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光明差すミラン、イブラヒモビッチの「ロマンティック・カムバック」が浮上への道標?

中村大晃カルチョ・ライター
2012年2月15日、CLアーセナル戦でのイブラヒモビッチ。再び赤黒の縦縞姿に?(写真:ロイター/アフロ)

同じ数の試合を消化し、成績はほぼ横ばいだ。だが、出口の光は見えてきているのかもしれない。

12月1日のセリエA第14節で、ミランがパルマに勝利した。ステーファノ・ピオーリ監督が就任して7試合目でようやく2勝目。アウェーでは新体制初の白星だ。

◆2人の監督の下で成績は変わらず

10月8日に解任されたマルコ・ジャンパオロ前監督の下では、開幕からの7試合で3勝4敗の勝ち点9(13位)という成績だった。それから約2カ月。ピオーリ体制での7試合は、2勝2分け3敗の勝ち点8。順位こそ11位とわずかに上がったが、苦しい状況が続いている。

勝ち点だけではない。ジャンパオロ政権とピオーリ政権では、得点(6/7)や失点(9/8)の数もほぼ変わらず。そして順位表を見上げると、ヨーロッパリーグ出場ラインに勝ち点8差、チャンピオンズリーグ出場ラインに同11差、ライバルの首位インテルには20ポイントもの差がついている。

◆情状酌量の余地と明るい兆し

だが、前任者に別れを告げた時ほど、ミランは悲観的な状況にない。改善の兆しも見えるからだ。

まず、対戦相手を考慮する必要がある。ジャンパオロ体制での7試合で、いわゆる強豪とのビッグマッチはインテルとのダービーだけだった。だが、ピオーリは7試合の間にローマ、ラツィオ、ユヴェントス、ナポリと、強豪の4チームと対戦している。

結果は1分け3敗だった。だが、敗れた3試合もすべて1点差。何より、惜敗だった絶対王者ユヴェントスとの一戦は、今季のプロセスを考えれば賛辞に値した。

そして、パルマ戦では計27本ものシュートを浴びせ、逆に枠内シュートは1本も許さなかった。『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙によると、前者は13カ月ぶり、後者は23カ月ぶりの数字だ。

同紙の統計では、ジャンパオロ政権でミランは枠内シュート22本、枠外シュート44本だったが、ピオーリの下では35本と51本に増えている。また、ペナルティーエリア内からのシュートの平均も3本増した。

もちろん、楽観はできない。だが、クリスティアーノ・ルイウ記者は、『Calciomercato.com』で「数週間前と比べて良くなっていることは確か」と評している。

「より組織的で具体的、論理的になった。今のミランは本当にひとつのチームに見える。強くはない。だが、チームだ」

ピオーリには、インテル時代にシーズン半ばの就任ながら一時復調させた経験がある。フランク・デ・ブールの後を継ぎ、最初の公式戦4試合は1勝1分け2敗だったが、その後9連勝を記録。セリエAで7連勝を飾り、一度は4位までチームを浮上させた。

また、『ガゼッタ』のマルコ・ファッリージ記者は、プレー面だけでなく、ピオーリのマネジメント能力にも触れている。前政権で精彩を欠いていたハカン・チャルハノールを復調させ、出場機会がなかったイスマエル・ベナセルを信頼した点などだ。

◆深刻な得点力不足

ただ、ミランが浮上を目指すうえで欠かせないのが、得点力アップだろう。27本のシュートを放ったパルマ戦も、幸運にも恵まれた88分のテオ・エルナンデスの一発で辛勝という結果だった。

14試合で13得点はリーグ15位、下から6番目という体たらくだ。あくまで定義上とはいえ、サイドバックのテオが3ゴールでチーム得点王タイという事実が、得点力不足の深刻さを物語る。

当然、その責めを負うべきは前線のクシシュトフ・ピオンテクやラファエウ・レオンだ。前者はテオと同じ3得点だが、そのうち2得点がPK。後者は1得点にとどまっている。

特に、昨季のブレイクでエースとして期待されていたピオンテクは、イタリアに来て最長となるリーグ戦6試合連続無得点に終わるなど、暗いトンネルから抜け出せていない。「ミランの背番号9の呪い」が再びささやかれる事態を招いている。

◆イブラ効果への期待は大

事態の打破に向けて期待されるのが、ズラタン・イブラヒモビッチの獲得だ。欧州を離れて約2年が経ち、年齢もネックとなるが、本人は今でもセリエAで「違いをつくれる」と豪語する。

ルイウ記者も「イブラのような選手の加入は天恵だろう。38歳でも彼はゴールの決め方を忘れていない」と記した。

得点力だけにとどまらない“イブラ効果”への期待も大きい。

アントニオ・カッサーノは「船を立て直せるのはイブラヒモビッチだけだ。周囲の多くの選手を向上させるし、彼を獲得すればみんなが熱狂する」とコメント。マッシモ・オッドも「今のミランにはこういうタイプの選手がいない」「偉大な選手は潜在的に優れた選手を成長させる」と賛同する。

イブラヒモビッチ本人は、ミランとミラノの街への愛情を隠していない。先日も『ガゼッタ』のインタビューで、ミラノを「2番目の家」と表現している。直近も、インタビューで「イタリアで会おう」「再び勝たなければいけないチームに行く」と述べたことが報じられた。

昨年もカムバックが話題となったイブラヒモビッチアドリアーノ・ガッリアーニ元CEOが、実現すれば「ロマンティック」と表現した彼の復帰は、今度こそ現実となるのか。そして、もがく古巣を上位へと導けるのか。まずは、本人の決断が待たれる。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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