやクッキーとコーヒーを楽しんでいました。日本に来てからは、オモチが気に入っています。お茶だけでなく、コーヒーとオモチ、けっこう合うんですよ!

ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表

「日本繊維新聞」の小売り・流通記者、「WWDジャパン」の編集記者、デスク、シニアエディターとして、20年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。「ザラ」「H&M」「ユニクロ」などのグローバルSPA企業や、アダストリア、ストライプインターナショナル、バロックジャパンリミテッド、マッシュホールディングスなどの国内有力企業、「ユナイテッドアローズ」「ビームス」を筆頭としたセレクトショップの他、百貨店やファッションビルも担当。TGCの愛称で知られる「東京ガールズコレクション」の特別番組では解説を担当。2017年に独立。著書に「ユニクロ進化論」(ビジネス社)。

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