■鎌倉のカフェ閉店~折角の事業を閉鎖させられないために何をすべきか。現地で不動産鑑定士・税理士が探る
■はじめに
過日、神奈川新聞さんが、鎌倉のカフェが市から「市街化調整区域に位置する」ことを理由に閉店させられた旨を報道されていました。
ちょうど、7月7~8日に伊豆半島で鑑定評価があり、帰りしな、午後に鎌倉に寄ることができると判明しました。
これも一つのご縁と思い、現地を見てくることにしました。
■まずは登記をあげてみた
該当地の登記(全部事項)を取得したところ、土地・建物とも同一の法人所有です。
市の指摘の通り、建物は昭和52年新築・平成23年増築の居宅とありました。
従って、この情報だけを見るに、もちろん所有者ではないので詳細は不明ですが、実際には店舗として利用をされていたのに「住宅用地に対する課税標準の特例」の適用があった可能性があると筆者は感じました。
もちろん、所有者の方が鎌倉市の固定資産税担当部署に「登記上は居宅であるが実態は店舗」との申出をし、特例を外していた可能性もありますので、ここでは「そのような可能性もあると感じた」との表現に留めます。
ただ、万が一ですが、住宅としての実態がなく、かつ、事業用地としての課税がなされていなかった場合は…とも思いました。
なお、市街化調整区域で本来は建築(新築・増築)が規制されるのに、平成23年に何故、増築ができたのかは、筆者もわかりませんでした。もしかしたら建築計画概要書が保管されていて閲覧できれば詳細が判明する可能性もあるのですが、本日は土曜日で役所が閉鎖されていて閲覧ができませんので、今回はペンディングとすることにしました。
■現地へ
件の閉鎖店舗は、藤沢駅と鎌倉駅を、江ノ電よりやや内陸側を走って結ぶバスの停留所から歩いて数分のところにあります。
また、鎌倉駅から20分近く歩いてでも訪れることはできます。
筆者は、伊豆半島の伊東駅から伊東線・東海道本線を乗り継ぎ、途中の平塚で七夕祭りをやっているとのことで無駄に寄り道して「若いカップルたちや浴衣を着た女の子がテンションを上げている様」を羨ましく眺めてから、藤沢駅でバスに乗り継ぎ、現地に着きました。
現地に着いてみると、「なるほど、これは確かに市街化調整区域だ」というのが印象でした。
つまり、市街化調整区域は、原則として宅地化を抑制(調整)すると都市計画で定められた区域です。
実は、鎌倉市の都市計画のサイトを拝見すると、件の閉鎖店舗の近くの住宅までは市街化区域、即ち宅地としての活用が適切な地域です。一方で、件の閉鎖店舗付近は地勢が傾斜なのです。
市街化調整区域に指定される背景は、農村を護りたい、宅地化の抑制を通じて自然環境を保護等、様々と思いますが、件の閉鎖店舗の場合は地勢が傾斜で、下手に宅地化するとその宅地自身や、あるいは周辺に危害を及ぼしかねないのか…とも感じました。
もちろん、これは筆者の感想で、実際は違うかもしれませんが、そのような感想を抱いた点は事実です。
■固定資産税路線価を見てみると…
一般財団法人資産評価システム研究センターの「全国地価マップ」を見てみると、件の閉鎖店舗の部分は前面県道沿いに令和4年度の固定資産税路線価で平米72,000円とあります。
ところが、ちょっと西側に行くとそこは市街化区域の住宅等が建ち並ぶゾーンで平米137,000円です。
念のため、後日、鎌倉市資産税課担当に電話で照会したところ、やはり市街化調整区域であることが理由でこの部分だけ極端に固定資産税路線価を下げているとのことでした。
このような固定資産税路線価は、本来、合法性を大前提に算定されます。件の閉鎖店舗の土地についても、本来は「宅地化を抑制し、建物の建築ができない」前提で低い固定資産税路線価となると判断されます。当然、これに連動して土地の固定資産税も市街化区域の場合との比較で低額になっているハズです。
しかも、実際には建物の敷地として利用しているばかりか、前述の通り、店舗として機能していたのに「住宅用地に対する課税標準の特例」の適用可能性も感じるに至りました。
これでは、本来の健全な店舗との比較で、税負担に関し不公平の指摘を受けても仕方がないでしょう。
■筆者の件の閉鎖店舗に対する見解
違法性はともかくとして、味としては評判もよい店舗のようでしたし、筆者も、ある意味では残念には思います。
ただ、市街化調整区域であることを理由に閉店を促した鎌倉市の対応は、災害防止の観点からも、課税の公平の観点からもとても適切と思います。
むしろ、建物外の物販だけであれば…というような話を、もし鎌倉市側から提案をしたのであれば、大変に親切であったとも思います。本来、市役所は、許認可の判断は下しても、妥協案の提示まではしないからです。
閉鎖店舗のサイトに無念さを漂わす挨拶があり、気持ちはわからないでもありませんが、筆者であれば、「違法である旨を鎌倉市からご指摘いただき、しかも(もし鎌倉市からの提案であれば)建物外での物販であれば可能との見解もいただく等のご配慮もいただいた点、感謝申し上げます」と書いたでしょう。
■どうしたら、このような事態を避けられるか~折角の事業を閉鎖させられないために
さて、件の閉鎖店舗は過去の話ですので、これからについて。
世の中で、色々な場所で色々な店舗や事業を営む方がおられます。
実は、その場所で店舗や事業を営んでよいかは、また別問題。
市街化調整区域であるとか、市街化区域であっても、用途地域、即ち、「その場所で建物として利用してもよい用途の規制」によっては、そもそもその利用形態が違法である場合もあるのです。
店舗を借りる等の事業を始める際には、その土地の法規制、即ち、市街化調整区域であるとか、市街化区域であっても用途地域が何であるかを調査をし、
ご自身の企図する用途が「不動産に関する法規制に照らして違反ではないか」をチェックする必要がある
のです。
と、言っても、不動産の専門知識のない方がそれをしようにも難しい場合もあるでしょう。
ですので、例えば以下の方策を講じてはいかがでしょうか。
①もし宅建業者(不動産屋)もしくは不動産鑑定士などが関与している場合は、自分の意図する利用形態の話をして、その利用形態で問題ないかを確認する。
②宅建業者(不動産屋)もしくは不動産鑑定士などが関与していない場合は、役所の都市計画担当部署にその場所を照会し、自分の意図する利用形態で問題ないかを確認する。
折角の事業を、不動産の法規制でつぶされては、ご自身も悲しいでしょうし、社会的にも残念な話です。
ちょっとした確認で未然に事故を防ぐ。大切なことではないでしょうか。
現場からは以上です。