慎重論が広がる「9月入学」。ツイッターでも「#九月入学本当に今ですか」がトレンド入り
4月後半にchange.orgやツイッターで一部の高校生が「9月入学」への移行を求め、それに一部の知事や野党が乗っかる形で議論が広がっていた「9月入学」案だが、さまざまな課題が指摘され、急速に萎みつつある。
これまでマスコミの各世論調査でも、「賛成」が多数だったが、朝日新聞が5月23、24日に実施した世論調査では「反対」が43%と、初めて「賛成」(38%)をやや上回る結果となった。
参考:当事者のみを対象にした日本若者協議会のアンケート結果では「反対」が多数(「9月入学」の是非に関する学生アンケート結果速報)
また、自民党や公明党内でも「9月入学」に関して検討が進められているが、そこに呼ばれた有識者や現場の市長・校長らのほとんどが反対を表明。
筆者が代表理事を務める日本若者協議会も、5月22日と25日に公明党と自民党のPT/WTで「小中高大一律での9月入学」への移行案には反対を表明した。
日本若者協議会提言内容:
プレゼン資料:
日本若者協議会_9月入学の議論に関する緊急提言20200522
こうした声を受けて、5月26日には、与党・公明党の山口那津男代表が「今回新型コロナで学ぶ機会が削られたことへの対応とは別に、幅広い観点から時間をかけた十分な議論が必要だ。切り離した検討を求めたい」と、9月入学に否定的な考えを示した。
また、ツイッター上では、同日20時頃から「#九月入学本当に今ですか」というハッシュタグが広がり、21時頃にトレンド入り。
23時頃には2万ツイート以上拡散された(深夜には約3万ツイートに達した)。
当事者の声をどう受け止めるか?
既に多くの有識者が指摘している通り、「9月入学」の費用対効果の悪さは明らかであり、実現の可能性は低いと思うが、なぜデメリットが明らかな「ジャストアイデア」がここまで広がったのか、落ち着いたタイミングで検証する必要があるだろう。
まずここで指摘しておきたいのは、「当事者」の声の扱いである。
ここ最近署名サイトの浸透や成功事例の蓄積によって、政治参加が広まりつつあるのは喜ばしい状況ではあるが、一方で、その扱いには十分に気をつけなければならない。
基本的に、現状(課題)把握においては当事者が十分な情報量を持っていることも多いが、解決策に関しては、必ずしも専門的な知見を持っているわけではなく、切り分けて考える必要がある。
つまり、今回のケースで言えば、「9月入学」の提案ではなく、学びの遅れや受験への不安を重点的に取り上げ、それへの対応策を政治家や専門家が考えなければならなかったが、なぜか途中から「グローバルスタンダード」(と言っても、実態は単なる時代錯誤の議論であるが)やら「この機会に変えなければずっと変えられない」といった「9月入学」への移行を目的とした「ショック・ドクトリン(惨事便乗型資本主義)」が広がってしまった。
本来であれば、ここでメディアが問題を指摘しなければならなかったが、マスコミも一緒になってメリットばかりを取り上げ、本来議論しなければならない学びの遅れや受験への不安が取り残される形となった(1ヶ月余計な議論に時間を費やしてしまったと言っても過言ではない)。
そういう意味では、結果的に被害を受けることになったのは当事者である学生や、余計な心配をかけさせられた未就学児の保護者であり、どうすればこうした事態が再び起こるのを防ぐことができるのか、丁寧に振り返る必要があるだろう。