筑後遠征・その1 球場全体が息を飲んで見つめた伊藤和雄投手の29球《阪神ファーム》
阪神タイガースのファームは22日から24日まで、タマホームスタジアム筑後でソフトバンクとの3連戦を行いました。これが今季最後の遠征で、相次いで現役引退を発表した安藤優也投手と狩野恵輔選手もメンバーに入っています。安藤投手は10月6日の1軍最終戦が引退試合ですが、出身地の大分に近いタマスタで親御さんや地元の方々に見ていただけたらということで、今回は遠征に参加。24日に1イニングだけ投げました。その件については後日ご紹介します。
また狩野選手は、引退セレモニーが行われる27日のウエスタン・広島戦(甲子園)まで「試合に出ますよ。全力でプレーします!」と張り切っていました。試合前の練習でも、キャッチャーミットを持って捕球をしたり、誰かのピッチングフォームを真似したり。その“投球”を受ける小宮山選手が、これまた楽しそうで。安藤投手も狩野選手も晴れ晴れしたような、ほんといい表情ですね。
これまでシーズン終盤に引退を表明した選手は、いわゆる引退試合までもう出場しないことが多かったような気がするんですけど、こうやって見納めができる機会をファンの方々は、とても喜んでいらっしゃいます。もちろん掛布雅之監督についてもしかり。タマスタでは31のナンバージャージを身に着けた方が大勢いらして、スタンドから「掛布さ~ん!」「辞めないで!」という声が飛びました。
マジック2の広島を迎える阪神
さて3連戦の結果は、22日がナイターの上に延長10回までやって引き分け。23日は14時開始だったものの、また延長に突入して今度はサヨナラ負け。どちらも3時間半を超えるゲームです。そして24日も5回を終えて2対2と、前の2試合と同じような展開。しかし7回、8回に点を取られて負けました。よって2敗1分けの最終対戦ですが、通算では16勝13敗1分けと阪神が勝ち越しています。
残るは26日からの広島3連戦のみ。オリックスが24日、一足先に全日程を終了して、あとの4チームが週明けに最後のカードを行うわけです。実はそのオリックスが24日、優勝へのマジックナンバーを2としていた広島に勝ちました。対象の2位・中日は試合がなく、マジック2のまま26日からの阪神戦に臨む広島。一方の中日はタマスタでソフトバンク戦です。
広島は最短で26日の鳴尾浜で優勝決定の可能性もありますが、1軍と同じ甲子園での胴上げも濃厚。まあ、いずれにしても目の前でそれを見るのは間違いないと思いますが、なんと27日と28日の予報が雨になっているじゃないですか。タマスタも降水確率は高め。もし26日に決まらなくて、残り2試合が両球場とも流れてしまったらどうなるのでしょう。いやいや、カープファンの皆様には申し訳ないけど、それよりも掛布監督や狩野選手とのお別れは?…“情”のわからない天気に腹が立ってきました。
伊藤和投手が“支配”したエンディング
前置きが非常に長くなってすみません。タマスタでのソフトバンク3連戦、まずは22日のナイターから詳細をご紹介します。宣言どおりフルスイングの全力プレーだった狩野選手が、2回に放ったタイムリー三塁打で先制!でも5回までに追いつかれて、後半は投手陣による粘り合いです。
特に、9回2死からを0点に抑えきった伊藤和投手の、気迫あふれるピッチングが素晴らしかったですね!グラウンドもベンチもスタンドも、1球ごとに静まり、沸き、それを伊藤投手自身が支配しているような感覚。
10回裏のピンチで伊藤和投手がスッとプレートを外した瞬間に私は思わず息を吐き、それで「ああ…呼吸を止めていたんだ」と気づいたのですが、同じタイミングでスタンドからも「はあ~」という声が漏れました。お客さまも緊張されていたのでしょう。一夜明けてから、掛布監督も「あれはすごかったよねえ!」と言われるくらい、本当にしびれたシーンです。
《ウエスタン公式戦》9月22日
ソフトバンク-阪神 28回戦 (タマスタ)
阪神 030 020 000 0 = 5
ソフ 000 230 000 0 = 5
※延長10回規定により引き分け
◆バッテリー
【阪神】竹安-福永-山本-守屋-高宮-伊藤和 / 小豆畑
【ソフ】大隣(5回)-二保(2回)-岡本(2回)-児玉(2/3回)-野沢(1/3回) / 九鬼
◆本塁打 幸山1号ソロ(竹安)
◆三塁打 狩野(神)、釜元(ソ)
◆二塁打 高山、北條、今成、小豆畑(神) 吉村2、ジェンセン、斐紹(ソ)
◆打撃 (打-安-点/振-球/盗/失) 打率
1]中:高山 (5-1-0 / 0-0 / 0 / 0) .324
2]二:荒木 (5-0-0 / 1-0 / 0 / 0) .225
3]左:キャン (4-1-0 / 0-1 / 0 / 0) .307
〃走左:板山 (0-0-0 / 0-0 / 0 / 0) .203
4]遊:北條 (5-1-2 / 1-0 / 0 / 0) .205
5]一:新井 (4-3-0 / 0-0 / 0 / 0) .299
6]指:狩野 (4-1-1 / 1-0 / 0 / 0) .262
7]三:今成 (4-1-1 / 2-0 / 0 / 0) .244
8]捕:小豆畑 (4-2-1 / 1-0 / 0 / 0) .224
9]右:緒方 (3-0-0 / 1-1 / 0 / 0) .247
◆投手 (安-振-球/失-自/防御率) 最速キロ
