事実が9割! 名古屋発のサブカル本屋『ヴィレヴァン!』ドラマの舞台裏
ドラマは第2弾がスタートし、同時に劇場版も公開
名古屋が生んだ奇跡の本屋「ヴィレッジヴァンガード」、通称“ヴィレヴァン”。ベストセラーも新刊もなく、本の横には奇妙な雑貨が並べられ、さらに迷文だらけの手書きポップがべたべたと貼られている。1986年、名古屋市天白区で創業したこの不思議な本屋は、今や全国で300店舗以上を展開。チェーン化を果たしながら、サブカル好きのスタッフの裁量が認められ個々の店舗が個性を競い合っている…。
ここを舞台に映像化されたのがメ~テレドラマ『ヴィレヴァン!』です。作品はひと言でいえば、変な本屋に集まる個性的なキャラクターがくり広げるサブカルネタ満載の青春コメディ。2019年5~6月に全7話の連続ドラマとして愛知・岐阜・三重の東海地方でオンエアされ、この10月にはテレビ版がシリーズ化、さらには何と劇場版まで上映されることになりました。
名古屋発のサブカル本屋はなぜドラマシリーズ&映画になったのか? その舞台裏を関係者に尋ねました。
ドラマ化に不可欠だった名古屋のマインド
「愛知県出身の脚本家、いながききよたかさんがヴァレヴァンでバイト経験があり、その話を聞いて、面白い会社、店だなと興味がわいたのがきっかけです」。
こうふり返るのは後藤庸介監督。自身も下北沢のヴィレヴァンに作品のネタ探しにしばしば足を運んだことがあり、「セレクトのセンスがよくて楽しい店だな」という印象を持っていたそう。そこから、この店をそのままドラマにしたような作品をつくりたい!という思いが膨らみ、映像化に向けて動き出したといいます。
東京在住の後藤監督にとっても親しみがあり、関東圏でも数多く出店するヴィレヴァンですが、ドラマ化を持ちかけたのは名古屋のテレビ局であるメ~テレ(テレビ朝日系列)でした。
「単に創業の地というだけでなく、名古屋の人ならではのマインドがあるからこそ生まれた店だと思ったので、その要素が絶対に必要だったんです。メ~テレさんは良質の映画やテレビドラマシリーズを手がけている実績もある。やるなら是非メ~テレで、という思いがありました」(後藤監督)。
メ~テレは自社制作のドラマ『名古屋行き最終列車』を2012年からシリーズ化。今年も第9弾となる『名古屋行き最終列車~三河線編~』が11月から始まります。地方のテレビ局によるドラマ制作は近年めっきり減っていて、ましてや何年も続けてシリーズ化されることはきわめて稀。地元に愛されるドラマをじっくり育てようという思いと経験があることから、ヴィレヴァンのドラマもメ~テレでつくられることになったのです。
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事実はドラマよりも奇なり(!?)。現役店員らの仰天エピソード
制作段階でもリアリティの追求が原動力となっていきました。盛り込まれるエピソードは脚本家のいながきさん、そして現役のヴィレヴァンのスタッフから寄せられた実話が元になっています。
「ドラマの内容の9割は実話です!30人くらいのスタッフの方をリサーチしてエピソードを集めたんですが、無茶苦茶すぎて使えない話の方がいっぱいあったくらい。ほぼ事実を並べただけなんですが、突飛すぎてノンフィクションだと思ってもらえないのが悩みです(笑)」(後藤監督)
シーズン1は本店(名古屋市天白区)と三軒茶屋店(東京都世田谷区)、シーズン2と劇場版はイオンモール名古屋茶屋店(同・港区)が主な舞台。ロケの大半が実際の店舗で行われていることも作品にリアリティをもたらしています。
「セットではヴィレヴァンの世界を再現できないので、店舗でのロケが不可欠で、その点でハードルが高い企画だと思っていました。でも、当初は閉店後に撮影するはずだったのが、営業中にもバンバン撮らせてくれたり、棚の模様替えまでしてくれたり、店員さんが美術スタッフばりに働いてくれて、本当に助かりました」(後藤監督)
主人公の岡山天音はじめ森川葵、最上もが、平田満、滝藤賢一ら、旬の若手から実力派のベテランまでが顔をそろえるキャスティングも魅力。ここでも滝藤、平田、森川ら愛知県出身者を重要なポジションに配し、彼らのネイティブな名古屋弁が作品のご当地色を色濃くし、観る者をにやりとさせてくれます。
他にも落合博満ドラゴンズ元監督の長男・落合福嗣がナビゲーターとして毎回出演していたり、登場人物の苗字が『杉下』『小松』『今中』『岩瀬』などすべてドラゴンズOBの名前だったりと名古屋の人ほど分かってにやりとできるネタも随所に盛り込まれています。
劇場版は監視社会に警鐘を鳴らすまさかのダークファンタジー(!)
