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中村亮土が語るエディー・ジョーンズヘッドコーチの凄味とは【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
サントリーでプレーする中村。フィジカルの強さを長所とする。(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

4年に1度のラグビーワールドカップの第8回大会が9月18日、イングランドで開幕する。

同大会に参加する日本代表は過去4年間、エディー・ジョーンズヘッドコーチ(HC)のもと活動してきた。2013年6月には、控え選手主体だったとはいえ当時の欧州王者だったウェールズ代表に勝利。14年にはテストマッチ(国同士の真剣勝負)で11連勝を果たすなどし、ファンの支持を得てきた。本大会では予選プールBに入り、19日、ブライトンで南アフリカ代表との初戦に挑む。

ジョーンズHC体制のチームで昨春までプレーしていたのが、中村亮土。帝京大学3年時に初めて代表入りし、同大学の主将だった2013年 5月10日、アジア5カ国対抗のUAE代表戦で初キャップを取得している。学生時代は4年間、常に大学選手権優勝に輝き、現所属先のサントリーでも新人だった昨季からレギュラーを獲得している。

以下、9月8日の一問一答。

――ワールドカップに出場するメンバー、31人について。

「僕が入っていた時と一緒で、エディーさんの信頼が厚かったメンバーだと思います。順当に選ばれるメンバーが選ばれたんじゃないかな、と」

――なかでも印象が強い人は。

「皆、強いですけど。どんな意味で、がいいですか」

――特に、この人にがんばってほしいと思う相手は。

「僕は内田(啓介、スクラムハーフ。大会直前にメンバーから外れ、バックアップメンバーとなる)に頑張ってほしかったです。それ以外で言うと…個人的に、垣永(真之介、プロップ。内田と同時期にバックアップメンバーに)」

――2人とも同期ですね。

「僕のなかでは2人を応援していました。僕も、悔しかったですね。僕が外れたなかでも2人が頑張り続けていたことは、励みになっていたので。よく喋ったりしていた仲で、大会に対する思いも知っていた。…他には、若いメンバーにはがんばってほしいですね。福岡(堅樹、ウイング)、藤田(慶和、ウイング)、(センター松島)幸太朗ですね」

――松島選手。「言葉数が少ない」という人物評で通りますが、本当はそんなことはない。

「無茶苦茶、明るいですよ。肝っ玉も太い。大舞台だからといってどうこうなるタマじゃない。初めての状況、グラウンド、ポジションでも、それらをプレッシャーと感じていないような。余裕がありますよね。自信があるから、余裕が生まれる。それに(所属先のサントリーで)一緒にやってきて、ポテンシャルが高いのもわかっている」

――ジョーンズHCの印象。

「一言では表せない、かな。組織を作るなかでトップの人間にふさわしいように思います。それは雰囲気であったり、考え方、懐の深さ、我慢強いところからそう感じます。リーダーではあるんですけど、リーダーというよりは、組織を強くする人」

――我慢強い、ですか。

「一喜一憂しない。目標に向かってスタンダードをぶらさないところがそうだと感じますね。選手が高いスタンダードを持っていない状況なら、自分の持つスタンダードに合わせるように持って行こうとします。そしてそのスタンダードのままやっていれば勝てると、いつも選手に投げかける。そのエネルギーもある方です。情熱、我慢強さがないと、言い続けるのは大変です」

――違ったら違うと言っていただきたいのですが、ことラグビーのチームビルディングや選手との関わり方に関して言えば、帝京大学の岩出雅之監督とも少し似ているような。

「そう思いますよ。僕はどちらも経験しているので。それを本人に言ったら、どちらも怒ると思います。そこも含めて…ということなのですが。僕のなかでの絶対的なリーダーは、あの2人なんです。ちょっとした違いはあるにせよ、やっているところの本質は一緒なのではないかと思います。組織の作り方とか…」

――人間をよく見る、とか。

「よく、見ていますね。大きな絵を見つつ、細かいものも絶対にやり抜く。おろそかになりそうなところも、徹底する。見落とさない。そう思うことの連続なので、これ、というものは思い出せないですけど…。目標に対してスタンダードが高いか低いかを言ってもらって、高い場所へ戻してくれる存在でした。自分ではスタンダードが高いと思っていても実はそうじゃない時、(2人は)常に『ここ(高いスタンダード)』に引き上げてくれた。ウェイトトレーニングの強度にしても、パスの精度にしても、キックの強度にしても…。(ジャパンに関して言えば)僕は下の位置だったと思うんですけど、(ジョーンズHCは)そういう選手も引き上げる努力をしてくれていたと思います。それには、応えられなかったですけど」

――代表離脱が決まった経緯。

「社会人(日本最高峰トップリーグ)1年目のシーズンが終わって(代表が)集まる時に、僕はそのシーズン(序盤から中盤は)出ていなかった。そこから、外れました。セレクションの段階でもなかったという感じで。(そのシーズンが始まる前の)春までは参加していたのですが。遠征には連れて行ってもらっていましたけど、戦力ではなかったですね。社会人のシーズンでいい結果を残さないと外される、という思いはあった。だから(サントリーに合流後しばらくは)チーム内での争いの段階で焦りがありましたね」

――中村選手が代表選手の一員だった時、ウェールズ代表に勝っています。

「本気でチームとして勝ちに行く雰囲気がありました。いつも勝ちに行くんですけど、それ以上に勝ちにこだわるような…。ちょっとしたミスや動きの違いを選手たちが細かく修正していく。それがあるかないかの違いが雰囲気に繋がっていくと思うのですが」

――グランドレベルでの細やかな指摘。南半球最高峰スーパーラグビーのハイランダーズから途中合流した田中史朗選手が、常にそのパートを担います。

「遅れて合流した場合、普通は遠慮して、どういう状況か様子を伺ってチームに入ろうとすると思うんです。でも、フミさんの場合はすぐに自分の思ったこと、スーパーラグビーで感じたことをチームに問いかけ、投げかけることができる。そこはすごい。思ったことをズバッといえる強さがあります。もう、生まれ持った資質じゃないですかね」

――中村選手がプレーするスタンドオフ、センターでは小野晃征選手、立川理道選手、田村優選手、クレイグ・ウイング選手がメンバー入りしました。例えば、立川選手と田村選手の凄味はどこにありますか。

「スキルが高い、と思います。コミュニケーション能力はチームに慣れていくうちに身に付けられるものでもある。そこは、僕も(ある程度は到達)できた。でも、スキルが理道さん、田村さんとは全然違った。パス、キャッチの部分で、です。プレッシャーのなかでいい選択、いいキャッチとパスができる。晃征さんもそう。ただ、晃征さんの場合はコミュニケーション能力も抜群に高い」

――かねてコンディションに不安を抱えていたウイング選手。本番に向けて、万全を期す。

「試合で結果を出す。でも、(自身が代表にいた時も)練習ではやり返せなかった…。あの時は試合に出たかった。出たら、やれるのに、と思っていた。もちろん、それを表に出すのはだめ。(選手選考について)僕らが口を出すと、チームとして動かなくなる。エディーさんを信用して動く。それがチームなので」

――練習のペースから性格から、何から何まで違う選手が1つのチームになっている。それがいまの日本代表。

「それはたぶん、皆がエディーさんを信じているからです。エディーさんが1人ひとりの性格やパフォーマンスを観て、判断している。それを選手がどうこう言うべきではないと、選手が信じているんです」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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