人生の過ごし方、アリを望むかキリギリスを目指すか。全体では「キリギリス」優勢だが(2024年公開版)
イソップ童話の「アリとキリギリス」は人生の過ごし方を二極化し、いずれかを目指すべきかに関して一つの答えを啓蒙する内容となっている。それでは国民はどちらのライフスタイルを望んでいるのだろうか。その実情を内閣府の定点観測調査「国民生活に関する世論調査」(※)の結果から確認する。
今後の生活におけるスタンスとして、「貯蓄や投資など将来に備える」「毎日の生活を充実させて楽しむ」どちらに力を入れたいかと尋ねたところ、全体では「将来に備える」が47.8%、「毎日の生活を充実させて楽しむ」が51.4%となり、「楽しむ派」の回答が多い結果となった。
男女別ではあまり差異が無いことから、「備え」か「楽しむ」の観点では男女の違いはさほど無いと判断できる。あえていえば女性の方が「毎日の生活を充実させて楽しむ」というところか。
一方年齢階層別で見ると、大きな違いが見えてくる。
40代まではおおよそ同じ回答状況で、「備え派」が7割前後・「楽しむ派」が3割前後となり、「備え派」が優勢。そして年齢とともに「楽しむ派」が少しずつ増えていき、60代では両選択肢の値が一挙に逆転し、それ以降は「備え派」が大きく減っていく。生存可能余年や手持ちの財力を考えれば、当然の結果ではある。見方を変えれば50代までは、主に金銭面で(将来のための蓄財も含めて)首が回らない状態で、日々の生活を楽しむまでの余力を得るに至っていない人が多いのが推測できる。
今調査結果は国勢調査などの結果を基にしたウェイトバックは行われていないものの、調査対象は層化2段無作為抽出法で選択されており、社会の実情をほぼ反映した年齢階層別人口比で回答者が選ばれる。さらに回収率は高齢層ほど高めとなることから、現在の社会的側面も反映した上での人口構造に近い値を示している(回答状況が他の社会行動や意思表明、例えば選挙と同様に若年層ほど低いため、余計に「高齢者の意見が大いに反映される」との結果が出る)。その実情から、最初のグラフの全体値だけを見て「世間一般は皆、将来への備えよりも、日々の生活を楽しむことに重点を置いている」と認識するのも、少々実態とは異なる感は否めない。
過去の調査結果からの経年値について、年齢階層別に精査したものを次に挙げておく。これは「楽しむ派」から「備え派」を引いたもので、いわば「楽しむ派」度を示す値。プラスならば「楽しむ派」が多く、マイナスならば「備え派」が多い。なお2021年以降は新型コロナウイルス感染症への対策のため、それ以前の調査と比べると調査方法や設問様式に違いがあることから、イレギュラーな傾向が出てしまっている。
50代がほぼ全体平均周辺を行き来し、20代(2016年分以降は18-29歳)から40代は低迷、60代以降は高止まりを示している。近年になるに連れて「高齢者はより『楽しむ派』に」「若年層はより『備える派』に」移行しているのが分かる。
特に景気後退感が著しさを見せた、直近の金融危機がぼっ発した2007年以降、若年層のふところ事情が厳しくなった、将来に備えて一層と慎重な姿勢(「アリとキリギリス」における「アリ」的行動)を見せるようになったと判断できる動きを示しているのは興味深い。さまざまな社会情勢の変化を敏感にとらえ、冷静に判断し、行動に移しているものと考えられる。また2014年以降に50代の値が急に落ちている(≒「備える」が増えた)のは、早期退職者やリストラをされた人の影響だろうか。
また2021年以降は60代以下が急落し、50代は「楽しむ派」から「備える派」にシフトしてしまっている。60代もこのペースではあと数年で「備える派」となりかねない。単純なイレギュラーの動きではなく、新型コロナウイルスの流行によって今後の生活に対する見方が大きく変化していると見た方がよさそうだ。
概して昨今の「若者の●×離れ」の造語に代表される、主に団塊世代前後が口にする「若年層はお金を使わない」は、今件の値が裏付けしていると見てもよい。可処分所得の減少に加えて「日々を楽しむために消費するよりも、将来に備える傾向が強まったため」、年齢が上の人達からは「お金を使わなくなった」と見られるのだろう。
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※国民生活に関する世論調査
直近分は2023年11月9日から12月17日にかけて、全国18歳以上の日本国籍を持つ人の中から層化2段階無作為抽出法で5000人を選んだ上で、郵送法によって行われたもので、有効回答数は3076人。回答者の男女比は1440人対1636人、年齢階層別構成比は18-29歳298人・30代352人・40代489人・50代584人・60代579人・70歳以上774人。
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