竹安 4.1回 69球 (8-5-0 / 5-5 / 2.76) 144
福永 1.2回 14球 (1-1-0 / 0-0 / 3.04) 148
山本 1回 9球 (0-1-0 / 0-0 / 3.02) 138
守屋 1回 12球 (1-1-1 / 0-0 / 5.03) 146
高宮 0.2回 18球 (1-0-1 / 0-0 / 4.86) 138
伊藤 1.1回 29球 (1-3-2 / 0-0 / 1.07) 145
《試合経過》 ※敬称略
打線は2回1死から新井が左前打し、狩野の左中間へのタイムリー三塁打 (センター・釜元が打球を見失ったような…でも記録はヒット) で先制。さらに今成と小豆畑が左中間へ連続のタイムリー二塁打!計3点を取りました。
先発の竹安は1回、先頭の曽根にヒットを許しますが、城所は一ゴロで3-6-1の併殺!次の吉村が二塁打だっただけに、この併殺は値打ちありですね。4番・ジェンセンを三振に切って取り、2回と3回は三者凡退です。しかし4回1死から、吉村にまた二塁打 (打球がレフトフェンス上部にめり込んだ?エンタイトル) を浴び、2死後に茶谷の左前タイムリー、続く釜元には右中間へのタイムリー三塁打で2失点。
でも打線が5回に竹安を援護。小豆畑が右前打、緒方は送れなかったものの高山が右翼線二塁打で1死二、三塁とします。2死後にキャンベルが四球を選んで満塁となり、北條は左越えのタイムリー二塁打!2人を還して5対2と再び引き離しました。と思ったのも束の間で…その裏に竹安は先頭の幸山に1号ソロを浴び、川瀬の左前打と曽根の犠打で1死二塁として城所に左前タイムリー。1点差とされて降板。代わった福永は吉村を打ち取りましたが、2死三塁となってジェンセンの右中間タイムリー二塁打。ついに同点です。
5対5となった6回以降、阪神打線は1安打のみでチャンスすらなし。9回は3者連続三振を奪われています。投手陣も、福永が6回も続投で三者凡退。7回は山本が三者凡退。8回の守屋は2死から四球とヒットで一、三塁としながらも無失点。9回もマウンドで投球練習を行いましたが代打が告げられて高宮に代わり、ヒットと犠打、四球で一、二塁。城所を中直に切って取ったところで、前日のナゴヤでも2イニングを投げた伊藤和が登板。
まず2死一、二塁で吉村を空振り三振!サヨナラを阻止した伊藤和に割れんばかりの拍手と歓声が送られます。その心意気に応えたい打線だったけれど簡単に2死を取られ、投手交代後にキャンベルが中前打するも北條は空振り三振。阪神の勝ちはなくなりました。その裏も続投した伊藤和が、9回よりもさらに大きなピンチを招きます。
先頭の代打・斐紹に初球を打たれ右中間二塁打 (ライト・緒方が飛び込むも捕れず)。茶谷は敬遠気味の四球。釜元のバントを処理した新井が三塁へ送って封殺!ここで高橋コーチがマウンドへ。続く九鬼は変化球で空振り三振!2死一、二塁となって代打・長谷川勇には四球を与えますが、最後は川瀬から空振りの三振を奪って試合終了!伊藤和、気迫に満ちた29球でした。
監督と両投手コーチの談話
掛布雅之監督は竹安投手について「1回に打たれたけど、2回や3回はポンポンときて、50球から60球くらいになって高めに浮いてしまった。ずっと言っていることだけど、勝ちきれないねえ」と話し、伊藤和投手には「そうそう、きょうは彼を褒めないと!イニングまたぎは申し訳なかったけど」と笑顔で本人を見やりました。
久保康生投手コーチも同じく2投手を分析。「竹安はブルペンですごくよかったんですよ。その半面…ってのはよくあること。伊藤和雄、あの場面であのピッチング。醍醐味だねえ。相手に意識させる球があるから、ああいうことができるわけですよ」
また、この日は試合中にマウンドへ足を運んだ高橋建投手コーチから、伊藤和投手に「きのう2イニング投げたことを考慮して、でもいってくれたので。9回はイレギュラーで2アウト二塁からの登板だったけど、よく粘りました。彼は1軍の予備軍ですから。そのための準備をしておいてほしい。緊張感を持ってやってほしいですね」と、期待を込めた言葉です。
成長できる場面、抑えたことを自信に
続いて選手のコメント。最初に、先発の竹安大知投手は「高めにいってしまったのが、やっぱり反省ですね。配球だったりを修正できればよかったんですが…」と4回、5回の失点を悔やみました。
竹安投手の後を受けて登板した福永春吾投手は、同点としてしまった点を「一番は、あの場面でしっかりゼロに抑えることですね」と反省しながらも「1つ1つの球種は良くなってきていると思います。あとはバッターを見てこらの配球を自分でもできるようにしたい。ある程度の予測を立て、一致したら良しという感じで」と先へ目を向けます。
そして、まさに息詰まるピッチングで最後を締めた伊藤和雄投手は「ああいう場面、自分の成長できる場面で投げさせてもらって、いい経験ができました。抑えられたので、それを自信にして続けていきたいですね」とのこと。
小豆畑眞也選手に、9回や10回はやはり緊張したか聞くと「緊張はあまりしていなかったですよ。冷静だったと思います。いい経験になりましたね」と振り返り「結果を出すしかないんで、結果にこだわってやっていきたい」と言っていました。また2回のタイムリー二塁打、5回は同点とする足がかりの右前打と打つ方でも貢献。翌23日も延長10回まで1人でマスクをかぶった小豆畑選手です。
<掲載写真は筆者撮影>