Yahoo!ニュース

ただいま東海道新幹線はスピードアップの最中 2019年春版、どの「のぞみ」に乗ると早く着くのか

梅原淳鉄道ジャーナリスト
出発を待つ博多行きの「のぞみ19号」。東京~新大阪間の所要時間は2時間27分だ。(ペイレスイメージズ/アフロ)

日本の大動脈、東海道新幹線での想像を絶する輸送状況

 東京駅と新大阪駅との間を結ぶJR東海の東海道新幹線を2017(平成29)年度に利用した人の数は1億6997万4000人であった。1日平均で46万5682人が利用した計算で、2015(平成27)年に実施された国勢調査をひもとけば46万5699人の人口を数えた石川県金沢市の人々がそっくり移動していることとなる。

 これだけの旅客需要をまかなうため、東海道新幹線には多数の列車が行き交う。土曜日を除く平日に毎日運転されている定期列車を基準に言うと、1日当たりの列車の本数は下り新大阪駅方面が156本、上り東京駅方面が157本の計313本である(表1参照)。内訳は東京~新大阪間を最も早く結ぶ「のぞみ」が164本(下り83本、上り81本)、主要駅に停車する「ひかり」が65本(下り33本、上り32本)、各駅に停車する「こだま」が84本(下り40本、上り44本)だ。

画像

 加えて、東海道新幹線では運転日を定めた季節列車や臨時列車が輸送需要に応じて設定されており、同じパターンで列車が運転される日はまず存在しない。沿線で大きなイベントが行われることとなって指定席券の売上ペースが過去の実績を上回ったときなどは、市販の時刻表類では運転されないことになっている臨時列車がしばしば営業に就く。こうした季節列車や臨時列車を合わせると、東海道新幹線には1日当たり多い日で400本ほど、少ない日でも340本ほどの列車が設定されている。東海道新幹線とは、大量の旅客輸送を超高速かつきめ細かに行う世界にも例を見ない交通機関なのだ。

最高速度の引き上げにより、東京~新大阪間は最大6分短縮される

 いま東海道新幹線は変革のまっただ中にある。2020(令和2)年春の完了を目指して「のぞみ」はもちろん、「ひかり」「こだま」を含めたすべての列車の最高速度が時速270キロメートルから時速285キロメートルへと引き上げられる途上であるからだ。

 最高速度の向上は2015(平成27)年3月14日のダイヤ改正から段階を踏んで実施されている。それまで東海道新幹線で用いられていた車両には700系、N700系、N700Aの3種類が存在していた。これらのうち、時速285キロメートルで走行可能なN700Aへと統一するために置き換えや改造が進められており、2019(平成31)年3月16日のダイヤ改正の時点で時速285キロメートルで運転される定期列車は下り63本、上り66本の計129本と全体の41.2パーセントを占めるようになった。

 最高速度が上がれば目的地までの所要時間は短縮される。東京駅を7時台から20時台までに出発する「のぞみ」は、それまで東京~新大阪間を最速2時間33分で結んでいたところ、現在は6分短い2時間27分が最も速い。朝6時台の早朝そして21時台の夜間の時間帯では最も速くて2時間25分であったところ、2時間22分が最速となった(表2参照)。

画像

 すべての「のぞみ」は東京~新大阪間で品川、新横浜、名古屋、京都の4駅に停車する。車両もすべて時速285キロメートルに対応したN700Aだ。にもかかわらず、東京~新大阪間の所要時間は2時間22分から2時間36分までまちまちで、実に7種類も存在するのには主に2つの理由が挙げられる。

 一つは東海道新幹線の線路にさまざまな列車が短い運転間隔で走っているからだ。列車の運転間隔が最短で2分の東海道新幹線では、後ほど具体例を挙げるとおり、「のぞみ」の直前を停車駅の多い「ひかり」や各駅停車の「こだま」が先行して行く手を阻むケースが多い。JR東海はこうした「ひかり」「こだま」に対し、後続の「のぞみ」に追い抜かれるまでは余裕をもって逃げ切れるよう、順次スピードアップを実施しているが一部にとどまる。2020年春までには「のぞみ」はもちろん、「ひかり」「こだま」の最高速度も時速285キロメートルへと引き上げられるので、先行する列車に左右されて所要時間が短縮できない事例は解消に向かうであろう。

