【なぜ仮面ライダーは悪魔となったのか?】地獄へ誘う仮面ライダーエターナルの悲哀と魅力とは?
みなさま、こんにちは!文学博士の二重作昌満(ふたえさく まさみつ)です。
ジメジメする毎日が続きますが、いかがお過ごしでしょうか?
さて、今回のテーマは「風」です。
「風」とは空気の流れや気流、特に肌で感じるものと定義される一方、なりゆきや形成を表わす言葉としても用いられています(広辞苑)。
つまり、「風」とは単なる自然現象だけでなく、勝負事において風向き次第で勝敗が決まるという、極めて重要な役割も担う意味合いとしても認識されています。
この「風」ですが、我が国が世界に誇る特撮ヒーロー番組においても、何度も多用されてきた力の源でもあります。
例えば、東映制作の特撮ヒーロー番組『仮面ライダー(1971)』シリーズに着目してみると、仮面ライダーは風のエネルギーで変身するヒーローとして登場し、敵が現れればバイクに乗って風のように出現し、敵を倒せば風のように去って行くヒーローとして描かれていました。
そんな「風」とも非常に縁深いヒーローである仮面ライダー。その後、半世紀以上に渡り、次々に新シリーズがつくられていきました。
現在までたくさんの仮面ライダーが登場してきた中、特に「風」との関わりが強いヒーローであったのが、『仮面ライダーW(ダブル)』と呼ばれる平成生まれの仮面ライダーでした。
『仮面ライダーW(2009)』は、『仮面ライダークウガ(2000)』を起点とする平成仮面ライダーシリーズの第11作であり、数ある仮面ライダーシリーズの中でも極めて高い人気を誇っています。
本作は約1年に渡る放送を終了した後も、後続の仮面ライダーシリーズにて何度も再登場を果たしたほか、現在もマンガやアニメ作品といった他媒体での派生作品が発信され続けています。
そんな人気作『仮面ライダーW(2009)』の物語において、まさに吹く「風」が勝敗を決めた名勝負がありました。
それは、とある街を舞台に繰り広げられた仮面ライダー同士の対決。
いったいどんな戦いだったのか、本記事では少しだけ紐解いていきたいと思います。
※本記事は「私、アニメや特撮にくわしくないわ」という方にもご覧頂けますよう、可能な限り概要的にお話をしておりますので、ゆっくり肩の力を抜いて、気軽にお楽しみ頂けたらと思います。
【新時代への超変身!】塗り替えられた伝説!昭和から平成へと受け継がれた仮面ライダーシリーズの歴史とは?
さて、本記事では『仮面ライダーW(2011)』のお話に入っていきますが、その前に少しだけ、仮面ライダーシリーズはどんなシリーズなのか、振り返ってみたいと思います。
仮面ライダーは、漫画家・石ノ森章太郎先生の原作で生み出された特撮ヒーローのことです。1971年にシリーズ第1作『仮面ライダー(1971)』の放送が開始され、主人公が悪の秘密結社ショッカーによって改造手術を施されて、バッタの能力を持った大自然の使者・仮面ライダーとなり、人間の自由と世界の平和を守るため、愛車であるバイク(サイクロン号)に乗り、毎週ショッカーが送り込む恐ろしい怪人達と戦う物語が展開されました。
その結果、『仮面ライダー(1971)』は国内で社会現象的な大ヒットを巻き起こすことになりました。その後、次回作『仮面ライダーV3(1973)』や『仮面ライダーBLACK RX(1988)』等の派生作品が次々に放送され、昭和の仮面ライダーシリーズとして定着していくことになります。
そして時代が昭和から「平成」に変わると、平成仮面ライダーシリーズの放送が開始されました。その第1作となったのが『仮面ライダークウガ(2000)』であり、本作では「仮面ライダー=改造人間」、「仮面ライダー対悪の秘密結社」といった、昭和の仮面ライダーシリーズで定着していた「お約束」を破壊し、平成という新時代にふさわしい仮面ライダーの創造に着手していきました。
『仮面ライダークウガ(2000)』の好評を得て、『仮面ライダーアギト(2001)』、『仮面ライダー龍騎(2002)』等、毎年新たな仮面ライダーシリーズが制作されるようになり、新時代のヒーロー達の物語を描く「平成仮面ライダーシリーズ」として定着していくことになります。当シリーズは個性的な作品を次々に輩出し、平成仮面ライダーシリーズは通算第10作目という節目の作品を迎えました。
その後、平成仮面ライダーシリーズは次なる10年の歴史へと突入していくことになります。その口火を切ったのが、シリーズ第11作となる『仮面ライダーW(2009)』でした。
『仮面ライダーW(2009)』は、風の吹く架空の街・風都を舞台に、半人前(ハーフボイルド)の私立探偵・左翔太郎と地球の全ての知識にアクセスできる頭脳派の少年・フィリップが2人で1人の「仮面ライダーW」となり、この街を泣かす犯罪を引き起こす悪の組織「ミュージアム」が生み出す怪人(ドーパント)から、愛する風都を守る物語。
エコロジー都市・風都という街が舞台であること、さらに主人公・仮面ライダーWは変身ベルトに、地球の記憶を宿した2本のUSBメモリ(サイクロンとジョーカー)を差し込んで、高速の風と共に変身する描写が取り入れられる等、歴代仮面ライダーの中でもとりわけ「風」の要素が強く反映されており、初代仮面ライダーの持つ懐かしさと、新時代ならではの新しさがベストマッチした作品でした。
そんなエコロジー都市・風都を舞台に、仮面ライダーWは街を泣かす怪人(ドーパント)と毎週激しい戦いを繰り広げます。自分達の街を守り続けてくれる仮面ライダーに、多くの風都の人々は救われ、仮面ライダーを「街のヒーロー」として認識していくようになりました。
ーそんな中、突然大きな災厄が風都を襲います。
その災厄を引き起こしたのは、たくさんの怪人達が所属する傭兵部隊を指揮し、人々を地獄の世界へと誘う、まさしく「悪魔」と呼ぶべき未知なる仮面ライダーでした。
【さあ、地獄を楽しみな!】メモリと惹かれ合う男・仮面ライダーエターナルと仮面ライダーW、その決着の行方は?
