AAA・宇野実彩子、ボイメン小林豊も出演!『名古屋行き最終列車』に見る地方局ドラマの可能性
深夜枠で最高視聴率8%を記録。名古屋制作の人気ドラマ第6弾がスタート
名古屋のメ~テレ(テレビ朝日系列)制作のドラマシリーズ『名古屋行き最終列車』の第6シーズンが1月15日から始まりました(0時20分~)。同作はメ~テレ開局50周年記念企画として2012年12月に4話が放映。これを皮切りに以降、毎年冬に続編が制作・放映されています。
各シリーズ30分4夜連続(2015年の第3シリーズのみ5回)のオムニバスドラマで、出演者は松井玲奈、六角精児、大杉漣、吹越満、松下由樹ら実力派俳優がズラリ。名古屋鉄道の車中での出会いや交流をきっかけとする人間模様をつづるヒューマンストーリーです。
深夜枠ながら最高8%台の視聴率を獲得し、時間帯占拠率は30%以上。この好調さを受けて、今シーズンは毎週月曜日・10週連続放映と6年目にして念願のレギュラー化を果たしました。また今回はAAA(トリプルエー)の宇野実彩子が初出演、過去シリーズで本人役として“チラ出”していたBOYS AND MENの小林豊も初めて主人公の一人として出演。人気アーティストの起用に新たな視聴者獲得への期待も高まります。
ヒットの要因は「松井玲奈」「鉄道ファン」「名鉄」
「松井玲奈」「鉄道ファン」「名鉄」。高視聴率のポイントはこの3つのキーワードにあります。
「松井玲奈」は全シリーズにレギュラー出演。言わずと知れた元SKE48のフロントメンバーで現在は女優として活躍。愛知県出身という強みもあり、シリーズの看板役を担っています。
タイトルの通り、ドラマの重要な舞台となるのが「鉄道」です。ほとんどのストーリーは登場人物が最終列車にゆられるシーンから始まり、その他にも列車内のシーンが随所に差し込まれます。そして、実際に鉄道ファンである六角精児が鉄道会社の職員役でレギュラー出演。しかもシリーズごとに「乗り鉄」「録り鉄」「食い鉄」など様々な分野の鉄道ファンとして登場し、マニアックな鉄道ネタを物語に盛り込んでいます。加えて、松井玲奈もファンの間では鉄道ファンとして有名。いわゆる鉄ヲタの琴線に響く要素が満載なのです。
そして「名鉄」。名古屋鉄道は愛知県内を網羅する唯一の私鉄で、名古屋近辺の住民なら乗ったことがない人はいないほどの主要公共交通機関。“メーテツの赤い電車”は地元の人にとっては誰もが慣れ親しんできたソウルトレインです。しかも撮影で使われているのは5300・5700系、通称SR(スーパーロマンスカー)という30年以上運用されているオールド車両。今ではほとんど見られない、座席を向かい合わせにできる転換クロスシートを採用していることからも、名鉄ファンにとってはノスタルジーをかき立てられるものとなっているのです。
この3要素がコアなファンをつかみ、これまでに公式ファンミーティングを4回開催し、それぞれ約250人が集まっている人気ぶりだそう。それ以外でもオフ会としてロケ地巡礼を楽しむ鉄道ファンは少なくなく、放映時にはSNSで多くのリプライが飛び交います。
多彩な人間模様を描くドラマ性と豪華な俳優陣
そんなマニアックな要素以外にも見どころ、楽しみ方には事欠きません。ドラマのキーワードとなるのがタイトルでもある「名古屋行き最終列車」、そして「忘れ物」。地元の人ならピンと来るのですが「名古屋行き」というのがミソで、最終列車の乗客は名古屋から周辺都市へ帰る人が圧倒的に多い中、登場人物は逆に深夜に名古屋へ向かう人なのです。つまり主人公たちは人の流れに逆行する少数派であり、それぞれ何らかの事情を抱えています。そんな彼らが車内に「忘れ物」をしたり、人生の「忘れ物」に気づいたり取り戻したりするのが基本パターン。基本的にはコメディですが、時にビターなエッセンスもあり、それでも最終的にはハートウォーミングに落ち着く、感情移入しながら安心して視られる物語となっています。
シリーズ化していることで、レギュラーの登場人物の生活に毎回変化や事件がおき、彼らの人生の転機に立ち会ったり成長に目を細めたりと、継続して見守っていく面白さもあります。例えば松井玲奈演じる一美は第5シリーズで勤務先が倒産して失業。今シリーズでは彼女のその後がまず気になります。また六角精児のハマり役、名鉄の忘れ物係・宗太郎の恋は今度こそ実るのか?・・・などなど。番組サイトで各キャラクターのこれまでの足跡をフォローしてあるのも親切です。
