映画ファンに愛されるA24作品!その世界観を彩るパンフやポスターなどビジュアルデザインの裏側に迫る
![](https://newsatcl-pctr.c.yimg.jp/t/iwiz-yn/rpr/mibutomohiro/00325123/title-1669138053203.jpeg?exp=10800)
『ムーンライト』や『ミッドサマー』『WAVES/ウェイブス』『カモン カモン』など近年、映画ファンに絶大なる信頼を集めているアメリカのインディペンデント系映画会社A24。その理由として、作家性を大切にした良質な作品群という内容面はもちろんのこと、チラシ、ポスター、パンフレットなどのアートワークが一体となって作品の世界観を作りあげていることも大きな要因として挙げられる。その感覚は1980年代後半から2000年初頭あたりにかけて、東京・渋谷を中心に起こったミニシアターブームと呼ばれた時代の匂いも思い起こさせる。
このたび、A24の最新作となるデヴィッド・ロウリー監督最新作『グリーン・ナイト』(11月25日より全国公開)公開記念として、同作の日本版デザインを手がけたアートデザイナー石井勇一氏と、『ミッドサマー』をはじめ、A24作品を数多く手がけたグラフィックデザイナー大島依提亜氏の初対談が11月17日に銀座 蔦屋書店で実現。映画の中で展開される物語をいかにして1枚のポスターに落とし込むのか。その裏側を、両者が手がけた過去作を実例に紐解く貴重な機会となった。ここでは主にA24作品のアートワークに言及した部分を中心に抜粋して紹介したい。
まずは本イベントの告知サイトに掲載されていた二人のプロフィールから引用しよう。
![イベントに参加する石井勇一氏(筆者撮影)](https://newsatcl-pctr.c.yimg.jp/t/iwiz-yn/rpr/mibutomohiro/00325123/image-1669137114110.jpeg?fill=1&fc=fff&exp=10800)
石井勇一(いしい・ゆういち)
OTUA株式会社代表。パッケージデザイン、ロゴデザインなどデザインを通じたブランディング構築や、『ムーンライト』『君の名前で僕を呼んで』『花束みたいな恋をした』『わたしは最悪。』『スペンサー ダイアナの決意』など映画話題作のグラフィックデザインを手掛ける。英国「D&AD Awards」ブロンズ賞をはじめ、国内外のデザインアワードを多数受賞。常に物事の本質を世の視点から問うことにより生まれる、観衆の心を揺さぶるナラティブと精巧かつ緻密に構築された世界観に評価が高く、題材の奥に潜む最も深い願望を掘り起こし、それに誠心誠意寄り添う表現手法を得意とした無私なクリエイティブマインドを持つ。
![イベントに参加する大島依提亜氏(筆者撮影)](https://newsatcl-pctr.c.yimg.jp/t/iwiz-yn/rpr/mibutomohiro/00325123/image-1669137173923.jpeg?fill=1&fc=fff&exp=10800)
大島依提亜(おおしま・いであ)
映画のグラフィックを中心に、展覧会広報物、ブックデザインなどを手がける。主な仕事に、映画『パターソン』『万引き家族』『ジム・ジャームッシュ レトロスペクティブ2021 』『ちょっと思い出しただけ』『ミッドサマー』『カモン カモン』『X エックス』『Zola ゾラ』『LAMB/ラム』、展覧会「谷川俊太郎展」「ムーミン展」「ヨシタケシンスケ展かもしれない」、書籍「鳥たち」(よしもとばなな)「小箱」(小川洋子)「メイドイン赤塚不二夫」など。
■A24作品のデザインの秘密に迫る
○『グリーン・ナイト』
監督:デヴィッド・ロウリー
出演:デヴ・パテル、アリシア・ヴィカンダー、ジョエル・エドガートンほか
配給:トランスフォーマー
同作は、『指輪物語』のJ.R.R.トールキンの愛した中世文学の傑作『サー・ガウェインと緑の騎士』をロウリー監督が大胆に脚色。過酷な自然界へと挑む冒険と幻想的で奇妙な旅を通して、自分の内面へと向き合っていく若者の成長物語を、示唆に富んだ斬新で濃度の高い魅惑的な映像で描き出したダークファンタジー。
11月25日より全国公開
![『グリーン・ナイト』日本版ポスター(配給提供)(C)2021 Green Knight Productions LLC. All Rights Reserved](https://newsatcl-pctr.c.yimg.jp/t/iwiz-yn/rpr/mibutomohiro/00325123/image-1669141805550.jpeg?fill=1&fc=fff&exp=10800)