仮面ライダーWが守る都市・風都。しかしそんな風都の平和と人々の命は、ひとりの悪魔の男が率いる傭兵部隊によって脅かされました。
彼の名は、大道克己。またの名を、仮面ライダーエターナル。
世界各国で破壊活動を繰り返してきた不死身の特殊傭兵部隊「NEVER」の隊長であり、彼の目的は風都を殲滅し、占領することでした。
その極悪非道の所業から、後に「風都史上最悪の犯罪者」と称されるようになる彼。しかしもともと彼は風都の出身であり、人々を守ろうとした英雄でもありました。
そんな彼がなぜ風都を狙うのか?それは彼が辿ってきた哀しい過去によるものでした。
もともと病弱で心優しき少年だった克己は、16歳の時に交通事故で死亡し、彼の母(美樹)が開発した特殊な酵素によって蘇生し、毎年処置を行なうことによって生命が維持される「不死の存在」となりました。
彼が復活するきっかけとなる特殊な酵素。実はある財団による援助によって維持されてきた技術でした。しかし、財団が人の肉体を強化する技術「ガイアメモリ」を出資先に選出したことで、投資の打ち切りが決定されます。
これに伴い、克己は資金を稼ぐため、特殊傭兵部隊「NEVER」を結成して世界各地の戦場へと出向きます。しかしある時、彼が目にしたのは「ガイアメモリ」を巡る残酷な所業であり、克己を「心の英雄」と慕い、彼が鼓舞し助けようとした人々がむざむざと目の前で死んでいく地獄絵図を経験します。
「負けたよドクター。よくこんな残酷な仕打ちを考えつくよ。俺としたことが、一瞬忘れちまってたぜ。人は皆、悪魔だと言うことを・・・」(克己)
この凄惨な事件を機に、高笑いと共に克己の性格は豹変。彼の人間性は消え、目的のためなら仲間でさえ切り捨てる冷酷非情な性格となります。
そして克己が率いる傭兵部隊改めテロリスト集団「NEVER」が次なる標的に設定したのは、彼の競合相手であるガイアメモリがはびこる都市・風都でした。
彼らが行なおうとしていたのは、「ガイアメモリに命運を握られた、哀れなる箱庭の住人たち」である風都の人々に屍化光線をもたらし、人でない存在(ネクロオーバー)に変えること。正に風都を地獄に変える悪魔の所業でした。
そんな凶行に激しく憤る仮面ライダーWですが、克己が変身するエターナルの強さは圧倒的。激しい戦闘の中で苦戦を強いられます。
そんなWを支えたのは、街のヒーローである仮面ライダーを慕う風都の住民達の声援でした。
「仮面ライダーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
「がんばって、仮面ライダーーーーーーーーーーー!」
「負けないで。仮面ライダー。」
力強く仮面ライダーを応援する住民達の声援に応えるかのように、風都に「風」が吹き始めます。「風」は仮面ライダーWに力を与え、Wは奇跡の変身を遂げます。
風都がもたらす勝利の「風」は、仮面ライダーWに吹きました。
街のシンボルである風都タワーを舞台とした空中決戦の末、形勢逆転した仮面ライダーWは地獄の悪魔・エターナルを葬ります。
街が、仮面ライダーを救ったのです。
「久しぶりだな・・・・死ぬのは・・・・」(克己)
風都を地獄に変えようとした最悪の事件はこうして解決し、束の間の平和が戻ります。これは仮面ライダーだけの勝利ではありません。風都に暮らす人々と、街の勝利でした。
その後、克己の哀しい過去を聞かされた仮面ライダーWの二人は、克己がただの悪魔ではないことを知ります。
「大道克己!君は街を深く傷つけた。その罪は、永遠に消えることはない。だけどせめて・・・弔いの花を贈ろう。」(フィリップ)
「ああ、ここ風都が奴の故郷であり、墓標だ。」(翔太郎)
翔太郎は、夜のビルから花束を投げるのでしたー。
大道克己こと、仮面ライダーエターナルが行なおうとした所業は到底許されることではありません。しかし、少しでも彼の運命が変わっていたら、違う未来を辿っていたら、彼は決して悪魔ではなく、故郷・風都を守る仮面ライダーになっていたのかもしれません。
「お前らに言っておくが・・・俺は負けたんじゃない。たまたま風が吹いただけだ。覚えておけ。」(仮面ライダーエターナル/『超英雄祭2020』より)
最後までご覧頂きまして、誠にありがとうございました。
(参考文献)
・菅家洋也、『講談社シリーズMOOK 仮面ライダー Official Mook 仮面ライダー平成 vol.11 仮面ライダーW』、講談社
・用田邦憲、『仮面ライダーW FOREVER A to Z/運命のガイアメモリ』
・鈴木康成、『語れ!仮面ライダー【永久保存版】』、KKベストセラーズ
・鈴木康成、『語れ!平成仮面ライダー【永久保存版】』、KKベストセラーズ
(これまでの東映特撮ヒーロー番組を楽しむなら)
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