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日本人が中国卓球女子・劉詩雯の団体戦の欠場を残念がり、同情するワケ

中島恵ジャーナリスト
卓球混合ダブルスで銀メダルとなった劉詩雯(右)(写真:ロイター/アフロ)

8月1日、中国オリンピック委員会は卓球女子団体の出場メンバーだった劉詩雯(りゅう・しぶん)を王曼昱(おう・ばんいく)に交代させると発表した。

肘の故障が原因か

劉詩雯といえば、7月26日に行われた卓球混合ダブルスで許昕と組み、日本の水谷隼・伊藤美誠ペアと決勝戦で戦って敗れたことが記憶に新しい。

記者会見の場で涙を流し、「応援してくれた方々に申し訳ない」と平謝りし、深く落胆していたことが印象に残っているという人も多いだろう。

その劉は残る団体女子の試合に出場する予定だったが、取り消しとなってしまった。

現時点で選手交代の理由は不明だが、中国のネット上ではいくつかの憶測が飛び交っている。

一つ目は劉の肘の状態が悪化したのではないかという説。以前から肘に痛みがあり、万全な状態ではなかったが、団体戦に向けた練習中、さらに悪化したため、交代することになったのだろうという。

二つ目は混合ダブルスで負けたことによる精神的なショックからまだ立ち直れず、メンタルの面から交代させたのではないかという説だ。

劉が自ら辞退したということも考えられなくもないが、30歳の劉にとって、おそらくこれが最後の五輪になる可能性が高い。劉自身には、混合ダブルスの雪辱を果たしたいという強い思いもあっただろう。そう考えると、肘の状態を見たコーチによる判断だったのかもしれない。

真相は不明だが、中国はシングルス、ダブルス、団体のいずれでも「国技」卓球で「金メダル」を取ることが至上命題だ。そのためにとった最善の戦略であることは間違いない。

いずれにしても、劉詩雯の出番はこれでなくなってしまったわけで、彼女自身にとって、とても残念なことだし、中国国内でも残念だという声が大きい。

だが、このことについて、中国人と同じように、あるいは、中国人以上に、日本人のSNSでも、劉にかなり同情的なコメントが目立つことに気がついた。

「残念!あのフットワークをもう一度見たかった!」

「もう一度、日本選手との死闘を見たかった。残念です」

「混合ダブルスは最高で最強の試合だったと思います。一生忘れません」

「無理しないで、早く肘を直してください」

「おちゃめでかわいい選手でしたね。きっと最後の五輪だったでしょう」

「凜としていて、きれいな選手でした」

「肘の具合が心配です。また、見たいです」

不運の卓球女王へのエール

混合ダブルスのときに見せた「強い劉詩雯」の印象が残っているからか、あるいは、劉の真面目な戦いぶりや試合後の会見の様子に好感を持ったからか、容姿や雰囲気が、どことなく日本人に似ているからか……。

強豪チームの選手である劉に対して、同情したり、励ましたり、エールを送ったりするコメントは少なくなかった。

出場しないことが決まった外国人選手に対して、これだけ関心が高いことにやや驚いたが、それだけ劉詩雯という選手に魅力があるからだろう。

劉は1991年生まれ。中国の東北部・遼寧省撫順(ぶじゅん)の出身で、今年の4月に30歳になった。

幼い頃から卓球選手としての才能を発揮し、一流選手に上り詰めた。広東省にある華南理工大学を卒業した才媛でもある。

これまで世界選手権などで何度も1位に輝いたことがあり、2016年のリオ五輪のときにも世界ランキングで1位だったが、団体戦のみしか出場できず、シングルスやダブルスでの出場は叶わなかった。その分、今回の五輪に賭ける意気込みは、人一倍、大きかったと思われる。

しかし、リオと東京の二度の五輪で、結局、彼女は一度もシングルスやダブルスで金メダルを取ることができなかった。

その「五輪での不運」を知るファンたちを中心に、彼女に同情を寄せる人は多い。

SNSのコメントの中には、こんな言葉もあった。

「中国の選手層はとても厚い。中国国内でここまで勝ち抜いてきただけでも、想像を絶する大変さだったことだろう。ご苦労様と言いたい。これまでの彼女の努力に拍手を送ります」

日本でも、海外でも、金メダルを取った選手は、もちろん賞賛されるが、たとえ金メダルが取れなくても、強く印象に残る選手はいる。日本ペアに負けて、中国人に謝り、涙を見せた劉詩雯も、そうしたひとりだったといえるだろう。

参考記事:

中国の最強卓球ペアが負けた瞬間 中国メディアは厳しい報道をするも、SNSでは真逆の反応が……

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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