全体では27.5%…「財政健全化」は実際にどれほど望まれているのか
「財政健全化」を強く望む層は
政治や経済の論議の中でよく話題に上がるのが「財政健全化」。「プライマリーバランスの改善、黒字化」とも表現され、国そのものの収支勘定において入るお金(税収)と出ていくお金(公的事業への支出)を均等化しようとするもの。現状では税収だけでは不足する分を国債の発行でまかなっているが、それはよくない、均等化こそが健全な状態だとし、税収を増やす・公的支出を減らして調整しようとの話だが、この「財政健全化」を多くの国民が切に願っているとの言及もある。実態としてはどの程度の割合で望まれているのか、優先順位は高いのか。内閣府が2024年3月に発表した、定点観測的に調査を行っている「国民生活に関する世論調査」(※)の内容から確認する。
最初に示すのは直近年分の政府への要望の一覧。提示された選択肢の中で「財政健全化」は27.5%の人が要望している。順位としては12番目。上位には「物価対策」「景気対策」「医療・年金などの社会保障の整備」「高齢社会対策」などが並ぶ。
喧伝される勢い、声の大きさからすれば、意外な値には違いない。
この「財政健全化」を求める声の大きさをいくつかの属性別で見たのが次のグラフ。回答者の居住地都市規模別と男女・年齢階層別で区分したもの。
回答者の居住地都市規模別ではおおよそ人口密集地ほど高い値が出る傾向があるようだ。大都市では30.8%もの値が出ている。
男女別では男性の方が高く、年齢階層別では18歳~30代で低めの値が出るものの、40代以上では高年齢ほど高い値が出るように見える。一番高い値を示しているのは50代で31.2%。
属性別動向としては「男性」「人口密集地域の居住者」「高齢者」に高めの傾向が出ていることになる。とはいえ、多くても3割強ではあるのが実情。
時代の流れとともに声の大きさは
過去ではいかなる思いが寄せられていたのか。1998年以降の全体値の動向を示したのが次のグラフ。
2010年で大きく値が伸びている。これはグラフタイトルにもある通り、この年から選択肢の記述を「財政構造改革」から「財政健全化の推進」に変更したため。しかしその年の値がピークとなり、以後はおおよそ漸減、そして2018年からは漸増しているのが実情ではある。直近2023年では過去最高の27.5%との値が出ており、留意を要する。
「財政健全化」に関しては国の経済的信用を維持するのに欠かせない、健全化を果たすことは次世代への責務だ、デフォルトの可能性がある、国債こと「国の借金」に頼るのは問題だとの意見が強い。
他方、統合政府の概念で考えるべきだ、「国の借金」の考え方そのものが筋違いである、発行した国債を国の機関である日本銀行が買い取りをする行為は、欧米が経済の立て直しのために似たような事をしているのになぜ日本だけ非難されるのか、収支バランスが崩れたのは主に高齢者向けの社会保障によるものだから、根本的に解決しようとするならその部門を削ることになるがそれでもよいのか、さらに「財政健全化」は国の経済の安定化のために成すものであり、それを成すために経済を弱体化させたら本末転倒ではないかなど、多様な意見がある。
その賛否意見の確からしさはさておくとして。「財政健全化」は国民からの要望としては、優先順位はこのような結果ではある。少なくとも「国民の大きな声として」とは言い難いのが実情に違いない。
■関連記事:
【1080.9兆円、海外保有率6.7%・中央銀行53.8%…日本の国債の保有者内訳(最新)】
【日本は418.6兆円の黒字…主要国の対外純資産額(最新)】
※国民生活に関する世論調査
直近分は2023年11月9日から12月17日にかけて、全国18歳以上の日本国籍を持つ人の中から層化2段階無作為抽出法で5000人を選んだ上で、郵送法によって行われたもので、有効回答数は3076人。回答者の男女比は1440人対1636人、年齢階層別構成比は18-29歳298人・30代352人・40代489人・50代584人・60代579人・70歳以上774人。
(注)本文中のグラフや図表は特記事項のない限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。
(注)本文中の写真は特記事項のない限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。
(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。
(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロではないプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。
(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。また「~」を「-」と表現する場合があります。
(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。
(注)「(大)震災」は特記や詳細表記のない限り、東日本大震災を意味します。
(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。