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【特別養子縁組】「出自を知る権利」記録を一元管理する中央機関と専門職の支援が必要

若林朋子北陸発のライター/元新聞記者
特別養子縁組において「出自を知る権利」を誰が子どもに保障するのか?(写真:アフロ)

 日本財団は4月4日「養子の日」に、「養子縁組記録の適切な取得・管理及びアクセス支援に関する研究会」(座長:林浩康日本女子大教授)が取りまとめた内容を報告、「養子の出自を知る権利を保障するためには縁組記録の一元管理が必要」と提言した。同日発表されたのは「縁組に関する情報の取得・管理・開示の主体となる中央機関を設置して、それらを担う専門職を置く。養子が情報を求めた際に支援・ケアをするなどの体制整備が必要である」という内容。生殖補助医療や内密出産にも言及された。子どもの「出自を知る権利」とは、どうあるべきなのか。

日本財団は4月4日「養子の日」に「養子縁組記録に関する提言報告会」を開催した(日本財団提供)
日本財団は4月4日「養子の日」に「養子縁組記録に関する提言報告会」を開催した(日本財団提供)

 養子縁組記録とは、児童相談所(児相)や民間あっせん事業者が持つ個々の記録や、裁判所の調査報告書、審判書、児童養護施設でのケース記録などを指す。生みの親の情報や縁組の経緯などを知る手掛かりとなる。

 現状の課題として、養子が成長して記録をたどろうとしてもたどり着けなかったり、記録があることすら知らなかったり、入手できても知りたい情報が書かれていなかったりすることが挙げられる。

 4月4日に開かれた「養子縁組記録に関する提言報告会」では、主催者である日本財団常務理事の吉倉和宏さんが「養子縁組記録は重要であり、どこから来て、どういうことが(身の上に)起こったかを知ることは養子が生きるよりどころである。『出自が分からない』という状況を自分ごととして考えてほしい」と挨拶。続いて公益事業部の新田歌奈子さんが、これまでの財団の取り組みや、研究会を設置した背景を紹介した。

「ベビーライフ」事業停止で養親が不安に

 研究会は、養子縁組のあっせんをしていた一般社団法人「ベビーライフ」(東京都東久留米市)が2020年夏に事業を停止し、縁組記録を東京都に預けた後、代表が連絡を断ったため、養親が「子どもの出自が分からないのでは?」と不安を訴えたことを受けて発足した。2021年10月6日を第1回とし翌年3月2日まで6回にわたって検討会を開き、縁組記録のあり方に特化して論議を重ねてきた。主な委員の皆さんの顔ぶれは次の通り(事務局担当者の氏名は除く。メンバーは全19人)。

▽研究者 阿久津美紀(目白大助教)姜恩和(目白大准教授)徳永祥子(立命館大准教授)林浩康(日本女子大教授)※座長

▽当事者 石井敦・佐智子(養親、里親)橘高真佐美(養親、弁護士)竹野ゆり香(養子)みそぎ(養子縁組家庭支援団体「Origin」代表理事)

▽あっせん団体 石川美絵子(社会福祉法人日本国際社会事業団常務理事)

▽自治体 河野洋子(大分県福祉保健部こども支援家庭課長)福井充(福岡市こども家庭課こども福祉係長)

▽日本財団 新田歌奈子(公益事業部国内事業開発チーム)

※参考

・【特別養子縁組】養子がひとりで悩まず「生みの親は誰?」と聞ける仕組みづくりを ルーツ探し支援へ研究会

https://news.yahoo.co.jp/byline/wakabayashitomoko/20211021-00264097

縁組記録を「隠す」から「開示する」へ捉え直す

 1988年から行われている特別養子縁組の戸籍には養子と記載されず、生みの親の氏名なども書かない配慮がある。これにより離別した母子の事情が漏れにくい利点はあるものの、子どもの「出自を知る権利」の保障を阻む一因となっている。また、家庭裁判所の縁組記録は開示されても黒塗りの部分があり、児相やあっせん事業者の記録内容にはばらつきがある。このような背景を踏まえた検討は、縁組記録を重視し、「隠すもの」から、子どもの知る権利を尊重し「(本人の意向に沿って)開示するもの」と捉え直す機会となった。

「社会的養育の推進に向けて」(2021年5月、厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課)より
「社会的養育の推進に向けて」(2021年5月、厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課)より

 提言発表については以下の通り、林さんの発言をそのまま記す。養子・養親はもちろん、それ以外の当事者、つまり「子どもを他者に託す生みの親」の抱える事情や心境を深く理解できると考えるからだ。

