「ごみランチ」に学生は大満足?ノルウェーの大学食堂の食材再利用ビジネスが好評
オスロ大学の「グルメをやめよう」カフェ
お昼の12時、北欧ノルウェーにあるオスロ大学の食堂前「クット・グルメ」には、長蛇の行列ができていた。この食堂はノルウェーの教育現場では、初となるプロジェクトに挑戦中。市内の飲食店で捨てられるはずだった食料を集め、学生にランチとして提供しているのだ。「サステイナブルなカフェ」、「“ごみランチ”でも、大学生は大満足」と国内の大手メディアからの注目度も抜群だ。
「クット・グルメ」は「グルメはやめよう」という意味。ポップアップカフェとして4月21日から3週間という期間限定で開催されている。オープン時間は12〜14時、先着200名のみランチプレートを購入可能だ。
飲食店で捨てられるはずだった、推奨期限切れの食材
食材は、国内の大手スーパーマーケット、食肉販売店やカフェで売れ残り、捨てられるはずだった食料。その多くは、「この日までに最も良い」とされる期限が切れたものばかりだ。毎日、飲食店からは異なる食材が届き、営業日の前日か当日に、調理人が集まった食材でレシピを考える。日によって、メニューはピザ、パスタ、ハンバーガーとさまざまだ。なにより、価格が安い。
ランチはコーヒー1杯分の格安価格480円
物価の高いノルウェーでは、オスロ中心地ではランチは150ノルウェークローネ以上(約2400円)、大学の食堂でも85ノルウェークローネほど(約1400円)が平均価格。コーヒー1杯分に相当するクット・グルメの1皿30ノルウェークローネ(約480円)は、現地では考えられないほどの格安価格といえる。オスロの人気パン屋から提供されるパンは、おかわり自由だ。
20%の食材が毎日ゴミとなるノルウェー
私たちは、食べ物を毎日どれだけ無駄使いして、捨てているのだろうか? 国の将来を担う若い学生に意識喚起をするには、効果的な手段といえるだろう。オスロの学生のための福利厚生団体SiOの食事部門のディレクターであるペール・クリステンセンさんによると、ノルウェーでは、食料生産量の20%が毎日ゴミとして捨てられている。
学生の意識を変える新ビジネス
「金銭的に余裕のない学生に、できる限り安い価格で食事を提供」しながら、同時に「良質な素材をノルウェーの人々はたくさん無駄使いしていることを考えてもらう」ための、ビジネスコンセプトをつくりたかったと語る同氏。飲食店から無料で食材を提供してもらう分、学生に支払ってもらうのは、食堂スタッフへの労働賃金のみ。
200皿は35分で完売
2時間限定の営業時間だが、店の前にはオープン前から行列ができ、200皿は早いと35分で完売する。販売数が限定されているのには理由がある。カフェをオープンしても、学生に受け入れられるかどうか、飲食店がどれほど協力してくれるかどうかが分からなかったこと。また、売れ残りは避けたかったために、試験的に試す必要があったという。
ノルウェーの全ての大学にあるべき食堂
「こういう食堂があったら、毎日でも来るわ。安いし、おいしい。今まで深く考える事がなかった食料についても、友人と話すきっかけになる。このお店は、ノルウェーの全ての大学にあるべきだと思うわ」と話すのは、マリア・ドランゲイドさん(25)。オスロ大学大学院のノルウェー文学学科に通う同級生4人と、おいしそうにクリームパスタを食べていた。
「ここまでポジティブな反応が、学生やメディアからくるとは思っていませんでした。 学生も生産者も、“もう売れないもの・食べられないもの”の考え方を根本から見直し、バリューチェーンをゼロから変革させられれば。来学期には、期間限定ではなく、キャンパス内に本格的にお店をオープンさせる計画も視野にいれています」とクリステンセン氏は語る。
Photo&Text: Asaki Abumi