3人のママの声が税制を動かそうとしている 寡婦控除税制改正まであと一歩
今年も年末。
来年度税制については、与党の税制改正大綱が12月13日に決まりました。
http://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2018/20171222taikou.pdf
税制というと何か遠い話に聞こえるのですが、人々が暮らしを支え合うときに税を誰か負担しどのように払うかはわたしたちの暮らしに大きくかかわります。
今年は特に、ひとり親家庭の親子を支援する立場のわたしにとっては大きな動きがありました。
===税制改正大綱
「寡婦控除」来年検討へ 14日決定===
https://mainichi.jp/articles/20171214/k00/00m/020/169000c
自民、公明両党の2018年度税制改正大綱が13日、固まった。所得税改革の関連で、夫(妻)と死別・離婚して子育てをする人の所得税を軽くする「寡婦控除」の対象に未婚の母(父)を加えるかどうかを来年末の19年度税制改正で検討し、結論を出すことを盛り込む。新税の「国際観光旅客税」(出国税)「森林環境税」創設も明記。両党は、14日に大綱を決定する。
毎日新聞2017年12月13日 22時59分(最終更新 12月13日 23時24分)
実は、私たちしんぐるまざあず・ふぉーらむは「寡婦(夫)控除」という人的控除について、取扱いが違う、言ってみれば差別がある、ということについて、是正を提案してきました。
どんな違いがあるのか、簡単におさらいしましょう。
寡婦(夫)控除のしくみ
寡婦(夫)控除とは何でしょうか。
寡婦の要件は国税庁のHPによると以下のようになっています。
https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1170.htm
寡夫の要件はこちらです。
https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1172.htm
ちょっとややこしいのですが、一人で子どもを育てている人などは、特別の苦労があるので、税制でも配慮しようとしているわけです。そこで寡婦(夫)控除は一定の要件の死別したひとり親と女性、離婚したひとり親には適用されますが、婚姻歴のない非婚の母には適用されず、さらに所得、扶養親族の有無により適用に差があります。これを表にしてみました。
寡婦(夫)控除の適用
上の図で、黄色い部分はなしとなっています、つまり、婚姻歴のないひとり親家庭には寡婦控除は適用ないのです。
寡婦控除と特別寡婦控除の控除額
寡婦(夫)控除制度の影響
このため、収入から所得を計算するので所得が離婚・死別ひとり親よりも高くなり、税が高くなります。
それだけではなく、所得によって計算するあらゆる利用料が高くなり、あるいは利用の可否が異なります。
保育料、学童保育料、就学援助、公営家賃、障害児に関する援助事業、ひとり親に対する援助の高等職業訓練促進費制度、その数は膨大です。
中でも、保育料は暮らしに大きく影響します。
これは2012年以前の八王子市に暮らすシングルマザーの場合を表にしました。
年収200万円という低い収入のシングルマザー世帯で、住民税、所得税、保育料、公営家賃の負担が、婚姻歴のある死別、離婚のシングルマザー世帯と20万円の負担の差があったのです。年収の1割の負担の差です。
これは暮らしを大きく圧迫するのではないでしょうか。
八王子市の名誉のために付けたしますと、八王子市は、その後先駆的に平成25年4月から婚姻歴のない非婚の母に寡婦控除があるとみなして保育料、幼稚園就園奨励金、市営住宅家賃について、算定することとなりました。
税制の差別によって、年収の10%の負担が増えるという事態は容認してよいのでしょうか。現在、全国ひとり親世帯等調査結果によりますと、非婚・未婚の母の割合は8.7%となっています。調査があるごとにその割合は増え、死別母子世帯よりも多くなっています。
しかも、非婚の母は、年収が死別や離婚の母よりも少ないのです。これは子どもの貧困問題にも関連します。
寡婦(夫)控除税制の是正の取組みは10年前から
寡婦控除税制の是正の取組みについては、こんな歴史がありました。
- 2009年、3人の非婚のママたちがこの件で日本弁護士連合会に人権救済の申立
- 2013年、日本弁護士連合会は寡婦控除制度について、憲法違反(法の下の平等)と断じ、税制改正が必要としつつ、まず自治体が寡婦控除のみなし適用をすべきと要望書を該当自治体に出す
- 自治体、近隣地方議会へ寡婦控除のみなし適用を求める陳情を一斉に働きかけ
- 2014年の税制改正大綱に「寡婦控除制度についての検討」の文字が入る
- 2013年以降、地方自治体の寡婦控除のみなし適用が広がる
この涙と苦労の歴史の詳細はまたいずれ語りたいと思います。
実は、議会で陳情を出すと趣旨説明をする機会があります。保守的な方がたから、「結婚しないで子どもを産んだんだから自己責任だろ」ということばをかけられることも、1回ではありませんでした。
しかし、それにもまして、理解者がいたからこそ、今のみなし適用の広がりがあります。
寡婦控除のみなし適用が全国的に広がる中で、自治体ごとに差があることがよいのか、という議論がされてきました。このためには、所得税法、住民税法を変えなければなりません。
そして、今年、2018年度税制改正大綱には、さまざまな人、特に、与党の中で大きな動きがあり、「来年検討」という、また大きく一歩進むことができました。
さらに、保育料、高等職業訓練促進費制度については、来年度から全国的に寡婦控除のみなし適用を実施する旨の予算案が組まれました。
現在の寡婦控除の税制は、子どもたちの貧困問題ともかかわっています。
3人のママが小さな声をあげたことから始まったとりくみが国の税制を動かそうとしています。