銭湯で接客中のスタッフの目を盗み、受付をすり抜けて「無銭入浴」 何罪か?
東京の銭湯で接客中のスタッフの目を盗み、券売機で入浴料を支払わずに受付をすり抜け、「無銭入浴」に及んで逃げたとされる男が話題だ。シンプルな事件だが、適用する罪名の選択に頭を悩ますケースといえる。
男の弁解は?
報道によれば、次のような事案だ。
「29日正午すぎ、スタッフは受付で、客の対応をしていた。もう1人客が来た次の瞬間...。白いTシャツに半ズボンを着た男が、入浴券を買うそぶりも見せず、男湯に入っていった」
「次に男が現れたのは14分後、2階にある休憩室だった。男は、お風呂に入ったとみられる。入ってくる時、首につけていたアクセサリーがなかった」
「男は、1分もしないうちに立ち上がり、1階に下りた。受付の横をすり抜けるように、そのまま出て行ってしまった」
「従業員が出て行った男に声をかけると、『忘れ物を取りに来ただけ』と言って、男は自転車で走り去った」
スタッフは男が受付をすり抜けて入場した後、不審に思い、すぐに警察に通報したが、警察官が到着する前に男に逃げられた。男はかなり手慣れており、ほかの銭湯などでも同様の犯行を繰り返しているのではないか。
人をだましたといえるか?
警察は詐欺の疑いもあるとみて、男の行方を捜査しているという。詐欺罪は現金などの「財物」を得た場合と、サービスなどの「財産上の利益」を得た場合とに分かれる。
今回の事件は、本来なら入浴料の支払いを要するのに、これを免れて入浴という利益を得たことになるから、後者に関するケースだ。
しかし、男をこの詐欺罪に問うのは困難だ。人を欺いて錯誤に陥らせ、財産上の利益を処分させ、これを得たといえなければならないからだ
男は入場時にスタッフと何らやり取りをしておらず、その目を盗んで受付をすり抜けただけだから、人をだましたとはいい難い。
銭湯を出た後、スタッフに声をかけられた際に「忘れ物を取りに来ただけ」と嘘をついて逃げたが、スタッフはだまされておらず、これで入浴料の支払いを免除したわけでもない。
無罪放免ではない
もっとも、男が無罪放免になるかというと、そうではない。この銭湯は入浴料を支払った客だけが入場できるシステムだから、スタッフに黙って勝手に男湯に入り込んでいる以上、建造物侵入罪が成立する。
「忘れ物を取りに来ただけ」という話は嘘だし、真実ならスタッフに一声かければ済むわけだから、「正当な理由」など認められない。最高刑は懲役3年、罰金だと10万円以下だ。
今回のような事件は、街なかの銭湯だけでなく、客でごった返す人気のスパ施設や温泉地の大型旅館などでも起こる。
神戸の有馬温泉にある有名な旅館で、スタッフの目を盗んで宿泊客限定の浴場に入り込み、温泉を満喫していた男が建造物侵入罪で現行犯逮捕された例もある。
似たパターンの事件が、ホテル内にある宿泊客限定の朝食会場に入り込み、勝手に食事をするケースだ。
先月23日にも、出雲市内のホテルの朝食ビュッフェで総額200円ほどのヨーグルトなどを勝手に食べ、スタッフに声をかけられて逃げた男がいたが、防犯カメラの映像などから特定され、建造物侵入罪と窃盗罪で逮捕されている。
今回の事件も、被害額こそ入浴料に相当する470円だが、このまま男が出頭しなければ、逮捕もありうるかもしれない。(了)