英プレミアのサッカー移籍金は青天井 巨額投資で1流選手も視聴者も獲得の好循環 全20クラブが黒字化
[ロンドン発]サッカーの英イングランド・プレミアリーグ。夏の移籍は8月31日午後11時(日本時間9月1日午前7時)に締め切られました。プレミアの移籍金総額は昨季より23%もアップし、史上最高の14億3千万ポンド(約2036億円)に達しました。
イギリスの欧州連合(EU)離脱で英通貨ポンド安になっているとは言え、移籍金は青天井で増え続けています。英BBC放送によると、プレミア夏の移籍金総額の推移は下のグラフのようになります。
金融バブルの時代、プレミアはUEFA(欧州サッカー連盟)チャンピオンズリーグのベスト4に3チームが進出する黄金時代が3シーズンも続きました。
2008年のリーマン・ショックによる世界金融危機で1ポンド=250円だったポンドは110円台に急落。金の切れ目は縁の切れ目で、トップフットボーラーの海外流出が続き、プレミアのクラブは欧州の強豪クラブに勝てなくなってしまいました。
しかし、プレミアの移籍市場は完全復活。世界のスーパースターだけでなく、名監督が集まり、今季も手に汗握る熱戦が繰り広げられています。まさに「金満リーグ」の面目躍如といったところです。
欧州の他のサッカーリーグに比べ、プレミアの大盤振る舞いは尋常ではありません。下のグラフを見ると、プレミアは他リーグを大きく引き離していることが分かります。イタリアのセリアAに比べても2倍近く使っています。
中東のオイルマネーが潤沢に使えるマンチェスター・シティ(マンC)、ロシアのオルガルヒ(新興財閥)に支えられたチェルシー、米資本のマンチェスター・ユナイテッド(マンU)と、プレミアには選手や監督だけでなく、資本も海外からドッと流れ込んできます。この夏、移籍した目玉選手を見ておきましょう。
(1)7500万ポンド エヴァートンからマンUに移籍したベルギー代表FWルカク
(2)6000万ポンド レアル・マドリードからチェルシーに移籍したスペイン代表FWモラタ
(3)5200万ポンド モナコからマンCに移籍したフランス代表DFバンジャマン・メンディ
(4)4650万ポンド リヨンからアーセナルに移籍したフランス代表FWラカゼット
(5)4500万ポンド トッテナムからマンCに移籍したイングランド代表カイル・ウォーカー
(5)4500万ポンド スウォンジーからエヴァートンに移籍したアイスランド代表MFギルフィ・シグルズソン
マンUが3連勝で飛び出し、2勝1敗のリヴァプール、ハダースフィールド、マンC、WBAが並んでいます。下位リーグから上がってきたハダースフィールドは補強が十分に効いています。
昨季優勝を飾ったチェルシーは6000万ポンドでスペイン代表FWモラタを獲得したものの、スペイン代表FWジエゴ・コスタの移籍をめぐるゴタゴタが尾を引いているようです。
世界中の一流選手を買い漁る大金がどこから湧いてきたのでしょうか。大きいのは放映権料です。2016/17年シーズンからプレミアリーグの放映権料(3年契約)は30億1800万ポンドから51億3600万ポンドにハネ上がりました。
衛星放送やインターネット放送が普及し、世界最高峰のプレーを見ようとプレミアの有料視聴者は欧州にとどまらず、米州、アジア、アフリカに広がっています。優良コンテンツを求めて放映権料が高騰、クラブの収益が上がって移籍にさらにカネを投入できるという上昇スパイラルが起きています。
ロンドン在住のプレミアとUEFAチャンピオンズリーグの好カードを見ようと思うと、有料のスカイスポーツだけでなく、BTスポーツにも入らないといけないから大変です。HDから4Kのなるといったい、視聴料はどれだけ上がるのか、不安になります。一方、クラブは放映権料だけでなく、関連グッズの販売収入も大いに期待できます。
国際会計事務所デロイトの報告書「サッカーの収支」によれば、プレミアの収入が欧州のリーグの中でも断トツで多くなっています。15/16 年シーズンの1クラブ当たりの収入は2億4300万ユーロ、1試合当たりの観客動員数は3万6490人でスタジアムの稼働率は96%。欧州でもナンバー1の人気です。
プレミアでは収入48億6500万ユーロの63%に当たる30億4700万ユーロを選手の報酬につぎ込んでいます。15/16 年シーズンは20クラブ中17クラブが黒字になり、16/17 年シーズンは全クラブが初めて黒字になるとデロイトは予測しています。
ファンの需要と選手や監督による才能の供給。プレミアは選手に巨額マネーをつぎ込むことで世界中の需要と供給を握ることに成功したと言えるでしょう。
(おわり)