 もう一つは「のぞみ」の運転に際して設けられた余裕の時間の都合によるものだ。実を言うと、「のぞみ」の所要時間はすべての区間で最高速度で走りきってようやく到達できるというものではない。バラストといってレールの下に敷かれている砂利や砕石を交換した直後は速度を落として走行する必要があるので、このような場合でも定時で運転できるよう東京~新大阪間で約5分程度の余裕が設けられているのだ。

 表2をご覧いただくとわかるとおり、東京~新大阪間の所要時間は東京駅・新大阪駅6時台発の早朝や東京駅21時台発、新大阪駅20・21時台発の夜間のほうが東京駅7時時台~20時台発、新大阪駅7時台発~19時台発の日中の時間帯よりも短い。早朝や夜間の時間帯では「のぞみ」に先行する「ひかり」「こだま」の本数が少ないといった理由から、一般にこれらの時間帯の「のぞみ」は自らのペースですいすいと進める。この結果、日中の時間帯に運転される「のぞみ」と比べて余裕を少々削って所要時間は短縮された。

 もっとも、余裕時分の削減は運転士にとってはやっかいらしい。JR東海は、15秒単位で設定された定刻に対してプラスマイナス2秒以内であれば、新幹線の列車が途中駅を定時で通過したと見なしている。「東海道新幹線の運転実績データに刻み込まれた運転士の技量向上・意識向上の軌跡」(谷欣哉、石野雅美、柿内慶久、吉野京太郎、大石康義、「鉄道サイバネ・シンポジウム論文集」、日本鉄道サイバネティクス協議会、2018年11月)によると、列車が定時で通過した割合は2017年3月には約60パーセントであったところ、2018年3月には約55パーセントへと低下したという。同社の見解は「朝夕の時間帯でダイヤの速達化を図ったため」(前掲書4ページ)で、やはり余裕の時間が少ない「のぞみ」の運転は難しいようだ。

 ともあれ、「のぞみ」はもちろん、「ひかり」「こだま」を含めた全列車が時速285キロメートルで走行可能となる2020年春には、東京~新大阪間での「のぞみ」の所要時間も統一されるか2、3種類程度に集約されるであろう。それまでは拙稿を参照のうえ、最適な列車を探してほしい。

■早朝時間帯(東京駅、新大阪駅とも6時台)

・下り

 東京駅を6時00分に出発する博多行きの「のぞみ1号」が2時間22分と最も速い。この列車は東京~名古屋間を1時間34分、名古屋~新大阪間を47分でそれぞれ結び、ともにやはり最短だ。続いては東京駅6時16分発の博多行き「のぞみ3号」の2時間24分となる。こちらは東京~名古屋間を1時間35分、名古屋~新大阪間を48分でそれぞれ結ぶ。

 首都圏で「のぞみ」を利用する場合、品川駅や新横浜駅から乗ろうという方も多いであろう。その場合、品川駅では7分、新横浜駅発では19分を所要時間から差し引くとよい。これは日中、夜間の時間帯とも同じだ。

・上り

 新大阪駅6時00分発の「のぞみ200号」、同じく6時03分発の「のぞみ202号」が東京駅まで2時間23分と最も速い。両列車は3分間隔と、大都市の通勤電車並みの運転間隔を保ったまま東京駅まで運転されるという点も特筆される。3分間隔の列車が時速285キロメートルで走行しているということは、両列車間の距離は14.3キロメートルだ。駅と駅との間の距離でこの数値に近いのは熱海駅と三島駅との間の15.9キロメートル(実際の距離)である。

■日中時間帯(東京駅7時台~20時台、新大阪駅7時台~19時台)

・下り

 「のぞみ」は日中の時間帯に東京駅を00分、10分、20分、30分、40分、50分と10分おきに出発していく。10分発と30分発とは博多行き、50分発は広島行き、00分発、20分発、40分発は新大阪行きというのが基本的なパターンだ。なお、20分発や40分発は臨時列車となるため、日によっては運転されない時間帯も多い。また、一部の列車は行先が変わる。

 これらのうち、東京~新大阪間の所要時間が最も短いのは10分発となる博多行きの2時間27分だ。この「のぞみ」は東京~名古屋間を1時間37分で結び、名古屋駅で1分停車した後、名古屋~新大阪間を49分で結ぶ。

 興味深いのは毎時30分発の「のぞみ」である。時速285キロメートルで走行しているにもかかわらず、所要時間は東京~新大阪間で2時間33分、東京~名古屋間で1時間41分と、最高速度が時速270キロメートルの00分発、50分発と同じだ。00分発、50分発と比べると、東京~名古屋間は同じ、東京~新大阪間は00分発と変わらず、50分発より3分遅い。

