「近畿財務局の皆さん ほんとのことを話してください」森友事件 真相究明のために
近畿財務局職員に呼びかけよう
10月10日。前回の東京オリンピックで開会式が行われた日。東京は雲一つない快晴だったという。それから55年、この日の大阪もよく晴れていた。
日も暮れようかという午後5時半すぎ。大阪・中央区大手前の官庁街で、声を上げる一団があった。大阪・豊中市の木村真 市議と、同志の仲間たちだ。木村さんはおととし2月、森友学園への国有地売却をめぐり情報開示を求めて裁判を起こし、森友事件追及の火の手を上げた第一人者だ。
真相究明には売却の当事者である財務省 近畿財務局の職員の協力が欠かせないと、役所の退庁時間に合わせて庁舎前で呼びかけを行ったのである。
森友事件の核心とは?
森友事件の核心は、9億円の価値がある国有地を8億円も値引きして森友学園に売却したことと、その経緯を記した文書を書き換え、廃棄した公文書改ざん問題だ。前者は背任罪、後者は公文書変造罪などにあたる疑いが濃厚だ。
この土地に開校予定だった小学校の名誉校長が安倍昭恵首相夫人だった。
土地の売却を担当したのは近畿財務局。その後、公文書の改ざんも、財務本省からの指示で近畿財務局で行われた。改ざんに抵抗したのに無理矢理関わらされた職員は、その心の負担により追い詰められ、自ら命を絶った。
改ざんさせられた職員は死に追い込まれた
木村さんは退庁する職員たちを前に、マイクを手に呼びかけた。
「政権はすでに済んだ話にしたいようですけれども、この森友問題、何にも終わってなどいないということは、近畿財務局の職員の皆さんがよくよくご存じのことかと思います。とりわけ公文書の改ざんにつきましては、皆さん方の同僚である近畿財務局の職員の方が自死に追い詰められるという、大変痛ましい出来事にまで発展したわけです」
「まじめに公務員として働いてきた皆さん方の思いを踏みつけるようにして、公文書の改ざんの指示が出された。当初は近畿財務局の職員の皆さん、『そんな改ざんなんかできるかいな』と、『そんなもん犯罪やないか』ということで、かなり強い抵抗があったということが、財務省自身の報告書の中にも書いてあります。けれども最終的には心ならずも公文書の改ざんをさせられてしまった。そのことが明らかになった去年の3月、改ざんをさせられた皆さん方の同僚の元職員の方が自死に追い詰められた。ほんとに痛ましいとしか言いようがありません」
でも改ざんを指示した本省課長は栄転
財務本省で公文書の改ざんを指示したのは、国有財産管理を担当する理財局の総務課長だった中村稔氏だとされる。この中村氏をはじめ、国会で虚偽答弁を繰り返した佐川宣寿理財局長(当時)など、財務省幹部や近畿財務局らが背任や公文書改ざんの件で刑事告発されていた。
告発を受けた大阪地検特捜部は去年5月、全員を不起訴にしたが、今年3月、検察審査会で「不起訴不当」の議決が出た。これを受けて大阪地検特捜部が再捜査を行ったが、再び全員不起訴の判断を出した。今年8月のことだ。
木村さんはこの件についても言及した。
「近畿財務局に公文書の改ざんを指示した中村稔さんや(その上司の)佐川さんはじめ財務省の幹部職員の人たち全員が不起訴ということになったわけです。そのたった1週間後にですね、中村稔さんが駐英公使に栄転するという報道がありました。私たちもびっくりしたんですけど、おそらく近畿財務局の職員の皆さん方が一番びっくりしたんじゃないかと思います」
「公文書改ざんという前代未聞の国家的不祥事です。これが起訴されないのがまったく不思議なんですけど、単に起訴されない、法的に責任を問われないばかりか、イギリス公使に栄転するという驚きの人事が発令されたわけです。これははっきり言えば、ご褒美の人事なのかと。公文書改ざんしてご褒美の人事なのかと。一方でですね、近畿財務局で実際に改ざん作業に従事させられた、皆さん方の同僚の元職員の方が自死に追い詰められた。これはちょっと、いくらなんでもひどすぎるんじゃないでしょうか?」
改ざんで消された安倍昭恵夫人の名
公文書はどういう部分が改ざんされたのか?そのことも木村さんは指摘した。
「財務省の調査報告書、あるいは公表された改ざん前の文書などからしますと、安倍昭恵という名前、5か所あった安倍昭恵という名前が5か所すべて削除されています」
「そもそも何のおかしなこともないんであれば、改ざんする必要なんかないわけです。私の地元、豊中市の職員の皆さんも驚いています。すでに出来上がって確定している文書をいじるなんて、およそ公務員の常識からして考えられないことだと。そこまでするんかと。つまりは、そこまでして隠さなくちゃいけなかったんだろうと受けとめています」
これは”忖度”か?政治家は責任を取らなくていいのか?
