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韓国のメディアは菅首相の退陣表明をどのように伝えているのか?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
菅義偉首相が自民党総裁選不出馬表明(写真:アフロ)

 菅義偉首相の自民党総裁選不出馬表明は韓国でも速報で伝えられていた。

 韓国のほとんどの新聞は菅首相の事実上の退任表明を大小の差はあっても記事にしていたが、大手紙「東亜日報」に至っては同紙のインターネット版を通じて菅首相の動向を時々刻々と伝えるなど異様な関心を示していた。

 昨日の同紙のインターネット版には12時1分に「菅総理、自民党総裁選に出馬せず・・・総理辞任意向」の見出し記事が載ったのを皮切りに12時26分に「菅、自民党選挙に出馬しない‥今月末に総理辞任の手順」、13時13分に「去る菅 『最後の瞬間までコロナ19対策に専念』」、14時10分に「出馬表明から1日で・・・菅、なぜ党総裁選に不出馬となったのか」、16時1分に「菅退陣に野党は『政権を放り投げ、無責任にも逃げた』」、19時3分に「ポスト菅・・・岸田、石破、河野の呼び声が高い」等の見出しを掲げ、立て続けに6本の記事が掲載されていた。

 同紙は本紙の記事(「菅総理 再任放棄 就任1年で退陣」)で「菅総理は表面上の理由として『コロナ19対策に専念する』ことを挙げていたが、実際には自身に対する国民と自民党議員らの強い不信にあって退陣することになったとの解釈が多い」と、日本で伝えられている評価、分析を基に退陣に至る経緯を報じていた。

 最大部数を誇る「朝鮮日報」(「前日まで再任を夢見ていた菅 主要派閥の支持得られず不出馬」)は政権発足時から今日までの支持率の急落をグラフで示しながら「支持率の墜落で秋に衆議院選挙を控えた自民党議員らが動揺した」と、「東亜日報」同様に日本のメディアで分析されている様々な不出馬の要因を列挙していた。

(参考資料:差が開く一方の菅総理と文大統領の支持率)

 政治、外交、安全保障の分野では保守紙「東亜日報」や「朝鮮日報」とはスタンスが異なる政府系の「ハンギョレ新聞」(「1年目で退く菅総理・・自民党総裁選不出馬を表明」)も菅首相の退陣を「国民に対する説明不足や(状況を)自身に有利に解釈する楽観的なシナリオが菅首相の問題だった」と評した「朝日新聞」や「総裁選挙直前に異例の人事で党内では『自らの延命のためではないか』との反発大きかった」と分析した「読売新聞」の2紙を引用し、不出馬に至る経緯を説明していた。

 同じく政府系とみられている「京郷新聞」は「菅総理 再任放棄・自民党総裁選挙不出馬」の見出し記事の冒頭で「菅総理が再任を放棄した」と書き、その理由について「菅総理では衆議院選に勝てないとする党の反発に勝てなかったことにある」と独自分析し、また「ソウル新聞」(「東京五輪まで強行したのに・・・コロナで挫かれた菅の再選の夢」)も「コロナ感染が拡大する中、国内の批判を押し切って五輪を強行して反転を期し、開催国として歴代最高の成績を収めた喜びも束の間、コロナ感染者数が2万人台に達し、コロナの状況が深刻となり、支持率の墜落に繋がった」と、退陣表明はコロナに打ち勝つことができなかったことにあったと断じていた。

 一方、「アジア経済」は経済紙らしく「日本 日経指数、2万9千円台回復で終了 菅総裁選挙不出馬影響」の見出しを掲げ、「菅総理不出馬のニュースが駆け巡るや株価が急騰し、6月中旬以来2か月ぶりに2万9千円台を回復した」ことを伝えていた。

 同じ経済紙であるが、「毎日経済」(「菅支持率崩壊に党も背を向ける・・・新総理に韓日関係改善の期待」)は早くも日韓関係絡みで次期首相候補の品定めをしており、本命視されている岸田文雄前党政調会長については「外相時代に2015年慰安婦合意を担当しており、党内での人気が高いとの評価だ」と書き、石破茂元党幹事長については「韓日関係改善の必要性を強調していた人物である」と紹介し、「彼が総理になれば、韓日関係の糸口を見いだせるのではとの期待感もある」と韓国側の視点から書いている。

 中立系の「韓国日報」も「河野太郎、石破茂も出馬?次の総理は誰に?」との見出しを掲げ、ポスト菅に焦点を当てていた。

 同紙は「誰が次の総裁に選出されるかで今後の韓日関係も安倍晋三前総理の外交安保政策をそのまま継承していた菅内閣の時とは異なった変化が展望できる」と次の総裁に関心を寄せていた。

 同紙はそのうえで世論調査では一番人気の河野規制改革担当相について「外相、防衛相の時に韓国大法院(最高裁)の強制徴用賠償判決や日本の対韓輸出規制、GSOMIA(日韓軍事情報保護協定)などで韓国と衝突した人物である」と警戒感を示していたが、その一方で河野氏が外相時代にパートナーであった康京和前外相とは「息が合っていた」ことも忘れずに指摘していた。なお、石破氏については「日韓関係改善の必要性を唱える合理的な性向の知韓派である」と紹介していた。

(参考資料:「安倍首相辞任」でどうなる日韓関係? 次の首相と信頼関係を築けるか?)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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