ドラマのシーズン2に合わせて劇場版『リトル・サブカル・ウォーズ ~ヴィレヴァン!の逆襲~』が公開されることも話題のひとつ。ローカル局のドラマの映画化はかなり異例です。その狙いをメ~テレの松岡達矢プロデューサーはこう語ります。
「せっかく面白い作品ができたのに、東海3県放映の深夜枠ということもあって、どうしても視聴者は限られる。ネット配信もしていますが、やはりドラマの存在そのものを知ってもらわないと視聴にはつながりません。映画なら全国に向けて宣伝できるし、より多くの人に見てもらう機会が広がると考えたのです」
劇場版はコメディであるドラマとは異なる世界観で描かれ、サブカルが無くなった世界が舞台。サブカルを徹底的に検閲・撲滅しようとする政府に、主人公らが立ち向かいます。もちろん笑えるシーンは多々ありますが、世の常識が一変したコロナショック、香港のディストピア化に対する風刺になっていて、見ごたえ十分のダークファンタジーになっています。
名古屋&サブカル色の裏に秘められた普遍的なテーマ
こてこての名古屋色に彩られたコメディである『ヴィレヴァン!』シリーズですが、実は誰しもの心に響く普遍的なテーマが貫かれています。
「ヴィレヴァンってお店が儲かることは二の次、みたいな時代に逆行した変な人の集まりなんですが(笑)、人間本来のアナログで面白い部分を大切にして、熱意でいろんなことを乗り越えて楽しく生きていこう!という思いで成り立っている。それが本当はすごく大事なんだと問いかけてくる場所。そんな店の個性が、作品でもそのまま出せればいいなと思っています」(後藤監督)
作中ではアーティストや文学作品などサブカルチャー関連の解説がテロップで次々と流されるなど、視聴者が追いつけないほど過剰な情報量が詰め込まれています。これもまたヴィレヴァンらしさの表現であり、さらには今の時代に向けたメッセージも込められていると後藤監督はいいます。
「ギャグのシュールさや情報量の多さゆえに、すべてはまぁ伝わっていないだろうな、と。でも、分かんないところは分かんないでいいと思うんです。今って自分の中で完結しちゃって、他人が興味を持っていることに関心を示さなくなっちゃってる人が多い。そもそもヴィレヴァンに行くこと自体が、自分が知らない世界との出会いを求めに行くことなので、ドラマも、分かんないことでも何か面白そうだな、とのぞいてみるきっかけにしてもらいたいんです」
ヴィレッジヴァンガードという本屋が名古屋から全国へと広がったのは、訪れる人の好奇心を刺激して心に響く、普遍的な面白さ、魅力があったからにほかなりません。その世界観を映像世界の中で再現した『ヴィレヴァン!』。ドラマ『ヴィレヴァン!2 ~七人のお侍編~』は東海地方では地上波で、ネット配信なら全国で視聴可能(TVer、GYAO!、U-NEXT、ひかりTV)。劇場版は全国約40館で上映されます。ヴィレッジヴァンガードが異端と思われながらもディープなファンをつかんできたように、ドラマも映画も一度観るとハマってしまう、かもしれません…!
(ドラマ、映画の画像はメ~テレ提供。店舗写真は筆者撮影)