     ◇    ◇

 民間のあっせん機関の廃業によって、「出自を知る権利」の権利保障の不十分さが露呈しました。そこで研究会では権利を守る上で記録に焦点化しました。ただ、時間的な制約から、児童相談所や民間のあっせん団体の記録に絞って課題を出し合いました。したがって、児童養護施設・里親・家庭裁判所や医療機関等の記録は含みません。これらは継続的な次の検討課題と考えていただきたいと思います。検討事項としては①記録の取得②記録の管理③アクセス支援があり、③については「養子当事者がどうアクセスすべきか」と「対応する機関がどう開示していくか」について検討しました。出自を知る権利を保障する基盤整備のため、提言には六つのことが書いてあります。

・基盤整備のための提言内容

(1)「出自を知る権利」の国内法における明文化

(2)記録の取得、管理、アクセス支援に関連するガイドラインの策定

(3)子どもの出自情報の取得・管理・アクセス支援を統括する国レベルの中央機関の設置

(4)中央機関における記録の一元管理

(5)情報管理統合システムの構築と運用

(6)記録の管理に関する専門職の育成・配置

「子どもの権利条約」においては「父母を知る権利」が規定されており、それを「生い立ち」や「出自を知ること」としています。「出自」とは何を知ることなのか。権利を保障するためにどんな体制が必要か。そのために法律……(1)とガイドライン……(2)が必要であり、実務的なことを担いつつ、統括的に監督役割を果たす国レベルの中央機関を設置すること……(3)が望ましいと思います。

 中央機関の大きな役割の一つに記録の管理があり、あっせん機関が廃業したら引き継ぐのではなく、普段から共有して一元的に管理しておくことが必要……(4)という問題意識からです。今後、記録を電子化して管理するシステム構築が必要……(5)と考えます。諸外国の事例などを参考にしながら、管理するための専門職の育成や現場への配置が必要です。海外ではアーキビスト(専門職)が役割を担っており、日本でも育成は大学院レベルで行っています。これらの体制をどうするか……(6)を考えるべきです。

「産んだ親」として証を残すことの必要性

 続いて各論的に、三つのテーマについて出された意見を紹介します。まず①記録の取得については実親の支援とセットで考えることが研究会の合意事項です。わが子を「養子縁組に託すか」「自ら育てるか」と迷い、意思決定がなされる前の段階から記録の取得に関わっていくのです。養子縁組に託すことは大きな喪失感を伴います。喪失体験や生育歴に被害体験を抱えている実親も多く、実親の中には妊娠や出産を「なかったことにしたい」という人もいます。ただ、子どもの利益のために、子を託した実親に敬いの精神を持ち、子のためにどうすべきかを実親とともに考える心理教育的な支援や、産んだ親としての証を残していくことの必要性を実親に説明し、そこから開示に向けての同意を取ることが必要ではないでしょうか。

 記録すべき内容として何が必要か。特にエピソードや気持ちが検討会では大切にされました。妊娠・出産のエピソード、委託時の気持ちなど、何気ない情報が、実は養子にとって大切なのだということが印象に残っています。

 記録となると文字媒体ばかりで残すことを考えがちですが、養子当事者からは「録画や録音したデータをそのまま見聞きしたい」という声もありました。「フィルター」を通さずに生の声を聞きたいと。今後、電子化の流れの中でクラウド保存するなどの方法も視野に入れ、声や画像は劣化しないので、こういったものも含めて記録媒体を考えるべきであると思います。

「養子縁組記録に関する提言」について発表する座長の林さん(筆者撮影)
「養子縁組記録に関する提言」について発表する座長の林さん(筆者撮影)

 ②記録の管理については、中央機関が何らかの法人格か、行政の直轄とし、中央機関が一元的な管理を役割として果たしてほしいです。専門職に関しては現在、国立公文書館のアーキビスト認証要件として認定を受けた大学院が数カ所あります。認定を受けた専門職の研修なども担っていくことが考えられると個人的には思います。

 そして③アクセス支援については、養子当事者が記録にアクセスするためには、そもそも自分が養子であると認知していることが大切です。その前提として真実告知(養子であることを子どもに語る)や、ライフストーリーワーク(生い立ちを振り返る)などの機会を、養親を通じて提供していくことが求められます。養親だけがそれを担うのは責任が重いと考える場合、支援者との共同作業が必要です。そして養子当事者が記録にアプローチする上で、記録へのアクセス権があることの啓発と、どこに行って何をすべきかを養子に伝える必要があります。

「ネガティブな情報でも知りたい」という声も

 開示支援では検討課題が、まだ残っています。どういう体制でどんな支援が必要か、子どもの福祉を害する情報は諸外国では一定のコントロールを効かせていますが、養子の中には「いかなるネガティブな情報でも知りたい」という声もあり、一律に抑制するのではなく、当事者の成熟度や興味・関心などを勘案しながら柔軟に対応することが必要になります。

 開示請求者に関しては「養子のみであるべき」「養親も認めるべき」などの意見があり、韓国など海外の事例を参考に考えていただきたいと思います。「年齢要件はどうあるべきか」「養親の同意は必要か」も課題です。例えば、養親との関係が悪化していることもあるので、一律に同意を求めるべきではないという声もありました。

