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パッキアオがメイウェザーに勝てる4つのポイント

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
ロサンゼルスのプレゼンでフェイスオフした両雄

負ける瞬間が見たい!

フロイド・メイウェザー(米)vsマニー・パッキアオ(フィリピン)のスーパーファイトまであと45,6日となった。両者が今月11日、ロサンゼルスのノキア・シアターでの最初で最後のプレゼンテーションに出席した前後の予想賭け率は2-1ぐらいまで接近し、メイウェザー優位。これは純粋な実力比較よりもパッキアオに対する期待感の表れではないかと思っている。試合のスケールが大きいだけに、すでにあらゆるメディアで勝利予想や展開予想が発信されている。その中で2人の共通の対戦者オスカー・デラホーヤ(ゴールデンボーイ・プロモーションズ社長)のコメントがもっとも現実を言い当てていると私は思う。

「3年前ならパッキアオが勝っていたかもしれないけど、今はやっぱりメイウェザーだろう」

これは英国のボクシング週刊誌「ボクシング・ニュース」の取材にデラホーヤ氏が回答したもの。それまで同氏は米国のメディアにも試合に関するコメントを残していたが、当たり障りのない発言だった。逆に前回の試合までプロモートしていたメイウェザーに縁を切られたせいか、むしろパッキアオを持ち上げるメッセージが多かった。だが業界ではリング誌と並んで格調高いメディアに語った言葉は限りなく本音に聞こえた。

賭け率の接近に反して、実際は6-1ぐらいでメイウェザーに分があっておかしくないかもしれない。この数字はメイウェザーが去年2度対戦したマルコス・マイダナ(アルゼンチン)戦ほど離れていないが、それに近い数字。ただ今のパッキアオが突進型のマイダナ程度のボクサーだと決めつけると、反論は多いはずだ。もしパッキアオvsマイダナが締結したならば、やはりパッキアオ有利は動かし固いだろう。同時に「メイウェザーが負けるところをぜひ見たい」と念じているファンは洋の東西を問わず多い。果たして難攻不落の要塞メイウェザー城を攻略する糸口はあるのだろうか。

ショルダー・ロール攻略が第一歩

メイウェザーの最大の長所はディフェンススキルである。「ディフェンシブな選手は退屈でおもしろくない」という通説がある。しかしメイウェザーは、その負の部分を売りにしている稀有なボクサーだ。これまでもディフェンスで魅せる選手は存在したが、その進化系、最先端がメイウェザーだといわれる。彼の特徴に挙げられるのが、ショルダー・ロールだ。

オーソドックス(右利き)のメイウェザーは左ガードを少し下げ、左肩を回してタイミングを計ったり、相手のパンチをかわす動作を得意とする。それがショルダー・ロールだ。パンチをかわされた相手へ右強打を叩き込むパターンが攻撃の主軸。手数を繰り出すタイプではなく、“タイミングこそ命”のメイウェザーのもっとも輝く瞬間に思える。

このショルダー・ロール・ディフェンスは相手がパッキアオのようなサウスポーに機能するものなのか。メイウェザーが対戦したサウスポーといえば、2年前のロバート・ゲレロ(米)が真っ先に浮かぶ。ゲレロは試合を通じてガッツ満々攻め込み、特に前半善戦した。しかしラウンドが進むと攻撃がワイドオープンになり、メイウェザーのディフェンス・マスターぶりを引き立てる結果となった。メイウェザーは、これも十八番のスウェーバックやボビング、ウェービングといった防御テクニックも駆使したが、ショルダー・ロールも頻繁に披露してゲレロのアタックを空転させた。左右の違いがあるものの、マイダナ戦でも効果は少なくなかった。

パッキアオと対峙してもメイウェザーは、このテクニックを操るはずだが、これはもしかしたら命取りになるのではと指摘する記者がいる。マイダナやゲレロ、あるいはカネロ・アルバレス(メキシコ)に対して有効だったタクティクスが不幸な結果をもたらすことも予測可能だというのだ。パッキアオがマイダナらと一線を画するのは、インサイドに侵入する場合、ジグザグのステップを駆使することだ。出入りのフットワークと換言できる。確かに直線的な彼らの動きと比較すると“一工夫”ある印象。外して右をカウンターで決めたいメイウェザーにとっては勝手が違い、厄介かもしれない。

