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落合博満が大谷翔平に唯一のアドバイスを送るなら【落合博満の視点vol.76】

横尾弘一野球ジャーナリスト
大谷翔平も落合博満も、バッティングをデリケートに考えているのは共通点だ。(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 ミラクルな活躍を見せ、ナ・リーグ西地区優勝が目前の大谷翔平は、本塁打と打点のタイトルはほぼ手中に収めており、打率も急上昇させているものの首位打者には届かないか。打者に専念したシーズンは、三冠王も狙えるパフォーマンスだが、あらためて打撃3部門のタイトルを独占する難しさを感じさせられた。では、その三冠王を3回も手にし、バッティングについて究めてきた落合博満なら、現在の大谷にどんな助言をするのだろう。

 そもそも落合は、「構えでバットを立てるか寝かせるか、踏み出す足を上げるか摺り足か。そうした動作はすべてフィーリング。自分がスイングしやすいように考えればいい」と語り、若い選手を指導する際にも押しつけるような言い方はしない。そして、「バッティングは時間との闘い。投手が打たせまいと投げ込んでくるボールを、いつでもバットを出せる姿勢で待っていなければいけない」と説く。

 そんな落合は、イチローがヒットメーカーとして脚光を浴びた際にも、振り子打法と呼ばれたフォームに関する是非は語らず、こう解説した。

「私のようにホームランを狙う打者は、いわゆる好球必打が条件になる。でも、イチローはボテボテのゴロでも足で内野安打にできるから、必ずしもストライクをしっかりと打たなくていい。そして、あえてボール球にも手を出すのが私たちとの違いだ。私たちが20世紀のバッティングなら、イチローは21世紀のバッティングだ」

 だが、落合が指摘した“好球必打”というポイントは、近年は「ストライク」から「自分が打てるボール」へとニュアンスを変えている。そして、大谷はしっかりとしたスイングで打球を遠くへ飛ばす落合の要素と、ヒットにできればボール球でも手を出していくイチローの要素を兼ね備えている。

 さらに、機動力も駆使し、メジャー・リーグで前人未到の50-50(50本塁打50盗塁)をクリアしてしまう大谷に、落合が自分からアドバイスすることはないだろう。ただ、大谷がさらなる進化を視野にアドバイスを求めたら、落合が指摘しそうな要素がひとつある。

松井秀喜の本塁打数も大きく伸びたアドバイス

 それは、バッターボックスのどこに立つかということだ。

 現役時代の落合は、バッターボックスでホームプレート寄りの捕手寄りに右足を置き、スクウェアなスタンスを取っていた。

「ホーム寄りに立つのは、対処するのに最も時間のないインハイに立ち遅れないため。捕手寄りに立つのは、投手との勝負で少しでも時間を有効に使うためだ」

 だから、ホーム寄りに立つかどうかは人それぞれととらえ、捕手寄りには立つべきだと考えている。そして、バッターボックスに入ると、自分の足場を入念にならしていた。大谷も「同じ位置に立ち、同じように構えるのが一番大事。球場によってバッターボックスのラインの太さが違ったりするが、それで多少ズレたりすることがないように」と語っている。

 もうひとつ、落合は「立つ位置によってボールの見え方が変わる」ことにも踏み込む。実際、落合は体に向かってくる内角球への反応が少し鈍くなったと感じた晩節に、ややホームプレートから離れて立っている。あるいは、巨人へ入団してから長嶋茂雄監督と「1000日計画」でスキルアップを目指した松井秀喜が、3年目まで特定の球種やコースに翻弄されていることを相談した際、落合はスイングに関しては何も言わず、「バッターボックスで立つ位置を、スパイク半足分ホームから離れてみたらどうだ」と助言している。

 松井の本塁打数は1年目から11、20、22だったが、落合が助言した4年目は38と大きく伸ばしている。同じように、文句なしの活躍を見せる大谷がさらなる進化を求めたなら、落合の目に大谷の立つ位置はどう見え、それで何を感じているのだろうか。

 アマチュア選手を指導する際にも、「その位置にクローズド・スタンスで立ちたいなら、このコースをこちらの方向に打ち返すのがいい」や「もっと強い打球を求めるなら、立つ位置はこうしたらどうだ」と、立ち位置やスタンスをバッティングの特長と関連づけて考える落合が、大谷にどんな助言をするのか興味深い。

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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