国際NGOに告発される「日本製」ブラック工場 富士通も告発され条件改善へ
いま、日本の有名大企業が生産を委託する海外の工場が次々と問題になっているのをご存知だろうか。
日本国内ではあまり知られていないが、海外の国際NGOは先進国が途上国で引き起こす労働問題や環境問題を先進国内で暴露し、改善を迫っている。その中には、日本企業も多数含まれているのである。
先進国で消費する多くの製品は第三世界の「ブラック」な労働環境で作られており、世界的にはそれが「消費者の選択」にかかわって、広く問題になっているということだ。
また、日本企業の海外工場で起こっている労働問題は、日本国内の労働問題とも無関係ではない。なぜなら、日本と海外に移転した工場(委託を含む)の労働者は、「競争」させられているともいえるからだ。
例えば、倒産や低賃金にあえぐ日本の繊維産業の背後には、より「安い」バングラディッシュの劣悪な児童労働に、日本企業が業務委託を行っているという背景がある。
このように、海外の日本企業の労働問題は、消費者の選択や失業、ブラック労働と密接に関わっているのだから、日本国内でもっと敏感になって良いはずだ。
そこで今回は、グローバルなサプライチェーンの問題に取り組む「国際NGO」の取り組みを通じて、日本企業の委託先工場での労働問題を紹介していきたい。
「過労死が起こった」という一通のメールが事件の発端に
今回取り上げるのは、日本の富士通が告発され、海外では広く問題となっているケースだ。
2015年11月26日に、ニューヨークに事務所を構え主に中国の労働環境改善に取り組む労働NGO、チャイナ・レイバー・ウォッチ(China Labor Watch)に一通のメールが届いた。
中国の工場で働く労働者の、過重労働で労働者が亡くなったという告発のメールである。そして、この工場が、日本の富士通の生産を請け負っていたのである。
問題が起きていたのは、中国広東省にある晟銘電子(Chenming Mold Ind. Corp)。同社は複数の先進国メーカーの生産を請け負っており、ノートパソコン、パソコン・スマホのケース、スキャナー、コピー機などを生産していた。
メールには、同社の労働環境は劣悪で、一ヶ月に休みが一日もない、徹夜勤務を強制されるといった悲惨な労働環境が綴られていた。
告発のメールを受け取ったチャイナ・レイバー・ウォッチは、さっそく中国にいる調査員をこの工場に派遣して労働環境の調査に着手。調査の結果、様々な中国の国内労働法違反や、過酷な労働の実態が明らかになった。
まず、労働時間が日本の過労死ライン(1か月100時間の残業)を遥かに超えていた。製造ラインの労働者は、朝8時から夜23時過ぎまで働かせられ、月に1日か2日しか休みがない。
金属加工部門の労働者が最も過重な労働に従事しており、1ヶ月で休みがあるのは月1回ある日勤と夜勤が交代するその日だけで、それ以外は「毎日」働いていた。
この部門で働いていた40歳代の出稼ぎ労働者は、ある日胸の苦しみを訴えて工場内の病院に向かう最中に心臓発作で亡くなっている。日本で起これば「過労死」と認定されるような事態だ。
賃金も驚くほど安い。同社の工場で働く労働者の基本給は1か月1510元(現在のレートで約24000円)。これは現地の最低賃金と同じ金額だ。
その上、工場の規則として、製造ラインで2回以上ミスしたりタイムカードの打刻ミスをすると、1回あたり5元が罰金として給料から天引きされた。
そしてある日、8時から働いている労働者に対し、ライン責任者が23:20まで働くよう指示し、拒否すれば警備員を呼んで強制的にラインに戻らせると脅した。その時作っていたのが富士通の製品だというのだ。この労働者は、月165時間も残業させられていたという。
日本の基準から言えば、いつ事故や過労死が起きてもおかしくない水準だ。
CLWはこれらの事実を踏まえて、ネット上で誰でも読める報告書を発表した(「中国の労働条件をますます悪化させるグローバルサプライチェーンの混乱」The Chaos in Global Supply Chain Exacerbates Terrible Working Conditions in China)。
その結果、英語圏の多くの消費者に衝撃を与え、各社に改善が迫られることとなっているのだ(だが、日本の消費者にはほとんど知られていない)。
委託先の有名大企業の責任を追求し、欺瞞を暴露し続ける
だが、NGOの取り組みはそうした「暴露」にとどまらない。
チャイナ・レイバー・ウォッチの活動が特徴的なのは、単に報告書をまとめるにとどまらず、その工場に製造を委託している先進国の有名大企業に具体的な改善を求めて交渉している点だ。
晟銘電子に関する報告書が公表されたのは2016年6月22日。それ以前から、チャイナ・レイバー・ウォッチはヒューレット・パッカード、富士通、ASUS、東芝、IBM、Intel、NEC、ACER、ファーウェイとコンタクトを取り、改善を求めてきた。
そのうち、富士通は5月24日のメールで概ね報告書の内容を認める回答をしている。いわく「2016年5月1日以降、富士通製品の製造ラインにおいては多くの改善が図られたが、労働時間、労働日、労働安全衛生に関して問題が確認された」と。
さらに、富士通側は8月19日の回答のなかで、長時間労働に対応するために「1週間の労働時間が60時間を超えると作業を強制的に停止させるシステムを導入した...6月1日以降、週1日の休みが設けられた...」と改善の報告を行っている。
だが、一見して予測がつくことだが、企業側のこうした報告は、うわべだけのことばかりだ。チャイナ・レイバー・ウォッチは富士通側の対応が不十分だと言うことを突き止め、さらなる追及を行っている。
