空軍型CV-22オスプレイの事故率が高くても問題にならない理由
※この記事は2012年8月9日に書かれた「特殊作戦用CV-22オスプレイとMH-53ペイブロウの事故率」の再掲載です。
特殊作戦機同士の事故率比較:MH-53ペイブロウ
オスプレイの事故率は現時点(2012年)で、海兵隊型MV-22が10万飛行時間あたりクラスA事故2件弱であり、海兵隊平均事故率約2.5を下回ります。一方で空軍型CV-22が約13件と極端に悪い数字となっています。MV-22とCV-22の違いはCV-22に地形追従レーダーが付いているくらいで、機体構造は殆ど同じです。両者の違いは任務にあり、CV-22は戦闘捜索救難と特殊部隊の輸送任務を担う特殊作戦機です。
参考としてCV-22オスプレイと同じ特殊作戦任務を行っていた前任機、MH-53ペイブロウの事故率の表です。
ペイブロウは2008年に全機退役しました。クラスAの生涯事故率7.51、最後の10年間で12.34。非常に高い数字となっています。ペイブロウは海兵隊で使っているCH-53Dシースタリオンと基本的に同じで特殊作戦用の装備を付けています。基本構造は変わりません。なお海兵隊のCH-53Dの事故率は以前にも紹介した表※の通りですが、
- MH-53ペイブロウの最後の5年間(FY04~FY08)の事故率 7.40, 同期間のCH-53Dは 4.65
- MH-53ペイブロウの最後の10年間(FY99~FY08)の事故率 12.34, 同期間のCH-53Dは 4.75
空軍特殊作戦軍団のMH-53ペイブロウは海兵隊のCH-53Dシースタリオンより事故率が高くなっています。機体そのものは基本的に同じである以上、MH-53ペイブロウが特殊作戦任務を行う運用上の差という事になります。ベテランパイロットが集められる特殊作戦ヘリコプターですが、それを上回る過酷な任務と猛訓練が課せられているという事なのでしょう。つまりオスプレイも空軍特殊作戦型のCV-22の方が海兵隊型MV-22より事故率が高くなるのも同様の事で、CV-22とMV-22の事故率を分けて考えるのは妥当だと思われます。
MH-53ペイブロウはアフガニスタンで戦争が始まって以降に事故が多発しているのが見て取れます。実戦任務中の事故や訓練の強化が始まった事が原因だと推定出来ます。FY05はクラスA事故こそゼロ件ですがクラスB事故が5件と多いのですが、FY06にCV-22オスプレイが投入され始めて以降、MH-53ペイブロウの事故率が改善していきます。これは後継機であるオスプレイにバトンタッチしてペイブロウは引退が始まったからだと考えられます。ペイブロウは2008年に全機引退を終え、翌2009年からオスプレイ空軍特殊作戦型は本格的な実戦投入が始まります。空軍特殊作戦軍団はこの経緯と事故件数の推移を把握している為、CV-22の高い事故率を問題と思っておらず、特殊作戦用ならペイブロウを含めてこんなものだと認識しているでしょう。
同じ運用条件なら安全性に違いはない
なお特殊作戦機の事故が多いのは激しい訓練と過酷な任務によるもので、事故現場は演習場と戦場に集中します。基地への離着陸や単なる移動での事故は少なく、通常飛行に限った場合は一般機と事故率に大きな差はありません。CV-22とMV-22の基本構造は同一で、事故率の差異は運用の違いから来るものである以上、同じ運用条件ならば安全性に違いはないのです。
追記:CV-22オスプレイは2012年にフロリダで起こした墜落事故から現在まで大事故を起こしておらず、2015年5月現在では10万飛行時間あたりのクラスA事故件数は約7件に改善されています。既にMH-53ペイブロウの生涯事故率よりも優秀な数字となりました。