![『グリーン・ナイト』海外版ポスター(配給提供)(C)2021 Green Knight Productions LLC. All Rights Reserved](https://newsatcl-pctr.c.yimg.jp/t/iwiz-yn/rpr/mibutomohiro/00325123/image-1669142725982.jpeg?fill=1&fc=fff&exp=10800)
石井氏が解説するポイント:
・ベースはグリーンナイトとガウェインのキャラポス(キャラクターポスター)。映画はガウェインの闇の部分が描かれるというのが主題なので、影の部分に緑の騎士が浸食。のっとられるようなイメージでコラージュ。
・作業は映画本編のコマから抜いた画像を使用するが、ただし緑の騎士のヒゲの部分の解像度は、チラシならギリギリ耐えられても、ポスターだとさすがに無理。かといって緑の騎士のキャラポスはななめからのカットで、ポスターサイズの解像度での、正面からのヒゲの画像ではなかったため、石井氏のマンションにあった使い古したモップをひげのようにスタイリングし、レタッチ。
![日本版のベースとなったガウェインの海外版キャラクターポスター(C)2021 Green Knight Productions LLC. All Rights Reserved](https://newsatcl-pctr.c.yimg.jp/t/iwiz-yn/rpr/mibutomohiro/00325123/image-1669141880335.jpeg?fill=1&fc=fff&exp=10800)
![緑の騎士のキャラクターポスター(C)2021 Green Knight Productions LLC. All Rights Reserved](https://newsatcl-pctr.c.yimg.jp/t/iwiz-yn/rpr/mibutomohiro/00325123/image-1669141947559.jpeg?fill=1&fc=fff&exp=10800)
![『MEN 同じ顔の男たち』ポスタービジュアル(配給提供)(C)2022MEN FILM RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.](https://newsatcl-pctr.c.yimg.jp/t/iwiz-yn/rpr/mibutomohiro/00325123/image-1669135828163.jpeg?fill=1&fc=fff&exp=10800)
○『MEN 同じ顔の男たち』
監督:アレックス・ガーランド
出演:ジェシー・バックリー、ロリー・キニア、パーパ・エッシードゥほか
配給:ハピネットファントム・スタジオ
12月9日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほかにて公開
大島氏が解説するポイント:
・A24のデザインは本国版を踏襲するケースが多いが、これの本国版のポスターが、ある日本のホラー映画のデザインと似ていたため、そのままでは使えない。そこで日本オリジナルに、象徴的なリンゴのシーンをモチーフにしたデザインに。
・A24のロゴは、遊びでリンゴだけで構成。実はここだけデータが特に重い。
・本国版もそうだが、『MEN』というタイトルに紳士服的なニュアンスを感じて。だからニュートラルな文字にしているんだろうと思った。デザイン的には、切れ込みを入れて、少し男性性を強調している。ただしクリーンにやりすぎずに、いかにして気持ち悪さを入れ込むか。かといってホラー映画のノイジーで荒れている感じはこの作品には合わないため、そのあたりはバランスをとった。
『MEN 同じ顔の男たち』本国版ビジュアルはこちらから(A24サイト)
![『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』日本版ポスター(配給提供)(c) 2022 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.](https://newsatcl-pctr.c.yimg.jp/t/iwiz-yn/rpr/mibutomohiro/00325123/image-1669137570633.jpeg?fill=1&fc=fff&exp=10800)
