ブラピとアンジーの親権裁判から考える 「親権争い」が日本で増加しない背景
1 ブラピ、アンジーの親権を巡る裁判
ブラピの愛称で知られるアメリカのハリウッド俳優ブラッド・ピット(57)とアンジーことアンジェリーナ・ジョリー(46)は2014年に結婚し3児をもうけたものの、2019年に離婚。養子と実子を合わせると二人の間には6人の子供がいます。
子煩悩で知られたブラピとアンジーですが、現在、子供達の親権と養育権をめぐって、5年もの長きにわたり裁判所にて熾烈な争いを繰り広げています(長男で養子のマドックスはすでに成人しているため、親権をめぐる争いは、長男以外の5人の子供に関して行われています)。
https://news.yahoo.co.jp/articles/19dacc6f8daf4a16f3be0db369798ccf806c66b1
2 海外の親権制度について
親権をめぐる法律は、世界各国でそれぞれ異なります。
今回の舞台はアメリカですが、アメリカにおける親権の特徴は、概ね以下の通りです。
https://amview.japan.usembassy.gov/children-and-divorce/
アメリカ大使館公式マガジン「アメリカンビュー」によると、アメリカでは、離婚後の子供の親権については、各州の法によって規定されています。
子供の親権は、その子供の最善の利益に基づいて行われ、父親と母親は基本的に同等に扱われます。
また、アメリカでは「共同親権」と面接交渉付きの「単独親権」という選択肢があり、すべての州が共同親権を子供の養育の選択肢として規定しています。
3 日本とアメリカの親権の仕組みの違いとは⁈
では、日本とアメリカの親権の仕組みの違いはいったいどこにあるのでしょうか?
それは何と言っても、アメリカでは「共同親権」が認められているということでしょう。
共同親権制度下では、離婚しても父親と母親は共同して親権を行使し、父母が対立した場合には、仲裁者や調停者が調整に当たるほか、裁判所が判断をします。
ただ、共同親権制度においては、離婚に至るまで争いが絶えなかったような高葛藤(険悪な状態)の夫婦が共同して親権を行使することは難しいのではないか、といった問題点が指摘されています。
特に配偶者にDVや児童虐待などの問題があり離婚したケースでは、離婚しても相手と縁が切れず、さらに危険にさらされる恐れがあると指摘されています。
一方、日本では「単独親権制度」が取られていますが、この目的としては、離婚後も共同親権が続いた場合、子が対立する父、母の間で板挟みになってしまい不利益をこうむることを防止する、ということであろうと考えられます。
しかしそもそも単独親権制度は、家父長制から来ているとも言われています。
かつての厳格な家父長制の下では、離婚すれば家の長である父親が子供を育てるのが当然であり、母親は子供を置いて家を出るといった選択をせざるを得ませんでした。
そのような伝統から、日本では単独親権制度が取られており、男女平等がうたわれる現代においても改正されることなく存続している、ということではないかと考えられるのです。
単独親権制度下では、離婚をする際には父母のどちらかを親権者と定めなければなりません。
これは、親権者とならなかった側の親にとっては、大変に苛酷な制度です。
親権者になれるかなれないかで、子供に対しての関わり方が180度変わってきます。大袈裟ではなく、親権者になれなかった場合には子供に長期間会えないということも十分あり得るのです。
日本において、裁判所における子供の監護に関する審判や調停の件数が増加傾向にあるのも当然でしょう。
また、子供の連れ去りやDVのねつ造といった問題も実際に起こっています。
ただ、その一方で日本では、親権をめぐってとことん争う男性はまだまだ少ないように思います。
と言うのも、日本では、親権や監護権をめぐってはまだ圧倒的に母親が有利であるという厳しい現実があるからでしょう。
その意味で日本の裁判所は、アメリカのように「父親と母親は同等に扱われる」わけではなく、母親優位の原則から脱しきれていないと言わざるを得ません。
離婚相談に来られた男性がよく言われるのは、「そりゃ僕だって、子供の親権はできるものなら取りたいですよ。子供と離れるなんて考えられない。でもネットで調べたら、日本では圧倒的に父親が不利なんですよね?それに実際に親権を取ったとしても、会社はそんなに休めないし、どれだけ面倒を見られるか…。やはりあきらめるしかないですよね…」といったご相談です。
つまり、母親が有利という現実を知り、闘う前からあきらめモードの男性が多いため、親権争いは現実問題、爆発的に増加はしていません。
4 なぜ単独親権制の下では男性は親権を取りにくいのか?
大きな理由としては、親権を決める際に重視される要素として、継続性の原則があるためです。つまり、子供の利益を考えると、現在の子供の養育環境を継続させるべきだという根強い考え方が裁判所にあります。
日本では、社会構造上、母親が主体となって子供の面倒を見ている家庭が多いため、どうしても外に仕事に出ている男性は不利にならざるを得ません。
そのような理由で、男性は親権を取りにくいという現実があるのです。
実際の調停や裁判では、親権よりむしろ、面会交流や養育費が争いのメインになることの方が圧倒的に多いと感じます。
親権が無理ならせめて面会交流だけでも確保したい!という考えからです。
ただ、その面会交流ですら、コロナ禍のなかで、益々厳しくなっているのが現状です。コロナが怖いからという理由で、楽しみにしていた面会交流の日程を一方的にキャンセルされてしまったというケースは今年になって益々増えています。
しかし、男性が親権を獲得しているケースも勿論多数あります。
その際にポイントとなるのは「家庭裁判所調査官の調査報告書」です。
5 家庭裁判所の調査官の役割とは
各家庭裁判所には「家庭裁判所調査官」が配置されているのを御存じでしょうか。
家裁の調査官は、裁判所から子の意向や監護状況を調査する命令を受け、「子供に関する事実の調査」、すなわち「子の意向調査」「子の監護状況調査」「親権者としての適格性調査」など、子の意思を把握する調査をし、裁判官に報告します。
つまり、家裁の調査官は、子の意向調査ができるのです。
具体的な方法としては、①面接、②家庭訪問、③家裁児童室における観察、④発達検査、審理テストを行います。
心理学・社会学・教育学などの人間関係諸科学の知識と技法を専門とする家裁の調査官が作成した「調査報告書」は親権や監護権を決める際に、非常に重要な意味を持ちます。
原則として、親権や監護権を決定する際の家裁調査官の調査報告書には、裁判官に与える心証としては決定的と言っていいほどの影響力があります。
弁護士としては、事前にさまざまな弁護活動をしている中で、家裁の調査官の報告書は正直なところ、ものすごく気になります。家裁の調査官の報告書を見て、今後の方針を定めることもあるのです。
いわば、家裁の調査官は、日本の単独親権制度の下、親権を決定する際の家裁のキーパーソンと言っていいでしょう。
5 まとめ
前述した通り、日本においてはブラピ、アンジーの裁判のように、親権を争い何年も裁判が続くような事例はまだ少ないですが、それは日本が先進国では珍しい「単独親権制度」を定めていて、現状、母親が圧倒的に優位となっているためと考えられます。
しかし、今年2月に上川陽子法相が離婚後の面会交流、親権制度の見直しを法制審議会に諮問しており、今後ますます議論が活発化すると思われます。
その中でも、一番忘れてはいけないのは、「子供の気持ちはどうなのか?」ということであり、「子供を最優先に考える」という子供ファーストのスタンスではないでしょうか。
どのような親権制度を取るにせよ、子供の福祉を第一に考えるという姿勢を忘れてはいけないと思います。