ハイ・ガードを突破するには・・・

ショルダー・ロールが機能しなくなると、メイウェザーはガードを上げざるを得ない。ゲレロ戦やマイダナ戦でもロープを背にするシーンでは、さすがのディフェンスの達人もカバーリングが主体となった。ただ貝のようにガードを固めるだけでなく、目と勘がいいメイウェザーは相手の打ち終わりにきっちりパンチを合わせてくる。ハイ・ガードを強いるはいいが、その頑丈なガードをどう突き破るかが次の課題となる。

そこはまさにスキル対スキルの勝負、パワー対パワーの対決。勝敗がどちらへ転ぶかの瀬戸際といえるだろう。メイウェザーはその卓越したディフェンス・テクニックゆえに、この丁々発止の場面を制し、サバイバルしてきた。このパッキアオ戦でも予想や賭け率が彼に傾くのも、この正念場のせめぎ合いで優位に立てると推測されるからである。ここでパッキアオは相当な被弾は覚悟しなければならない。

単純に考えてメイウェザーの固いガードをこじ開けるにはボディーブローが有効だろう。だがこれは誰もが実行しようとして結果が出ていない。それほどメイウェザーの守りは強固なのだ。パッキアオに味方するのは年齢を重ねてもスタミナに衰えがないこと。12ラウンドの勝負でもまだエネルギッシュに動き回れる。この最重要場面でパッキアオはスピードと機動力をフル回転させ、多彩なアングルから連打を叩き込みたい。もちろんスピードとスタミナが低下しないことが条件だが、サイドステップも絶対忘れてはいけない。接近戦では小柄なパッキアオが優位に立てる可能性が広がる。精神的にはどれだけ冷酷非情になれるかも肝心だろう。

メイウェザーをロープへ詰め乱打するマイダナ(第2戦)
メイウェザーをロープへ詰め乱打するマイダナ(第2戦)

3発目が勝負を決める?

押し込む場面をつくれたらシメたものだが、必ずしもポイントに結びつかないのが、ラスベガスの採点方式。やはりパンチの的確さ、有効打の多さが必要になる。おそらくストレートならワンツー、フックでも2発までパッキアオは撃ち込めるはず。そこまでメイウェザーを攻め立てるのも容易ではないが、勝利へ道を拓くには“3発目”をヒットできるかがカギになる。これはポイントゲットの役目もあるし、ダメージングブローにもつながる。残る時間、ジムでコンビネーションの練習に熱中するパッキアオ。俊敏な動く標的メイウェザーに3発以上連打を浴びせたら、かなり有利な展開へ持ち込める。

最初に触れた英国誌のインタビューでデラホーヤ氏は「メイウェザーのパンチ力を甘く見ると痛い目に遭う」と忠告している。著名トレーナーの中にも「メイウェザーはけっしてパワーレスの選手ではない」と断言する者もいる。それでも今回に限り、パッキアオはオフェンス重視の戦法を貫いていいのではないか?この世紀の大一番を前に、そう伝えたくなる。事実、ディフェンスの天才メイウェザーを前に勝機はそれしかない。

コットのように詰め、マイダナのように叩け

過去のメイウェザーの試合から攻略のヒントとなるのは、ミゲール・コット戦とマイダナ2戦か。メイウェザーがコットと対戦した時、プエルトリコ人はすでにパッキアオにTKO負けを喫していたが(その試合をパッキアオのベストファイトに挙げる人も多い)コットは重厚なアタックを敢行し、大いに最強ボクサーを苦しめた。その時のコットも直線的ではなく、サイドへも動きを取りながらメイウェザーを攻め立てた。動きの量で対抗したのだ。試合直後のテレビインタビューで「パッキアオと(アントニオ)マルガリートに負けているけどコットはいまだに世界チャンピオンだ」とメイウェザーは舌を巻いたものだ。

マイダナのトレーナー、ロバート・ガルシアは「パッキアオがメイウェザーに勝つにはマイダナのように戦うしかない」と言い切る。でんでん太鼓を叩くようなアタックはハイ・ガードに遮断されるケースが目立ったが、迫力十分で「よもや」の予感を漂わせた。“マネー”の牙城は揺るぎない。だが、コットのように詰めてマイダナのように叩けば、無敵メイウェザーといえども、変化は生じるに違いない。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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