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ノババックス製ワクチン、妊産婦は接種しても大丈夫? 現状のデータから産婦人科医が解説

重見大介産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士
(写真:アフロ)

新たな新型コロナウイルスワクチンが日本でも承認

厚生労働省は2022年4月19日、ノババックス社のコロナウイルス感染症ワクチン「ヌバキソビッド筋注」を特例承認しました。(文献1)

これは、ノババックス社が製造販売し、国内供給を武田薬品工業社が行うものになります。

本ワクチンは組換えタンパクワクチン(不活化ワクチンの一種)であり、B型肝炎ウイルスワクチンなど、他のワクチンでも使用実績があるものになります。mRNAワクチンではありません。

今回の承認により、日本では5つ目の新型コロナワクチンが承認されたことになります。

ワクチンの添付文書から見る「妊産婦の扱い」

本ワクチンは、妊娠中や授乳中などの状況で有効性が期待できるのか、安全性はどうなのか、気になる方も多いのではないでしょうか。

まず、ワクチンの添付文書にどのように書かれているかを確認しましょう。(文献1)

<接種対象者> 本剤の接種は18歳以上の者に行う

<接種回数> 原則として、他のSARS-CoV-2に対するワクチンと混同することなく2回接種するよう注意すること。

<追加接種> 通常、本剤2回目の接種から少なくとも6ヵ月経過した後に3回目の接種を行うことができる。

以上が基本的なワクチンに関する説明です。

現時点では18歳以上に限られ、原則として他のワクチンと混同せず最低2回接種、と推奨されています。

それでは、妊産婦についての記載を確認しましょう。

<妊婦> 妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、予防接種上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ接種すること。

<授乳婦> 予防接種上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること。本剤及び本剤に対する抗体のヒト乳汁中への移行は不明である。

こちらは、一般的な薬剤に書いてあるお決まりの文言となっています。

これだけでは判断材料として困るので、もう少し詳しく確認していきましょう。

厚生労働省の見解

厚生労働省のウェブサイトには、以下のようにより詳しい説明が記載されています。

<追加(3回目)接種>

2回目の接種完了から6か月以上経過した方から、接種を受けてください。1回目や2回目の接種に用いたワクチンの種類に関わらず、本ワクチンの接種が可能です。

<有効性>

初回接種における臨床試験の結果、オミクロン株が流行する前のデータではあるものの、臨床試験を通じて、約90.4%等の発症予防効果が確認されています。また、オミクロン株に対する知見は限定的ではあるものの、接種により中和抗体価が上昇したとの報告があります。

<注意が必要な人>

妊娠中、又は妊娠している可能性がある人、授乳されている人は、接種前の診察時に必ず医師へ伝えてください。ただし、かかりつけの産婦人科医に確認していない場合でも、予診医によりワクチン接種が可能と判断された場合は、接種が可能です。

妊産婦でも接種は禁止されておらず、接種時に医師へ伝えるようにと書かれています。

海外の公的機関の見解

海外ではどうなのか、いくつかの情報を見ていきましょう。

(1) 世界保健機関(WHO)

WHOは、妊産婦について以下のように述べています。(文献2)

<妊婦>

妊娠中の女性におけるノババックスワクチンの安全性と有効性に関するデータはまだ得られていません。しかし、他のタンパク質ベースのワクチン(protein-based vaccines)における過去のエビデンスに基づき、有効性は同じような年齢の妊娠していない女性と同等であると考えています。

<授乳婦>

母乳栄養児に対する本ワクチンの潜在的なメリットや考えられるデメリットに関するデータはまだ得られていません。しかし、本ワクチンは生きたウイルスで製造されたワクチンではないため、生物学的にも臨床的にも授乳中の子どもにリスクを与える可能性は非常に低いと考えられています。ワクチン接種を理由に授乳を中止することは推奨されません。

(2) オーストラリア政府機関

オーストラリアの政府機関は、以下のように述べています。(文献3)

ノババックスワクチンは、妊娠中および授乳中の女性にも投与することができます。本ワクチンには妊産婦に対する十分なデータがないものの、他のコロナウイルスワクチンと同様に生ワクチンではないため、妊娠中の接種に関する理論的な安全性の懸念はありません。

妊娠中および授乳中の女性はノババックスワクチンの臨床試験から除外されていますが、動物実験では、妊娠や胚・胎児の発育に関する直接的・間接的な有害性は指摘されていません。

以上から、「ノババックスワクチンの妊産婦におけるデータは不十分だが、これまでも妊婦へ安全に接種されてきた組換えタンパクワクチンの一種なので、理論上は安全に接種ができると考えられている」というのが、現状の見解だと言えるでしょう。

妊婦はワクチンを早めに接種することも重要

現在妊娠している女性の中には「どのワクチンを接種すればいいのか判断できない」と考える方も少なくないでしょう。

確かにワクチンの種類も気になるところでしょうが、「ワクチンの種類」だけでなく「ワクチン接種のタイミング」や「接種回数」も重要な要素です。

妊婦の場合、妊娠後期の感染ではより重症化リスクや早産リスクが高く、なるべく早めに少なくとも2回接種を終えておくことが大切です。

不安な方は、ぜひ早めにかかりつけの産婦人科医へ相談してみましょう。

*本記事の内容は執筆時点(2022年6月17日)の情報をもとにしています。

こちらの記事も参考になさってください。

【2022.4/10】新型コロナウイルス感染症・ワクチンと不妊・妊娠・授乳との関連 最新情報まとめ

妊娠中にコロナに感染したら? 最新データから見えるいくつもの「リスク」

参考文献

1. 厚生労働省. ノババックス承認プレス.

2. WHO. The Novavax vaccine against COVID-19: What you need to know.

3. Australian Government Department of Health. ATAGI statement on the use of Novavax COVID-19 vaccine (Nuvaxovid).

産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士

「産婦人科 x 公衆衛生」をテーマに、女性の身体的・精神的・社会的な健康を支援し、課題を解決する活動を主軸にしている。現在は診療と並行して、遠隔健康医療相談事業(株式会社Kids Public「産婦人科オンライン」代表)、臨床疫学研究(ヘルスケア関連のビッグデータを扱うなど)に従事している。また、企業向けの子宮頸がんに関する講演会や、学生向けの女性の健康に関する講演会を通じて、「包括的性教育」の適切な普及を目指した活動も積極的に行っている。※記事は個人としての発信であり、いかなる組織の意見も代表するものではありません。

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