日産が配当減らして開発投資増やす英断 「ゴーン式経営」と完全決別へ
日産自動車が5月14日に発表した2020年3月期決算の業績見通しは、売上高が前年同期比2・4%減の11兆3000億円、営業利益が27・7%減の2300億円、純利益が46・7%減の1700億円となる。
米国での販売落ち込みなどによって大幅な減収減益となり、1株当たりの配当も57円から40円に落とす計画だが、逆に設備投資は11・8%増の5700億円、研究開発費は5・1%増の5500億円とし、良い商品づくりへの投資に振り向ける。
日産の業績が大きく落ち込む要因は、北米での商品力のなさにある。値引きしないと売れないクルマが多いため、カルロス・ゴーン前会長時代は、台数を稼ぐために無理をして値引きしたために収益性を落とした。さらに、ゴーン前会長は、開発投資を削って配当に回してきたが、その経営手法も完全に改め、配当よりも、商品開発に資金を回す。
親子上場への批判かわせるか
これも「ゴーン式経営」の完全否定だ。ルノーとの提携以来、日産が減配するのはリーマンショックの時だけだった。減配により、筆頭株主であるルノーへの配当も当然減るが、敢えて商品力強化に回す。
これには株主からの反発も予想される。これまで、ルノーと日産の「親子上場への批判」は、配当利回りでトヨタをも上回る高配当でかわしてきた。「親子上場への批判」とはどういうことかというと、1社で43%の株式を持つルノーと、少数株主の集合体である57%の株主の利益が相反することである。
たとえば、共同開発したクルマを日産の工場で造るか、ルノーの工場で造るか決める際に、日産の工場で造れば日産の稼働率は高まって収益向上につながり、株価も上がる可能性があるが、ルノー工場で造れば日産の稼働率向上には寄与しない。こうしたケースでは、日産とルノーの利益は一致しない。しかも、ゴーン氏が両社の経営トップを兼任していた時代は、1人の経営トップが利害関係を調整しており、利益相反が起きていた。しかし、ゴーン氏は高配当を出すことで、利益相反の批判をかわしてきた。
製造業として原点回帰
ゴーン氏が特別背任容疑で逮捕された後、次から次に会社の私物化が明るみに出て、「経営者失格」の烙印を押されても仕方ないのに、ゴーン氏を擁護していた人たちは、「ゴーン式経営」による高配当を期待している一部の株主たちではないかと見られた。
しかし、西川廣人社長は、配当を減らして株主を敵に回す可能性があっても、製造業として原点回帰する考えのようだ。製造業は、地道に開発を積み上げ、その開発を担う人材もこつこつと育てなければ、商品力は向上しない。種をまき、水と肥料をやって地道に農作物を育てていくイメージだ。しかも自動車は2万点以上の部品で構成され、サプライチェーンの頂点に立つ自動車メーカーだけの努力だけではよい製品はできない。
株主からの批判を受ける西川氏の「覚悟」
自動車メーカーが使う開発投資が、サプライチェーンの末端にまで流れていくことで、産業界全体は活気づき、次の開発へのモチベーションがわく。しかし、残念ながらこれまでの日産のサプライチェーンの中は、モチベーションが低く、下請け企業は「日産に収奪されている」と受け止めているところも多かった。
今回のゴーン氏の事件について筆者はこれまで、ゴーン氏の側近の一人として台頭し、ゴーン氏から経営のバトンを受けた西川氏にも取締役として結果責任があると指摘してきた。本来ならば今年の株主総会で経営責任を取って辞めるべきだとも思っていたが、配当を減らしても開発投資を増やすという姿勢に、経営者としてのある種の「覚悟」のようなものを感じた。
この減配によって、西川氏は株主から相当な批判を受けるだろう。ただでさえ「ゴーン氏と同罪」と見ている株主も多いのだ。そして日産からの配当を当てにしているルノーも困るはずで、今後のあらゆる交渉にも影響しかねない。
しかし、西川氏は減配によって、「ゴーン式経営」を断ち切る姿勢を示した。これまでゴーン氏は開発投資を絞り、配当に回す利益のためなら育てた人材も平気で切る傾向があった。しかし、こうした経営スタイルが、日産らしいクルマを世間に送り込むことを阻んできた一面があった。それが大幅な業績ダウンにつながった。そこを改めない限り、日産の復活はないと西川氏は判断したのであろう。