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井上尚弥にPFPランキングで接近。米国の2階級制覇王者が週末メキシコの帝王に挑戦

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
ロドリゲス(右)vs.エドワーズ(写真:Matchroom Boxing)

新旧対決

 今、男子の世界チャンピオンが10人いる日本ボクシング界はこの世の春を謳歌している。ミニマム級IBF王者の重岡銀次朗(ワタナベ)からスーパーバンタム級4団体統一王者の井上尚弥(大橋)まで軽量級に限られるが、米国をはじめ海外で話題に取り上げられることが多くなった。米国でも今週土曜日29日(日本時間30日)軽量級のビッグマッチが開催される。アリゾナ州フェニックスのフットプリント・センターでゴングが鳴るWBC世界スーパーフライ級王者“ガジョ”(闘鶏)ことフアン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)vs.挑戦者ジェシー“バム”ロドリゲス(米)のタイトルマッチだ。

 エストラーダvs.ロドリゲスは新旧対決である。エストラーダは34歳、ロドリゲスは24歳。エストラーダは日本でもお馴染みの“ロマゴン”ことローマン“チョコラティート”ゴンサレス(ニカラグア)と3度戦い2勝1敗と勝ち越した。3度目の対戦でWBC王者に返り咲いたエストラーダはそれ以後リングに上がっておらず1年半ぶりの試合となる。年齢、ブランクの長さが影響して予想はロドリゲス有利。オッズは4.5-1でロドリゲス、エストラーダは3.2倍といった数字でロドリゲスに傾いている。

 ロドリゲスのニックネーム、“バム”は「強打する」という意味に取れる。サウスポーの強打者で、バランスのとれたボクシングをする。抽象的な表現になってしまうが、彼の試合を観た人は、そのアグレッシブさと柔軟さに目を奪われてしまうに違いない。ファンを惹きつける華のある選手でもある。2022年2月にこのWBCスーパーフライ級王者に就いた後2度防衛し返上。23年4月、クラスをフライ級へ下げ、WBO王座を獲得し逆2階級制覇を達成した。同年12月の最新戦でIBFフライ級王者サニー・エドワーズ(英)にTKO勝ちで2団体統一王者に就いた。そして現役レジェンドの声も上がるエストラーダに挑戦して再度スーパーフライ級制覇を狙う。

ロマゴンとのスパーリング

 ロドリゲス(19勝12KO無敗)は井岡一翔(志成=WBA世界スーパーフライ級王者)と2度対戦した元同級WBA王者ジョシュア・フランコ(米)の実弟である。フランコ同様、名トレーナーのロバート・ガルシア氏に師事する。ガルシア氏が米国カリフォルニア州リバーサイドで運営するジムでロドリゲスは今回、ロマゴンとスパーリングを重ねて調整に励んだ。エストラーダと合計36ラウンド戦ったロマゴンとの手合わせは最高の実戦トレーニングとなった。

ロマゴン(左)とのスパーリングで鍛えたロドリゲス(写真:X)
ロマゴン(左)とのスパーリングで鍛えたロドリゲス(写真:X)

 以前ロマゴンもそうだったが、ロドリゲスは日本の帝拳ジムとプロモーション契約を結んでいる。まだ日本でリングに上がったことはないが、日本ボクシング界の繁栄ぶりから近い将来、日本でタイトルマッチが実現するのではと期待される。フライ級とスーパーフライ級で統一王者に君臨し実績で申し分ないエストラーダを下せば、井岡そしてWBO世界スーパーフライ級王者田中恒成(畑中)との統一戦が身近なものになってくるだろう。

報酬になびいたエストラーダ

 エストラーダ(44勝28KO3敗)は日本で井岡vs.フランコ第1戦をリングサイドで観戦するなど井岡との統一戦を視野に入れていた。しかし提示されたファイトマネーは彼を満足させるものではなかったようだ。井岡陣営の名誉のために補足すると、その額はけっして少ないものではなかった。その経緯があって2023年は全休、24年も半分が過ぎようとしている時点で彼が復帰する理由はズバリ、マネーにある。“バム”とグローブを交えれば高額が得られると……。

 それでエストラーダのモチベーションが上昇することもあるだろう。ロマゴンとの第2戦、第3戦ではその影響が顕著だった。ただ2試合とも激闘になり、ロマゴンの勝利を支持する声も多かった。ポイントの振り分けが難しいラウンドがエストラーダに流れた印象があった。だが今回その保証はない。そのあたりがロドリゲス戦の勝敗予想に結びついている気もする。新旧交代劇が頭に浮かぶ。

 海外メディアの中にはブランク明けのエストラーダを「冬眠から覚めた熊」と揶揄するところがある。フルラウンド持つかどうかと心配する向きもある。それでも打ち合いで滅法強いエストラーダを過小評価することは禁物。パンチのボリュームが旺盛な“ガジョ”は強靭なアゴも持っている。ロドリゲスもWBOフライ級王座を獲得したクリスチャン・ゴンサレス(メキシコ)戦で途中でアゴを骨折しながら勝利を収めた精神力の持ち主だけにタフネスでは負けない。

モンスターの背中を追う

 ただ、一撃の威力とパンチのキレはロドリゲスに軍配が上がるだろう。また攻撃の突破口となる右ジャブはエストラーダの左ジャブとの突き合いで効果を発揮すると推測される。攻撃に自信を持つ選手同士の一戦は先手を取った方に有利に運ぶに違いない。

バム・ロドリゲスvs.サニー・エドワーズ

 筆者はロドリゲスがそのうち、モンスター井上の好敵手になるのではと予想した。現在、両者は2階級離れている。井上がフェザー級へ進出すれば、ほとんど対決の可能性は無くなるだろう。だが無限のポテンシャルを秘めたロドリゲスが大物エストラーダに快勝すれば、日本のジムとつながりがあることからも我々は夢を見ることができるはずだ。

 識者の一人、英国スコットランド在住のボクシング歴史家マット・マグレイン氏は「勝者がパウンド・フォー・パウンドのトップ5に入る」と予測。米国ファンが望んで止まない“自前の”モンスターのライバルにロドリゲスが名乗り出る日も近い?

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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