 政府は2021年、「民間あっせん機関による養子縁組のあっせんを受けて養子となった児童に関する記録の保有及び当該児童に対する情報提供の留意点について」という通知を出しており、個人情報保護法との整合性を考慮して策定されていたわけですが、個人情報に関する部分は、同意がないから一律に開示されないことは子どもにとって不利益があると養子当事者から指摘されました。

 今後、養子縁組に限らず、生殖補助医療や内密出産についてもテーマとして挙がっています。医療技術を用いて第三者から提供された配偶子により生まれた子供の出自を知る権利については、公的機関を設置して管理、検討することを求める提案書を日本産婦人科学会が2022年2月に提出しました。また熊本県の慈恵病院で初の事例があった内密出産についても、子どもの出自を知る権利が大きく関わっています。このような国内の動向も踏まえ、養子縁組した子どもの出自を知る権利について一層、議論を深めることが望まれます。

     ◇    ◇

特別養子縁組は10年間でほぼ倍増

 2016年の改正児童福祉法では、何らかの事情で生みの親と暮らさない子どもは原則、家庭で育てることが国や自治体の責務であると定められた。現在は約8割の子どもが施設で生活しているが、国は家庭での養育を推進している。また2020年には特別養子縁組における養子となる者の年齢の上限を「原則6歳未満」から「原則15歳未満」に引き上げた。このような背景もあって全国で成立した特別養子縁組は2010年に325件だったが、2019年には711件と10年間でほぼ倍増している。

「社会的養育の推進に向けて」(2021年5月、厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課)を基にYahoo!ニュースが作成
「社会的養育の推進に向けて」(2021年5月、厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課)を基にYahoo!ニュースが作成

※全国の養子縁組あっせん事業者一覧

https://nf-kodomokatei.jp/adoption/intermediary/

 特別養子縁組家庭が今後も増えていくと考えられる状況で、「出自を知る権利」をどう保障していくべきか。養子縁組に限らず、考えるべき課題であると思う。発表の最後に言及された生殖補助医療については、精子や卵子の提供という技術を用いる場合のルールが法律では定められていない現状の中、日本産科婦人科学会が今年2月に、第三者の精子提供で不妊治療を行う施設の管理や、出自を知る権利の問題などについて国が公的機関を設置して管理・検討するよう求める提案書を提出した。学会や当事者も含めて議論を深め、新設されるこども家庭庁に公的機関を設置するよう求めている。

 内密出産はドイツを発祥とする制度で、妊娠や出産を知られたくない女性が相談した機関だけに実名を明かして出産する。母親の身元が分かる情報は国の機関で保管され、子どもが16歳になれば知ることができる。日本では熊本市にある慈恵病院(蓮田健院長)が2019年に、危険な自宅出産や新生児遺棄・殺害を防ぐ目的から独自に内密出産を導入。2021年12月、熊本県外の10代女性が同病院の相談室長にだけ身元を明かして出産、国内初の「内密出産」の事例となった。

「出自を知る権利」を誰が保障するのか

 養子縁組、生殖補助医療、内密出産に共通する課題は、「出自を知る権利」を誰が子どもに保障するのか、という点である。「産んだけれど、育てられない」「産めないけれど、育てたい」という状況において、さまざまな葛藤があったはずである。大人たちの決断を後々、子どもが無理なく受け止められるよう、十分な情報があったらいいと考えられる。そのためにどのような記録が必要であり、誰が、どうやって管理・開示していくのか。福祉、医療、行政、教育・研究などさまざまな職種の大人たちが、子どもの意見を聞きながら検討していくことを願ってやまない。

※「養子縁組記録に関する提言報告会」の後半の原稿はこちらです。

・【特別養子縁組】どこでマッチングされても同じ質と量の支援が必要

https://news.yahoo.co.jp/byline/wakabayashitomoko/20220421-00292365

※参考

・日本財団ホームページより「子どもたちに家庭をプロジェクト」

https://nf-kodomokatei.jp/about/

北陸発のライター/元新聞記者

1971年富山市生まれ、同市在住。元北國・富山新聞記者。1993年から2000年までスポーツ、2001年以降は教育・研究・医療などを担当した。2012年に退社しフリーランスとなる。雑誌・書籍・Webメディアで執筆。ニュースサイトは「東洋経済オンライン」、医療者向けの「m3.com」、動物愛護の「sippo」、「AERA dot.」など。広報誌「里親だより」(全国里親会発行)の編集にも携わる。富山を拠点に各地へ出かけ、気になるテーマ・人物を取材している。近年、興味を持って取り組んでいるテーマは児童福祉、性教育、医療・介護、動物愛護など。魅力的な人・場所・出来事との出会いを記事にしていきたい。

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