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「米韓首脳会談」を酷評できなかった「文在寅憎し」の保守野党

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
米韓首脳会談後の共同記者会見(青瓦台提供)

 バイデン大統領との首脳会談を終え、昨日(23日)帰国した文在寅大統領は今回の米韓首脳会談を「最高の会談だった」と自画自賛していた。

 ワクチン問題ではサムスンバイオロジクスと米モデルナ社がコロナワクチンの委託生産契約を締結したことで今後、韓国国内でワクチンの生産が行われること、バイデン大統領から韓国軍55万人へのワクチン提供を確約されたことを成果として挙げていた。

 また、44兆ウォン(約4兆円)に上る米国への投資により半導体を含む情報通信技術(ICT)産業やバッテリー、電気自動車などの分野での米国の技術協力のみならず、北米における市場拡大の道を切り開いたことも大きな成果であると宣伝している。

 さらに、今回の訪米の最大の目的だった北朝鮮問題でもバイデン大統領から韓国と協力しながら対話、外交で解決するとの言質を引き出しただけでなく、文政権がこれから始動させようとしている南北対話、協力への支持を取り付けたことも成果の一つとして誇っている。

 当然、政権与党の「共に民主党」が「これで韓国は一段階跳躍できる。期待以上の成果だった」(与党代弁人)と諸手を挙げて歓迎しているのは言うまでもない。与党の次期大統領候補3人がこぞって文大統領を持ち上げるコメントを出したのも当然と言えば当然だ。

 最有力候補の李在明(イ・ジェミョン)京畿道知事はフェイスブックを通じて米国のミサイル指針(韓国のミサイルの最大射程を180キロに制限)が撤廃されたことを「韓国のミサイル技術の最後の鎖が解かれたのは成果である」と評価し、「ミサイル技術に関連したすべての制約がなくなったことで我が国が主権国家として自由に研究、開発ができるようになった」と、韓国が42年ぶりにミサイルで主権を手にしたことを讃えていた。

 ライバルの李洛淵(イ・ナギョン)前党代表はフェイスブックを通じて「期待以上の成果があった。両首脳が外交的解決手段を通じて朝鮮半島の完全な非核化に向かうことで合意したことを歓迎する」と北朝鮮問題での合意を外交成果として挙げ、与党の大統領候補レースでは3番手につけている鄭世均(チョン・セギュン)前総理も同様に北朝鮮の核問題を取り上げ「今、我々にとって最も必要なのは朝鮮半島の完全な非核化と恒久的平和である。両国の確固とした共助を通じて対北朝鮮関係を模索するとの決定に拍手を送りたい」と、文大統領を褒め讃えていた。

 一方、来年3月の大統領選挙で政権奪還を狙う最大野党の「国民の力」はこれまで文政権の内外政策についてはやることなすことすべて痛烈に批判してきたが、今回は少し勝手が違ったようだ。何よりも、文大統領の会談相手が保守勢力の拠り所である米国の大統領であるということもあってさすがに扱き下ろすことはできなかった。一定の評価をしながらも今後に注文を付けている点がこれまでとは異なっていた。叩くにも叩けなかったようだ。

 それもそのはずで米韓首脳会談では「国民の力」が強く求めていた▲米韓関係の強化が謳われたこと▲国防力の強化に繋がるミサイル射程の制限が解除されたこと▲北朝鮮問題では国連安保理の決議(制裁)の履行が確認されていたこと▲共同声明で北朝鮮の人権問題が取り上げられていたこと▲日米韓3か国の協力の重要性も盛り込まれたことなどで正面から批判はできなかったようだ。それに加えて国民の最大の関心事であるワクチンの問題で一定の前進があったことなどからこれまでのように「外交失敗」とか「屈辱外交」のレッテルを貼るわけにはいかなかったようだ。 

 同党の安炳吉(アン・ビョンギル)代弁人は「グローバルなワクチンパートナーシップ構築で合意し、韓国軍55万人にワクチン支援を取り付けたのは青瓦台と与野党が共に成し遂げた意味のある成果である」と述べた上で「最高の歴訪、最高の会談、建国以来最大の成果と自己陶酔するにはまだ早すぎる。重要なのは首脳会談後である」とそれなりの成果があったことを一応認める談話を出していた。

 また、「国民の力」の外交・安保特別委員会も声明を出し、「一度の会談と共同声明だけでこれまでの4年間で軋んだ米韓同盟が一度で正常化はできない。問題は実践にある。任期が残り1年しか残されてない文政権が北朝鮮と中国、国内支持層の反発に賢明に対処し、首脳間の合意をバランスの取れた外交、安保政策を実践できるかどうかがカギだ」と、今後の推移を見守ると表明していた。

 では、保守系3大紙(東亜日報、朝鮮日報、中央日報)は米韓首脳会談をどのように評価したのだろうか?

「東亜日報」は対中関連で「韓米、全方位対中協力・・・同盟拡張のジレンマの克服が課題」と題する社説を掲載していたが、文政権の対米・対中外交について「鋭い米中対立の中で中立地帯に留まろうとした韓国にとっては、米国に一歩近づき、中国とは距離を置こうとしていると映ることは避けられない」とし、「今回の米韓首脳会談の発表にはどこにも中国を直接ねらった内容はない。さらに、中国が敏感に反応し得る問題でも、米国の立場だけでなく、これまで韓国が堅持してきた立場を共に反映した原則的水準で言及したのが大半だ。同盟の拡大と深化は、周辺国の警戒心を高める『安保ジレンマ』、「同盟ジレンマ』状況に陥るのがやむを得ない」と、米韓共同声明でインド太平洋地域での協力を約束したことや台湾問題に触れたことにも理解を示していた。

 一方、「朝鮮日報」は米韓首脳会談関連では3本の社説を掲載していたが、3本目の「ミサイル・クアッド・技術合意・・・米韓同盟正常化の出発点になれば」と題する社説を除けば、1本目(「虚言で終わったワクチンスワップ『国軍55万人分』で感泣している場合か」)も、また2本目(「脱原発しながら『米国とは原発協力』この矛盾を説明せよ」)も見出しを見れば一目瞭然で「反文在寅」紙らしく文大統領の訪米成果を過小評価していた。

 1本目の社説では「今直ぐに国内のワクチン供給を実質的に改善できる内容はどこにもない」との問題点を指摘し、2本目の社説では国内では月城1号基を廃炉し、約700億円もつぎ込んだ鬱陵のシンハヌル原発(3号、4号基)の建設を中断するなど脱原発政策を推し進めながら、米国に原発輸出で協力するのは矛盾している」との論調だった。

「中央日報」の社説(「物足りなさ残るワクチン外交、供給支障なく万全期するべき」)もスタンスは「朝鮮日報」と同様で、文大統領のワクチン外交は「国民の期待に沿えず物足りなさだけが残る結果となった。モデルナなどとの委託生産合意は成果としてみることができるが、生産物量や国内供給分を韓国側が自由に決定することができないため現在としては『絵に書いた餅』にすぎない」として「国民が切実に待っていたのは実際に手に取れるワクチンそのものであり、外交的修辞ではない」と、確保したワクチン物量がたったの55万人分にとどまったことから成果とはみなさなかった。

(参考資料:バイデン大統領との首脳会談を前に韓国系の共和党女性議員から「冷水を浴びせられた」文在寅大統領)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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