【知っておきたい】直腸肛門部メラノーマの症状と治療法 - 皮膚がんの稀少な形態
【直腸肛門部メラノーマとは?稀少ながん種の特徴】
直腸肛門部メラノーマ(ARM)は、大腸がんの約1%、肛門管がんの0.5%未満を占める非常に稀な悪性腫瘍です。全メラノーマの1%未満、粘膜メラノーマの16.5%を占めています。
メラノーマは通常皮膚に発生しますが、まれに粘膜にも発生することがあります。ARMは鼻腔、口腔、膣などと同様に粘膜メラノーマの一種です。
ARMの発生原因はまだ完全には解明されていませんが、酸化ストレスや免疫抑制などが関与している可能性が指摘されています。また、腸の自律神経系や消化管のアミン前駆体取り込み・脱炭酸系細胞から発生するという説もあります。
ARMは進行が速く、診断時にはすでに進行した状態であることが多いため、予後が非常に悪いがん種として知られています。
【直腸肛門部メラノーマの症状と診断の難しさ】
ARMの症状は、便秘、かゆみ、体重減少、下部消化管出血、排便習慣の変化などです。しかし、これらの症状は痔などの一般的な肛門直腸の症状と似ているため、診断が遅れやすいのが特徴です。
また、ARMの20-30%は無色素性(メラニン色素を持たない)で、内視鏡検査では良性のポリープのように見えることがあります。このことも診断を困難にしている要因の一つです。
ARMの診断は主に組織学的に行われます。通常、悪性メラノサイトが上皮様、紡錘形、リンパ腫様、または多形性の形態を示します。免疫組織化学検査(S100+、Melan-A+、HMB-45+、チロシナーゼ+)やc-KIT遺伝子の体細胞変異の検出が診断の助けになります。
ARMの症状は一般的な肛門直腸の不調と似ているため、患者さん自身が気づくことは難しいかもしれません。しかし、症状が長引く場合や、通常の治療に反応しない場合は、専門医の診察を受けることをお勧めします。早期発見が治療成功の鍵となります。
【直腸肛門部メラノーマの治療法と予後】
ARMの治療は主に手術が中心となります。本研究では、95%の患者さんが手術を受けており、76%が腹会陰式直腸切断術、25%が広範囲局所切除を受けていました。
進行期の患者さんには全身療法も行われます。免疫療法、従来の化学療法、放射線療法、血管新生阻害薬などが単独または併用で使用されています。特に、c-KIT遺伝子変異のある患者さんにはチロシンキナーゼ阻害剤が効果的な場合があります。
しかし、ARMの予後は一般的に不良です。本研究では、全生存期間の中央値は11ヶ月でした。肛門部のメラノーマは、直腸や肛門直腸接合部のメラノーマと比較して、やや良好な予後を示しました。
女性の発症率がやや高いことが報告されています。これは、女性の粘膜にエストロゲン受容体が多く存在することと関連している可能性があります。
ARMは皮膚のメラノーマとは異なる遺伝子変異パターンを示すことが多く、治療法の選択にも影響を与えています。例えば、皮膚メラノーマでよく見られるBRAF遺伝子変異はARMではまれで、代わりにc-KIT遺伝子変異が多く見られます。
日本では、ARMの発生率や治療成績に関する大規模な疫学調査はまだ行われていませんが、欧米の報告と同様に稀な疾患であると考えられています。日本人の場合、肛門管の解剖学的特徴や生活習慣の違いにより、症状の現れ方や進行速度が欧米の報告とは異なる可能性があります。
ARMは非常に稀ながん種ですが、その攻撃性と予後の悪さから、医療関係者と患者さんの両方が認識を高める必要があります。早期発見と適切な治療が生存率の向上につながる可能性があるため、持続する肛門直腸の症状がある場合は、専門医の診察を受けることが重要です。
また、ARMは皮膚のメラノーマとは異なる特徴を持つため、皮膚科医と消化器科医の連携が診断と治療において重要な役割を果たします。今後、日本人患者さんのデータを蓄積し、日本人に適した診断・治療ガイドラインの確立が望まれます。
参考文献:
Paolino G, et al. Anorectal melanoma: systematic review of the current literature of an aggressive type of melanoma. Melanoma Res. 2024.