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アンジェラ・アキインタビュー 10年ぶりに再始動。名卒業ソング「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」が再注目

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
YouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」より

「THE FIRST TAKE」で「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」を披露

2月7日に新曲「この世界のあちこちに」を配信リリースし、10年ぶりに日本での音楽活動を再開したアンジェラ・アキが2月23日に「THE FIRST TAKE」に登場し、「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」を披露。再生回数は240万回を超え(2月29日現在)現在も数字を伸ばしている。2008年に発売されてから今もなお歌い継がれ続けているこの国民的合唱・卒業ソングを、今回は2022年、2023年度「NHK全国学校音楽コンクール」で2年連続金賞を受賞し、合唱日本一に輝いた大妻中野中学校合唱部の3年生たちと一発録り。より豊潤さを増したアンジェラの歌と合唱団の瑞々しい歌とが響き合い、改めてこの曲が持つ優しさ、強さ、温かさから伝わってくる大きな愛を感じることができる。

合唱団とのパフォーマンスについて、そしてミュージカル音楽作家になるという強い決意を持って活動を休止した10年前のこと、それを実現させた現在について、アメリカ在住のアンジェラ・アキにオンラインインタビューした。

「想像を絶する緊張感を久しぶりに味わいました」

画面越しから伝わってくる緊張感、10年振りのまさに渾身の“ライヴ”。大きな反響があった「THE FIRST TAKE」でのパフォーマンスを振り返ってもらった。

「想像を絶する緊張感を久しぶりに味わいました。しばらく人前で歌ってないけど、何とかなるだろうって思ってスタジオに行ってみたら、わかってはいたことですけど1回だけしか歌えないということと、久々にレコーディング以外で本気で歌うのがこれかって思うと、正直ビビりました。でも大妻中野中学校の合唱部の皆さんと一緒に歌えるので、ワクワクも大きかったです」。

「大妻中野中学校合唱部の皆さんの歌が素晴らしくて圧倒されました」

「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」が発売された2008年に生まれた15歳、中学3年生と共に声を響かせた。“今”を生きる15歳の声が重なり生まれるもの――アンジェラはどう感じながら歌ったのだろうか。

「彼女達はいってみれば合唱界の金メダリストです。一度一緒に練習をしたのですが、手紙リリース当時のレベルより遥かに高くなっていて、みなさん本当にうまくて、あまりの素晴らしさに圧倒されてしまって。今回は合唱コンクールのバージョンではなく、スペシャルバージョンの譜面でしたが、リハーサルの段階でいいパフォーマンスになると確信しました」。

「当時、多感な時期の15歳の時に歌う楽曲を作るのって、責任重大だなと思いながら書きました」

反響は大きく「当時本当にこの歌に救われました」「大人になった今聴くと余計沁みる」という当時リアルタイムで聴いていたファンからのコメントや、合唱や卒業の思い出に重ねている若いファン、「思春期で思い悩んでいる自分の子供にぜひ聴かせたい」という親世代からの声などが寄せられた。聴く世代によって歌詞の感じ方、刺さり方が違う「手紙~」は、スタンダードナンバーとなり歌い継がれ、聴き継がれてきた。自分から自分への往復書簡という斬新なスタイルにも当時注目が集まった。

「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」(2008年) 写真提供/ソニー・ミュージックレーベルズ(以下同)
「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」(2008年) 写真提供/ソニー・ミュージックレーベルズ(以下同)

「当時『NHK全国学校音楽コンクール』の中学生の部の課題曲に決まって、単純に多感な時期の15歳の時に歌う楽曲って、これ責任重大だなって思いながら書きました。というのはどうせ書くのであればただ歌って気持ちいいとか、一緒に合唱する喜びを感じるだけではなくて、何か考えるきっかけになったり、この子たちの本当に人生の一部になるテーマにしたいという思いがありました。なかなか納得いくものができなくて、ちょうど私が30歳の誕生日を迎えて、母親から私が15歳の時に自分自身に宛てて書いた手紙が届きました。親にも言えない、友達にも話せないことを、未来の自分に相談に乗ってもらおうと30歳の自分宛てに書いたものです。その手紙の存在を私はすっかり忘れていたのですが、この手紙を読んで歌詞の構想を練りました」。

「手紙」と通底している最新曲「この世界のあちこちに」

ちなみにこの自分への手紙は、7枚に渡って「自分の居場所がない」もどかしさをしたためた、厚くて熱いものだったという。それまでこの「NHK全国学校音楽コンクール」課題曲をシングルとしてリリースしたアーティストはいなかった。それだけ大きな反響があった。当時の中学生に向け、人生を考えるきっかけになって欲しいという思いを込めて書いたこの曲は、アンジェラが今年10年ぶりに発表した「この世界のあちこちに」(ミュージカル『この世界の片隅に』より)と、普遍性を湛えているという点では通底しているように感じる。

「この世界のあちこちに」(2月7日配信)
「この世界のあちこちに」(2月7日配信)

「『この世界の片隅で』が描く世界は、戦争はあくまでも背景で、その中でつつましく生活している昭和の家族、主人公すずを始め“自分の居場所”を探す人たちの物語なんです。昭和8年でも感じていたことが、90年代に私も感じて2008年に『手紙』という曲で15歳にメッセージをして、2024年に『この世界のあちこちに』でも、自分はどこに向かって進んでいるのか問い続けている。変わるものは変わるけど、変わらないものは変わらないと改めて実感しました」。

全速力で駆け抜けた10年間。「でも下積み時代が10年間あったので20年間やった感覚。活動休止前は葛藤と煮詰まり感97%、ワクワク感3%という感じでした」

アンジェラは2014年8月の日本武道館公演を最後に、10年間のシンガー・ソングライターとしての活動を休止。ミュージカル音楽作家になるという新たな目標に向け、すぐに渡米した。当時その潔さ、決意の強さを感じた。あの時はどんな心持ちだったのだろうか。