キャスティングも大きな魅力。ドラマや映画で活躍する名優たちが顔を揃える豪華さはローカルドラマとは思えないほどです。
今や絶滅危惧種?ローカル局制作のドラマシリーズ
さて、実はこのドラマ、現在の日本のテレビシーンにおいて異例づくしの作品です。
「名古屋に限らず、地方のテレビ局がドラマを自前で制作し、それがシリーズ化することは今はほとんどないんです」
こう語るのは同局の神道俊浩プロデューサー。理由は明白。「ドラマは時間もお金もかかり、地方局が制作するにはハードルが高すぎるから」(神道P)。
メ~テレは名古屋のテレビ局の中ではドラマ制作においてはむしろ後発で、かつてはCBCの『キッズ・ウォー』シリーズ、東海テレビの『名古屋嫁入り物語』など、他局による名古屋発で全国的人気を博した作品もありました。しかし、現在ではこの流れはめっきり廃れてしまい、シリーズ物のドラマはほとんど視られないのが現状です。
そんな中で異彩を放つ同作は、第1シリーズが「東京ドラマアウォード2013ローカル・ドラマ賞」、第2・3シリーズが「平成26・27年日本民間放送連盟賞テレビドラマ番組優秀賞」と業界内でも高い評価を得ています。「民放連のドラマ部門で2年連続受賞した作品もおそらく例がないはず。なぜなら2年続けて制作される地方局制作のドラマ自体がないからです」(神道P)。
低予算から生まれた「名古屋式」の意外な利点
撮影の方法も、東京のキー局のセオリーとは大きく異るものだといいます。ひとつのシーンを何パターンも録らない、スタジオを使わず一般の民家などを借りてロケをする、など。これらの方法は業界では「名古屋式」と呼ばれているとか。低予算の中で経費と時間をやりくりするために生まれたノウハウですが、効率的で、出演者の集中力も高まるという利点も生んでいるといいます。
それでも、先に神道Pが明かしてくれたように、ドラマ制作は地方のテレビ局にとって負担が大きいもの。にもかかわらず継続しているのはなぜなのでしょう?
「スポンサー収入が減少する中で、テレビ局にとってコンテンツビジネスはこの先ますます重要になっていきます。視聴者に喜んでもらうことがテレビの役割のひとつだとしたら、ドラマの持つチカラは他のどのコンテンツよりもスゴイんです。『名古屋行き~』のロケは終電の運行後の深夜に行うことも多いんですが、エキストラ募集には定員の何倍もの方が応募してくれ、中には毎回のように三重県からわざわざ駆けつけてくれる常連さんもいる。名鉄さんがロケ用に列車を走らせてくれたり全面的に協力してくれるのもまたドラマのチカラに魅力を感じてくれているからだと思います」
ネット配信でさらに広がるローカル発ドラマの可能性
また、ローカル発だからこその意義も決して小さくはないとも。
「“メーテツの赤い電車”は名古屋、愛知の人たちみんなが共通認識できる“ふるさと”の象徴です。名古屋を離れた人がこのドラマで久しぶりに名鉄電車を視て、『たまには帰ってみようかな』とつぶやくツイッターの投稿も実際にありました。また名古屋市の名古屋応援事業のひとつに認定されたり、周辺自治体から『うちの町を舞台にしてもらえないか』と相談を受けることも。地元を舞台としたドラマを作ることで、地域の魅力を発信することもできると感じています」(神道P)
放送回数が拡大した第6シリーズは視聴するチャンスも広がっています。「ひかりTV」は第5・6シリーズを4K独占配信する他、過去の全シリーズを配信。「TVer」(ティーバー)でも今シリーズから見逃し配信(最新回を放映後から一週間限定)がスタート。さらにレンタルチェーン「GEO」で第4・5シリーズのDVDレンタルも始まりました。過去のシリーズも合わせて視たい、名古屋在住じゃないけど視てみたい、という要望にも応えられるようになっています。
いろんな角度から楽しめ、またローカル局制作ドラマの新たな可能性も秘めた『名古屋行き最終列車2018』。ドラマファンから鉄道ファン、メディアウォッチャーまで、幅広い人たちに視聴してもらいたいと思います。
(※神道Pの写真は筆者撮影。他はすべてメ~テレ提供)