○『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
監督:ダニエル・クワン、ダニエル・シャイナート
出演:ミシェル・ヨー、ステファニー・スー、キー・ホイ・クァンほか
配給:ギャガ
2023年3月3日全国公開
大島氏が解説するポイント:
・デザインは海外版を踏襲しつつも、赤から青に色を変えてマルチバース感を出した。
・本作の原題は“Everything Everywhere All At Once”。このタイトルには配給会社も熱い思いがあり、日本公開の際もそのままでいけるよう頑張ったという。ポスターデザインでも、その長いタイトルをなるべく読みやすいように改行した。
・目玉で構成されているA24のロゴ作りの経験・スキルが、『MEN』の時にリンゴで構成されたロゴ作りに活かされたという。
・無数の目玉ビジュアルが印象的な海外版ティザーポスターはレイヤーが5000くらいあり、非常に複雑なつくりで驚いた。もちろんデータも驚くほど重い。
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』本国版ビジュアルはこちらから(A24サイト)
![『エブリシング・エブリウェア・ オール・アット・ワンス』海外版ティザーポスター(配給提供)2022 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.](https://newsatcl-pctr.c.yimg.jp/t/iwiz-yn/rpr/mibutomohiro/00325123/image-1669137372444.jpeg?fill=1&fc=fff&exp=10800)
![『mid90s ミッドナインティーズ』日本版本ポスター(配給提供)2018 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.](https://newsatcl-pctr.c.yimg.jp/t/iwiz-yn/rpr/mibutomohiro/00325123/image-1669139600382.jpeg?fill=1&fc=fff&exp=10800)
○『mid90s ミッドナインティーズ』
監督:ジョナ・ヒル
出演:サニー・スリッチ、ルーカス・ヘッジズ、キャサリン・ウォーターストンほか
配給:トランスフォーマー
2020年9月4日劇場公開、 2021年4月7日Blu-ray発売
石井氏が解説するポイント:
・最終的に決定した日本版のポスターは本国に近い感じだが、当初はロゴタイプでいこうとしたり、90年代を知らない若い人に合わせたデザインに寄せていこうとしていたが、いろいろと手を加え、試行錯誤を繰り返すうちに、一周まわって本国版のデザインに戻ったという。
・白の背景に、白のタイトルロゴとなっているが、いわゆる”座布団”(画像の上に同系統の色の文字が重なっているときに、その文字を見やすくするために、文字の下に文字通り“座布団”のように背景に違う色を敷くデザイン手法)は石井氏も大島氏も、ポスター作成の際はほとんど使わない。
・日本版アザーポスターのベースとなった画像には男子4人だけで、女子のキャスト自体はいなかったので、そこを付け足して馴染むようにした。あとは背景を伸ばして、右角に入れて。緊張感をもたらした。人物の距離感もいろいろと調整した。
『mid90s ミッドナインティーズ』本国版ビジュアルはこちらから(A24サイト)
![『mid90s ミッドナインティーズ』日本版アザーポスター(配給提供)2018 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.](https://newsatcl-pctr.c.yimg.jp/t/iwiz-yn/rpr/mibutomohiro/00325123/image-1669140426461.jpeg?fill=1&fc=fff&exp=10800)
○『Zola ゾラ』
監督:ジャニクサ・ブラヴォー
出演:テイラー・ペイジ、ライリー・キーオ、ニコラス・ブラウンほか
配給:トランスフォーマー
2022年08月26日公開
![『Zola ゾラ』日本版ポスター(配給提供)(C) 2021 Bird of Paradise. All Rights Reserved.](https://newsatcl-pctr.c.yimg.jp/t/iwiz-yn/rpr/mibutomohiro/00325123/image-1669138144847.jpeg?fill=1&fc=fff&exp=10800)