「10年間の活動期間でしたが私は18歳で音楽の世界を目指して、アルバイトをしながら音楽をやっていた下積み時代が10年間あったので、自分の中では20年間やっていた感覚なんです。色々な局面でやりたいことをみつけてまっしぐらに突進、全速力で常に120%出し切っていました。だから逆に10年間濃密な活動ができたのかもしれない。でも最後の方は葛藤と煮詰まり感97%、ワクワク感3%という感じでした」。

「新しいものが作れなくなってきたという葛藤から、人前に出ることや歌を歌うことが楽しめなくなっている自分がいました」

「当時創作活動について私はよく絵を描く人に例えていて、例えばその絵を描いてる人が、自分のパレットの上でいくつもある色を組み合わせて、自分らしい色、絵を作っていくけど、やっぱりあるところまで来ると、その絵の具の組合せのパターンも、どうしても似たような感じになってしまう。それが自分らしさかもしれないけど、結局新しいものが作れなくなってきたというのが、私が感じた葛藤です。それもあって、人前に出ることや歌を歌うことが楽しめなくなっている自分がいて。パレットの上に新しい色の絵の具を出すためには、完全に止まって勉強するなり、感性を磨くなりしないと、中途半端ではダメだと思いました」。

身を削りながら作品を量産、8年間で7枚のアルバムを発表し、ライヴもコンスタントに行なっていた。その結果精神的にも余裕がなくなり「ガリガリになって(笑)、書くテーマさえ見つからない」状態になり、クリエイターとして疲弊していった。「人として成長していかないと、シンガー・ソングライターの場合は曲が成長しない」という矜持から、危機的状況を迎えていた。

「誰も私のことを知らない、自分が何でもない場所に行くことが必要だった」

子供を産んだばかりで、日本で生活しながら本格的に勉強するという方法もあった。しかしミュージカル音楽作家を目指しロサンゼルスの音楽大学に通うことを決めた。

「自分が前に出て行くことをまずやめなければ、勉強も集中してできないと感じました。誰も私のことを知らない、自分が何でもない場所に行くことが必要で、一から勉強できる環境に身を置く必要があると思いました。幸い英語ができたので迷わずロサンゼルスの学校で、音楽家としての深みを学びたかった。やっぱり猪突猛進でした(笑)。ポップスに関しては、それが正しいか正しくないかは別として、何となく自分の持っている絵の具の色だけでも、一生続けられるかなという自信は、どこかにあったんです。でも大きな夢であるブロードウェイミュージカルの音楽作家には絶対なれないってわかっていたので、そのためにはどうすればいいかということを逆算していって学校を選びました」。

渡米後も、鈴木雅之や由紀さおり等にソングライターとして何曲か楽曲提供している。

「ミュージカル音楽ってシンガー・ソングライターの視点で作るものではなく、登場人物の視点で作っていくもので、それは他のアーティストに書く楽曲も似ていると思いました。『ポラリス』という曲はマーチン(鈴木雅之)さんになりきって書きました。アンジェラ・アキとして私のファンに向けて書くのではなく、マーチンさんを何十年も応援し続けてきたファンに向けて、マーチンさんにまるで憑依したかのようにその気持ちになって書きました。由紀さんの『あなたにとって』は、由紀さんは私の中では日本のエディット・ピアフなので、そういうイメージで書かせていただきました」。

「改めて音楽を基礎から学び、音楽が全然違って聴こえるようになった」

音大に2年間通い、さらにバークリー音楽大学のオンライン授業を2年受け、音楽教育の基礎から、クラシックからジャズ、ビートルズまでのスコアをアナライズ(分析)する勉強に励んだ。

「音楽が全然違って聴こえるようになったし、最初の2年は自分が作ったの昔の曲が聴けませんでした。なんでこんな曲を作ってたんだろうってすごく自己否定に入ってしまいました(笑)。なんて無知でシンプル、いかに直感で作っていたかがわかりました。もちろん知識を身につけても直感に頼る部分は今もあって、それは実はソングライターとして一番失ってはいけない部分だということも学びました。直感というアセットを見つけた感じで、すごく大事なところに出てきてくれます」。

最新配信シングル「この世界のあちこちに」で見せた新しいアンジェラ・アキ

ソングライターとして大きな財産、武器を手に入れることができた学びの期間だった。「この先音楽を作る上、音楽で生きていく上で、ガソリンは満タンになったと思う」と自信をのぞかせる。

それは2月7日に配信した「この世界のあちこちに」を聴けば伝わってくる。5月から全国で上演されるミュージカル『この世界の片隅に』の音楽を全面的に手がけ、ミュージカル本公演用に制作した同曲をリアレンジしたものだ。ポップスの名手がオーケストラサウンドを駆使して「きっとあなたの居場所はあるというメッセージを歌詞と曲に込めた」。美しいサウンド、メロディ、幾重にも重なるコーラス、そして言葉。それを真っすぐ伝える深化した歌が胸に迫ってくる。

4月24日12年振りのオリジナルアルバム「アンジェラ・アキ sings『この世界の片隅に』」をリリース

4月24日にはシンガー・ソングライター/ミュージカル音楽作家=アンジェラ・アキの新しいアプローチの12年振りのオリジナルアルバム「アンジェラ・アキ sings『この世界の片隅に』」をリリースする。そこには“超”シンガー・ソングライターとでも言いたくなるほどの、アンジェラ・アキの圧巻のクリエィティブが炸裂し、新たな時代のポップスアルバムとして多くの人の胸に“響き”そうだ。

このアルバムについてのインタビューは、また別の機会に公開する。

アンジェラ・アキ オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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