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ジョン・レノンが京都で温泉入浴した顛末――。浴衣をバスローブと勘違い!? ジョンが入った岩風呂とは

山崎まゆみ観光ジャーナリスト/跡見学園女子大学兼任講師(観光温泉学)
京都府亀岡市湯の花温泉「すみや亀峰菴」にて(撮影・筆者)

大浴場と客室を繋ぐ一〇〇メートルほどの渡り廊下を、濡れた浴衣でパタパタとスリッ パを鳴らして歩くのっぽの外国人。 その人はジョン・レノン。 日本の温泉入浴を体験した湯上がりに、浴衣をバスローブと勘違いして、濡れた身体を 拭かぬまま羽織り、廊下をびちょびちょにしながら客室に戻ってきたのだ。 部屋で待っていた妻のオノ・ヨーコ(小野洋子)は、慌ててフロントに連絡し、「浴衣 をもう一枚ください」と頼んだ。 この日、ジョン・レノンが描いた色紙が今も残っている。 色紙いっぱいに描かれているのは浴衣姿の二人。ジョン・レノンのサインでよく見る眼 鏡をかけた自身の顔が描かれており、浴衣からかなり足が出ている。一八〇センチ近い身 長のジョンには、当時の特大の浴衣でさえも短かったということだろう。「夢をもとう 小野洋子」と「 77 」という文字も入っている。 これは一九七七(昭和五十二)年に、ジョン・レノンとオノ・ヨーコが京都府亀岡市に湧く湯の花温泉「すみや亀峰菴」を訪れた時に描いた色紙だ。

「すみや亀峰菴」三代目で代表取締役の山田智さんは、「お帰りになる時に記念写真をお 願いしたら断られましたが、サインならと、目の前でさらさらっと描いてくださいました。 ジョン・レノンさんとオノ・ヨーコさんの浴衣姿のイラストは珍しいですよね。浴衣をバ スローブと間違えたことは、ご本人にとっても印象的だったのでしょうかね。ご夫婦のや り取りが目に浮かぶようですよ ね」と優しく微笑んだ

ジョン・レノン夫妻が湯の花温泉「すみや亀峰菴」にやって来た目的は茅葺ぶき屋根の家を求めてのことだ。当時、亀岡周辺には多くの茅葺屋根の家が残っていて、ジョンは 別荘を探しに来たのだ。

この日は京都からタクシーで往復する、日帰りの旅だった。 「すみや」へは一カ月ほど前に、とある旅行会社から「昼ご飯と温泉入浴をお願いした い」と連絡が入った。 山田さんが、高校生だった当時を振り返る。 「その日、私は学校でしたので、母と祖母でお世話をしました。『連絡をくれたら帰って 来たのに』と母に抗議した記憶があります(笑)。

今と違って、亀岡にほとんど外国人はいませんでしたから、ジョン・レノンさんご夫妻 がやって来ることは稀有な体験でした。ご夫婦は共に髪を長くされていましたので、その風貌に母も祖母も驚いたようで、母が、『ひとりは日本人と聞いていたけど… …』と、戸惑っていたことを覚えています」

※この記事は2024年6月5日発売された自著『宿帳が語る昭和100年 温泉で素顔を見せたあの人』から抜粋し転載しています。

「すみや亀峰菴」(撮影・筆者)
「すみや亀峰菴」(撮影・筆者)

「すみや亀峰菴」の徒然文庫に掲示されているサイン(撮影・筆者)
「すみや亀峰菴」の徒然文庫に掲示されているサイン(撮影・筆者)

観光ジャーナリスト/跡見学園女子大学兼任講師(観光温泉学)

新潟県長岡市生まれ。世界33か国の温泉を訪ね、日本の温泉文化の魅力を国内外に伝えている。NHKラジオ深夜便(毎月第4水曜)に出演中。国や地方自治体の観光政策会議に多数参画。VISIT JAPAN大使(観光庁任命)としてインバウンドを推進。「高齢者や身体の不自由な人にこそ温泉」を提唱しバリアフリー温泉を積極的に取材・紹介。『行ってみようよ!親孝行温泉』(昭文社)『女将は見た 温泉旅館の表と裏』(文春文庫)『宿帳が語る昭和100年 温泉で素顔を見せたあの人』(潮出版社)温泉にまつわる「食」エッセイ『温泉ごはん 旅はおいしい!』の続刊『ひとり温泉 おいしいごはん』(河出文庫)が2024年9月に発売

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