伊勢志摩サミット アベノミクスは世界経済の万能薬にはならない
「世界経済は分岐点」
世界経済危機は再来するのでしょうか。日経新聞によると、26日に開幕した主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)で議長国の安倍晋三首相は5割を超える国際商品相場の下落率や、新興国の投資、国内総生産(GDP)の落ち込みなどのデータを示し、「世界経済は分岐点にあり、政策的対応を誤ると通常の景気循環を超えて危機に陥るリスクがある」と指摘したそうです。
「悲観的とは認識していないが、リスクから目をそらしてはならない。様々な下方リスクを抱えている」「2008年の北海道洞爺湖サミット開催後にリーマン・ショックが発生し、危機を防ぐことができなかった。その轍は踏みたくない」と述べました。しかし、焦点だった協調的な財政出動について「各国の事情に応じて判断すべきだ」と後退しました。
出席者からは「世界経済は危機ではない」といった指摘もあったそうです。また、安倍首相は「自由貿易は経済成長や雇用は原動力だ。G7として保護主義抑止を力強く発信していくことが重要だ」と述べ、ナショナリズムやポピュリズムによる保護主義の台頭に強い懸念を示しました。米大統領選の共和党予備選で不動産王ドナルド・トランプ氏が指名獲得を確実にしたことや、英国の欧州連合(EU)離脱問題はその悪影響を如実に物語っています。
世界経済の処方箋
安倍首相は記者会見で、世界経済の持続的成長に向けた「世界経済イニシアチブ」の取りまとめにG7が合意したとして「アベノミクスの3本の矢を今後は世界に展開していきたい」と意気込みました。参院選に向け、消費税増税先送りの地ならしをするとともに、G7の成果を国内向けにアピールする思惑が透けて見えます。
しかし各国によって経済や財政の状況、人口見通しが大きく異なるため、政策協調を打ち出す「世界経済イニシアチブ」を発表するのはなかなか難しいでしょう。日本でも失速しているアベノミクスは世界経済の万能薬になるわけがありません。各国の政治、経済リスクを振り返っておきましょう。
(1)日本は円高デフレに逆戻りするリスク、人口減リスク
(2)経済回復が順調な米国はトランプ・リスク
(3)英国はEU離脱リスク
(4)EUはユーロ圏の構造問題、難民問題
(5)中国や新興国の景気減速、貿易・投資の鈍化
問題の在り処とそれに対する処方箋はさまざまです。しかしG7に共通するリスクがあります。生産性の伸び率の鈍化です。
鈍化する生産性の伸び率
経済協力開発機構(OECD)が26日公表した「生産性指標(Compendium of Productivity Indicators)」で、生産性の伸びが多くの先進国、新興国で鈍化し続けていることが浮き彫りになっています。
G7について生産性の伸び率トレンドを見てみましょう。
日本は1990年代に金融バブルが崩壊するまでG7の優等生でした。しかし、その後は鈍化の一途をたどっています。G7の中ではイタリアが一番深刻ですが、各国とも世界金融危機が起きる前から同じような傾向を見せています。
日本の労働1時間当たりのGDPはG7の中でも一段と低いことが上のグラフから分かります。日本は失業率が低い分、労働生産性も低くなるという議論がありますが、正規と非正規雇用の固定化が若者や女性労働者のやる気を大幅に削いでいるのではないでしょうか。
デジタル革命のパラドックス
OECDによると、鈍化は、ほぼすべての産業で、大企業か中小・零細企業かを問わずに起きているそうです。意外なことに、デジタル技術の革新で生産性を押し上げると期待されていた情報、通信、金融、保険といった産業で顕著な鈍化が見られるそうです。このパラドックスの原因は何でしょう。
情報通信技術への投資をGDP比で見ると、ドイツ、スウェーデン、日本、米国で特に落ち込んでいます。その一方で、新しい企業が生産性の低い企業に取って代わる速度や開業率も多くのOECD諸国で大幅に鈍化しています。世界経済危機の後、スキルのミスマッチ、投資の低迷、企業活力の減退なども一因になっている可能性があるそうです。
デジタル技術の革新は、需要と供給の均衡点を瞬時に見つけ出し、モノやサービスをさらにもう一つ作り出すコストを限りなくゼロに近づけていきます。モノやサービスは金銭的な価値を生み出さなくなり、企業利益は失われていくという現象が加速しています。GDPはもはや成長を測る物差しとしては適切ではないのかもしれません。
グローバル化とデジタル化が生み出した資本主義の衰退という深刻な問題に対する解決策は今のところ見つかっていません。
(おわり)