『Zola ゾラ』本国版ビジュアル(本国のTwitterより)
大島氏が解説するポイント:
本国版のタイトルロゴがハイブロウすぎて、日本人がついていけない可能性もあるので、ロゴを代えた。本作は両者の対立が肝なのに、元のポスターがシスターフッド映画のようにも見えるため、対峙しているように変えた。
・日本語のロゴも英語の書体をイメージして作成。
○『ミッドサマー』オルタナティブポスター
『ミッドサマー』オルタナティポスター画像(大島氏のTwitterより)
大島氏が解説するポイント:
オルタナティブポスターは、基本的に作ることはできても、販売となると権利の問題があるため、ハードルが高い。最初はA24に、『ミッドサマー』のオルタナティブポスターを作って販売したいと打診したものの、その時点では駄目だった。だが承認を得るためにA24に見せたところ、なんと自分のところでも売りたいという返事が。だったら日本でも売らせてほしいということで、日本で先行販売、後でA24のショップで発売されることとなった。
![『ライトハウス』日本版ポスター(配給提供)(C)2019 A24 Films LLC. All Rights Reserved.](https://newsatcl-pctr.c.yimg.jp/t/iwiz-yn/rpr/mibutomohiro/00325123/image-1669139411520.jpeg?fill=1&fc=fff&exp=10800)
○「ライトハウス」コレクターズ・エディション Blu-ray BOX
監督:ロバート・エガース
出演:ウィレム・デフォー、ロバート・パティンソン、ワレリヤ・カラマンほか
配給:トランスフォーマー
2021年7月9日劇場公開、2022年1月14日Blu-ray発売
![イベント中に掲示されたスライド。上段がパンフレットの制作過程、下段がBlu-rayBOXの制作過程(配給提供)](https://newsatcl-pctr.c.yimg.jp/t/iwiz-yn/rpr/mibutomohiro/00325123/image-1669141242645.jpeg?fill=1&fc=fff&exp=10800)
石井氏が解説するポイント:
・映画を観て、自分自身が憑依しないと勝てないなというような映画なので覚悟を持って取りかかった。コロナの時期だったため、比較的時間はとりやすい時期だった。
・本自体を熟成させて腐らせるような感じにしたかったため、そこで大判の画用紙に、とりあえずソースなり、醤油なり、ワインなりに漬け込んだものを2~3週間ほど雨風にさらしてみたが、雨が降りすぎていたため、逆にきれいになってしまった。そこで調整を繰り返し、泥のような所はインスタントコーヒーでエイジングを施した。
・Blu-rayボックスは、空の箱に焼き印を押し、バーナーであぶって作り出した。同じく庭で雨風にさらしたものを複製して作りあげた。それぞれの面をスキャンした。
・時間とタイミングが合わないとここまでできない。制作時は憑依していたかもしれないとのこと。
この日はA24作品以外にも、『万引き家族』や『花束みたいな恋をした』など、二人が手がけた邦画作品の裏話や、アートワークの哲学など、ほかではなかなか聞けない話が目白押しとなった。
![『グリーン・ナイト』劇中写真(C)2021 Green Knight Productions LLC. All Rights Reserved](https://newsatcl-pctr.c.yimg.jp/t/iwiz-yn/rpr/mibutomohiro/00325123/image-1669143927071.jpeg?fill=1&fc=fff&exp=10800)
そして最後にあらためて『グリーン・ナイト』の話に。まずは石井氏が「『グリーンナイト』は描き方と文脈も含めて考察しがいのある内容だと思うので、すごく楽しめると思うのと、こういう作品を、フィルターがなくお届けしていくことがわれわれの使命だと思うので、お楽しみいただけることを節に願っております」と語ると、大島氏も「最近はダークファンタジーと垂れ流し気味に言われがちですが、その中でも僕はこれぞダークファンタジーだと思い、ワクワクしました。それは物語上のトーンとか、テンポがほかの映画とは全然違う。そこも味わってほしいし、そこが楽しい映画だと思います。ぜひ観てください」とメッセージを送った。