 筆者の推測では、30分発の「のぞみ」は、東京駅を1時間04分前に出発した「こだま」を掛川駅まで追い抜けないので東京~掛川間を約1時間08分と、10分発の「のぞみ」と比べて5分程度遅く走行している。いっぽうで掛川駅から名古屋駅までの間は約33分と、10分発の「のぞみ」よりも逆に2分ほど速い。掛川~名古屋間を時速285キロメートルで走っているおかげで東京~新大阪間を2時間33分で結ぶことができるのであり、そうでなければ所要時間はさらに延びていたかもしれない。

・上り

 新大阪駅では東京行きの「のぞみ」は毎時6分、10分、20分、33分、40分、53分に出発する。これらの列車の始発駅は6分発と40分発とが博多駅、10分と20分発とが20分発と33分発とが広島駅、10分発と53分発とが新大阪駅だ。ただし、10分発、33分発は臨時列車となって運転されない時間帯が目立ち、20分発は博多駅発となる時間帯も結構多い。

 所要時間が最も短いのは06分発の「のぞみ」で2時間27分だ。この「のぞみ」は新大阪~名古屋間を49分、名古屋駅で2分停車した後、名古屋~東京間を1時間36分で結ぶ。

 下りの「のぞみ」と同じく、時速285キロメートルで走行しながら、新大阪~東京間の所要時間が2時間33分という列車が存在する。40分発の「のぞみ」だ。この列車は6分発と比べて新大阪~名古屋間の所要時間は1分長いだけ。しかもその1分は京都駅での停車時間に充当されており、実質的には同じ時間で結ぶ。この区間では時速285キロメートルで走行する効果が発揮されていると言える。

 いっぽう名古屋~東京間では、名古屋駅を6分前に出発した「ひかり」に行く手を阻まれてしまう。先行の「ひかり」は「のぞみ」より1駅多く停車するにもかかわらず、後発の「のぞみ」は結局追い抜くことができない。おかげで名古屋~東京間を1時間41分と06分発の「のぞみ」よりも5分余計に時間を要しているのだ。

■夜間時間帯(東京駅21時台、新大阪駅20時台・21時台)

 下りは東京駅21時23分発の新大阪行き「のぞみ265号」、上りは博多発で新大阪駅を21時23分に出発する東京行きの「のぞみ6264号」がともに東京~新大阪間を2時間22分で結んでいる。両列車とも東京~新大阪間の最終列車であるため覚えやすい。

 両「のぞみ」とも、東京、新大阪両駅の出発時刻と到着時刻とが同じなので、どのあたりですれ違っているのかを求めてみた。すると、時刻は22時34分から22時35分ごろまでの間で、場所は浜松~豊橋間、具体的には浜松駅から12キロメートルほど豊橋駅寄りに行ったあたりとなりそうだ。具体的な場所は浜名湖を渡る第1浜名橋りょうのあたりで、並走する東海道線に弁天島駅を見ることかできる。果たして実際にはどうであろうか。

※拙記事公開後、夜間時間帯で最速の「のぞみ」の号数が違うのではとご指摘をいただきました。そのとおりでございまして、「のぞみ62号」ではなく正しくは「のぞみ64号」でございます。おわびして訂正いたします。

※2019年4月12日正午記。日中時間帯におきまして、下り30分発と比較した50分発の東京~新大阪間の所要時間、そして上り10分発と33分発とでは始発駅が誤っているとのご指摘をいただきました。重ね重ね恐縮です。おわびして訂正いたします。

鉄道ジャーナリスト

1965(昭和40)年生まれ。大学卒業後、三井銀行(現在の三井住友銀行)に入行し、交友社月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に鉄道ジャーナリストとして活動を開始する。『新幹線を運行する技術』(SBクリエイティブ)、『JRは生き残れるのか』(洋泉社)、『電車たちの「第二の人生」』(交通新聞社)をはじめ著書多数。また、雑誌やWEB媒体への寄稿のほか、講義・講演やテレビ・ラジオ・新聞等での解説、コメントも行っており、NHKラジオ第1の「子ども科学電話相談」では鉄道部門の回答者も務める。2023(令和5)年より福岡市地下鉄経営戦略懇話会委員に就任。

梅原淳の最近の記事