森友事件では忖度という言葉が流行った。相手の意向を汲んで行動する。しかし、これだけのことを”忖度”だけでやったのだろうか?木村さんは指摘した。
「公務員の皆さんが、忖度だけでそんな犯罪まがいのことをするはずがないと思っています。佐川さんにしたところで、極悪非道のように言われていますが、ある意味気の毒だと思います。普通に公務員試験を受けて昇進して理財局長、国税庁長官に上りつめた人。まあ言ってみれば普通の公務員が、そんな特定の政治家に対する忖度だけで公文書の改ざんなんかするはずがない。絶対に政治からの圧力があったに違いない。ところが残念ながらその肝心要のところが突き止めることができないままです」
「それがですね、まるで近畿財務局の職員、あるいは本省の理財局の職員、公務員の人たちが勝手なことをしたんだというだけで片付けられようとしています。財務省だけの責任にして政治家は誰一人責任を取っていないんです」
「考えてみてください。財務省のトップは麻生大臣です。麻生大臣は平気のへっちゃらでふんぞり返って大臣の椅子に座り続けている。普通の人間の常識ではありえないことです。そのありえないことがまかり通ろうとしています。このままうやむやのうちに幕引きさせてしまっていいんでしょうか?」
「どうか本当のことを話してほしい」
ここで木村さんは近畿財務局の職員の心情に訴えた。
「こんなひどいことがまかり通っていいはずがない!私たちも思っています。近畿財務局の皆さんも同じように感じているはずだと信じています。職業人としての誇り、公務員としてのプライド、それをずたずたに引き裂かれたのが今回の公文書改ざん事件じゃないですか」
「誰も好き好んでこんなことやったんじゃないんだと。こんな圧力があったんだと。具体的にこういう指示があったんだと。その一番肝心要の部分、どうか真実を明らかにしてほしいと思います。このまま、うやむやのままにですね、財務省の職員が勝手なことやったんだ、そんな風に片付けられちゃってほんとにいいんでしょうか?」
その上で木村さんは具体的に情報提供を呼びかけた。
「私たちに情報提供してくださっても構いません。『いや、どこの馬の骨かもわからんような、路上でビラ配ってるような奴らに言えるかいな』とおっしゃるのであれば、例えば大阪弁護士会には公益通報の窓口があります。どうかですね、私たちでも、弁護士会でも、どうか何らかの形で真実を明らかにして頂きたい」
「誰がどう見ても犯罪、誰がどう見ても背任、誰がどう見ても文書改ざん、それが起訴されない。裁判で裁かれること自体ない。こんなことをまかり通らせて良いはずがないと思います。近畿財務局の皆さん、どうか皆さん方の公務員としてのプライドにかけて、この森友問題、このままうやむやで終わらせないで頂きたい。真実を明らかにして頂きたい、ほんとのことを話して頂きたい。心よりお願い申し上げます」
近畿財務局職員OBも参加
呼びかけには近畿財務局を退職した職員OBも参加した。その一人、喜多徹信さんは70歳。現役最後は国有地の値段を決める鑑定官をしていたから、森友事件には人一倍関心がある。亡くなった職員とも親しかったという。
退庁するかつての同僚たちにチラシを配る。時には顔見知りの職員も通りかかる。そんな時、喜多さんは「久しぶり、元気?受け取ってえな」と声をかける。しかしほとんどの職員は困ったような表情を浮かべ、チラシを受け取らずに通り過ぎる。
「以前、現役の職員から聞いたんやけど、上から『何も言うな』と指示されているらしいからな。難しいな」
今回の呼びかけに参加するのは踏ん切りが必要だった。
「現役の職員が苦労してるの、わかるからな。ここにこうして立つのは抵抗あったんや。それでも放っておかれへんと思って。ここで参加するのは初めてや」
裁判は1日で結審 でもあきらめない
この日の午後3時から、大阪高裁で木村さんが起こした裁判の控訴審があった。木村さんは国有地の売買に携わった近畿財務局職員など4人の証人申請をしていたが、裁判長はすべて却下した。その上で「この段階で裁判をするのに熟した」と述べ、弁論の終結を宣言した。
木村さんは「熟してない!何もやってない!」と声を上げたが、裁判長はそのまま次回の判決の期日を指定した。
刑事事件は不起訴、民事裁判はほとんど審理なく結審。森友事件の追及は手詰まりの感もある。だが木村さんたちはあきらめない。
これから毎月1回、近畿財務局の前で呼びかけを行うことを決めた。呼びかけに応じる職員が現れることを期待している。次回は11月14日の予定だ。
【執筆・相澤冬樹】