「1週間の労働時間が60時間を超えないようなしくみを採用したというが、私たちの追加調査では8月に入っても週60時間以上働いている労働者がいたことが確認されている。(8月31日付けのメール)」と。
結局、富士通側は追加の調査を約束することになった。
ところが、チャイナ・レイバー・ウォッチの追及は止まらない。長時間労働の発生の原因は労働組合が不在で、一方的な命令がまかり通っているからだと考え、自主的な労組結成を要求したのである。
富士通側はこの要求も受け入れて労働組合は実際に結成された。
だが、それでも追及は終わらない。これもよくあることだが、作られた労働組合が、実際には会社のいいなりに組合ではまったく意味がないからだ(日本の企業別組合のように・・・)。
チャイナ・レイバー・ウォッチは、今度は作られた組合の選挙方法に不備があったことを追求した。
「晟銘電子は選挙前に労働者に対する説明を行っていません。事前説明なしには労働者はなんのための選挙か理解できませんから、このプロセスに十分に参加しているとは言えません…晟銘電子が第三者機関に依頼し労働者に労働組合についてのレクチャーを行うよう求めます。富士通と晟銘電子がこの提案を前向きに検討することを期待しています。(11月8日付けメール)」
その結果、富士通側はさらに譲歩し、12月2日に「独立機関の監査」や継続的なチェックを約束。現地で選挙を行った際の説明ポスターや、投票の様子を写真に撮って提出してきたという。
以上のように、たった一つのNGOが、富士通のようなグローバル大企業にプレッシャーをかけて、自身の「取引先」の問題に介入させ、労働条件を改善するために「民主的な労働組合」を発足させることまで、実現しているのだ。
グローバルブランドの悪事を暴く
なぜこれほどにまで富士通はチャイナ・レイバー・ウォッチを恐れ、譲歩するのか。それは下請け工場の労働環境が劣悪だとわかれば、ブランドイメージが失墜する可能性があるからだ。
例えば、アメリカの一般大衆紙「USAトゥデイ」は、「イヴァンカトランプ」ブランドの靴製造工場で働く労働者の月収は$352(約3.9万円)と中国労働法の規定を下回り、午前1:30まで働かせられ、パワハラも蔓延しているというチャイナ・レイバー・ウォッチの報告書を引用して取り上げている。
「回答を拒否し続ける史上最悪の工場 The Worst Factory: Still No Response」
他にも様々なメディアがチャイナ・レイバー・ウォッチの報告書を引用して問題化している(「イバンカさんのブランド、時給1ドルの中国工場に依存疑惑-監視団」)そのこともあってか、「イヴァンカトランプ」ブランドは今年廃止に追い込まれた。
他にも、チャイナ・レイバー・ウォッチは最近、世界で初めてアマゾン製品の製造工場に調査に入り、やはり劣悪な労働環境を公にした。アマゾンというとオンラインショッピングのイメージが強いが、KindleやスマートスピーカーのEchoといった家電が中国の工場で作られている。
チャイナ・レイバー・ウォッチはイギリスの新聞「ガーディアン」と連携し、下請け工場が派遣労働者を月80時間以上の残業を命じておきながら、法律の定めよりも低い残業代しか払っていないことを明らかにした(「下請け労働者を抑圧しながら儲けるアマゾン:フォックスコン工場の調査報告Amazon Profits from Secretly Oppressing its Supplier’s Workers: An Investigative Report on Hengyang Foxconn)。
その報告書は世界中のあらゆるメディアで取り上げられ、その結果アマゾンはチャイナ・レイバー・ウォッチに対する手紙で「報告にあるようなアマゾンの調達コードに違反する行為を真摯に受け止めます。アマゾン製品を作る労働者の健康を守る責任が私たちにはあると考えています」とコメントを出している(「アマゾンの下請け企業で不適切な賃金支払」 Workers not paid legally by Amazon contractor in China)。
あのアマゾンさえも改善が迫られるほど、サプライチェーンの労働実態を暴いたチャイナ・レイバー・ウォッチの報告書は影響力があるのだ。
日本企業のサプライチェーンにも監視の目を
富士通が問題化されたように、日本企業のサプライチェーンの労働環境にも多くの問題がある。特に、どんどん賃金の安い地域に工場を移していくファストファッションは要注意だ。
私が代表を務めるNPO・POSSEはブラック企業や過労死問題と合わせて、チャイナ・レイバー・ウォッチやその他の国際労働NGOと連携しながら、こういった日本企業の海外にある下請け・委託工場の労働問題にも取り組んでいる。
冒頭でも書いたように、海外で安く、劣悪な労働条件を許すことは、結局は日本の製造業の労働者を、それらの過酷な労働者と競争させることを意味する。また、当然、日本の産業の空洞化を促進させる。
海外の労働問題への関心を日本国内の人々が持つことは、人道的見地からのみならず、日本社会の改善のためにも必須なのである。
なお、8月26日、チャイナ・レイバー・ウォッチの李代表が初めて来日して、中国の労働問題や先進国大企業の責任についてご講演いただく。グローバル化がもたらす労働問題について関心のある方は、ぜひ足を運んでいただきたい。
グローバル企業とアジアのスウェットショップ 第三世界の労働者を支援する国際NGO
8月26日(日)18:00~
北沢タウンホール ミーティングルーム(下北沢駅徒歩5分)
講師:李強さん(チャイナレイバーウォッチ代表)
https://blog.goo.ne.jp/posse_blog/e/e20a12320913d95285e3a261928cfd30