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パトカー追跡中の重大事故多発 市民の犠牲、どう防げるか

柳原三佳ノンフィクション作家・ジャーナリスト
警察に追跡された車の悪質運転によって市民が巻き込まれる悲惨な事故が多発しています(GYRO PHOTOGRAPHY/アフロ)

 5月に入ってから、パトカーに追跡された違法車両による重大事故のニュースが、相次いで報じられています。

 まずは『共同通信』他の報道を元に、その一部をまとめてみます。

●5月3日/神奈川・3人重軽傷

午後11時35分ごろ、神奈川県海老名市の市道交差点で、パトカーに追跡されていた2人乗りのスクーターが、交差点に進入してきた乗用車と衝突。転倒したスクーターの20代女性2人が重軽傷。乗用車の助手席の女性(27)が首に軽傷。

●5月6日/栃木・1人死亡、2人重軽傷

午前3時20分ごろ、栃木県宇都宮市の国道でパトカーに追跡され逃走していた乗用車が対向車線に飛び出し、軽乗用車と正面衝突。軽乗用車の男性(46)が死亡。乗用車の2人は重軽傷を負った。その後の調べで、乗用車を運転していた男性が、飲酒運転の可能性があることが分かっている。

●5月11日/茨城・1人死亡、2人重軽傷

午後9時半ごろ、茨城県八千代町の国道で、覆面パトカーに追跡されていた軽自動車がセンターラインをはみ出して、対向車と正面衝突。軽自動車は炎上し、運転していた男性(55)が死亡、対向車を運転していた女性(24)が重傷、2歳の息子が軽傷を負った。事故の直前、軽自動車は覆面パトカーを追い越していた。

●5月13日(月)/愛知・物損、犯人逃走

午後10時40分ごろ、愛知県清須市の国道で、パトカーに追跡されたライトバンが軽乗用車と出合い頭に衝突。軽乗用車を運転していた男性(39)にケガはなかったが、ライトバンは事故後、逃走した。ライトバンは速度超過をしたため、パトカーが停止を求めていたが、従わずに逃げていた。

 私自身、警察車両の絡んだ事故を過去に何度も取材したことがありますが、いずれの事故も、交通ルールを守っていた一般市民が、突然、不可抗力の事故に巻き込まれ、命を奪われたり、大けがを負わされたりしています。

 ちなみに、上記4件の事故において取り締まりを行っていた各警察は、即日、以下の内容のコメントを出しています。

●神奈川県警 

「適正な職務執行と考えており、事実関係を詳細に確認した上で適切に対処する」

●栃木県警 

「現時点で職務執行や追跡に問題はなかった」

●茨城県警 

「現時点で適正な取り締まりだったと判断している」

●愛知県警 

「現時点で適正な取り締まりだったと判断している」

■元白バイ隊員が語る、追跡行為の現実

 交通ルールを無視し、警察の制止をも振り切って逃走した上、さらに交通事故を起こす逃走車。こうした悪質事故に巻き込まれた被害者や遺族は、この怒りをいったいどこにぶつければよいのでしょう。

 また、違反車両の「追跡」に当たる現場の警察官は、どのような思いで職務に当たっているのでしょうか。

「警察緊急自動車運転技能A級」の資格を、普通車、大型車、二輪車において全て取得し、パトカーや白バイに乗務。交通機動隊で取り締まりにあたってきた元宮城県警の佐々木尋貴氏(現・日本交通事故調査機構代表)は、こう語ります。

警察車両で追跡中に第三者の市民を事故に巻き込むなどということは論外で、本来あってはならないことです。もちろん、第三者だけでなく、追跡している相手がどんな凶悪犯であっても、警察はその人物を無傷で検挙しなければなりません。

 現職中、パトカーや白バイに乗務する前に徹底して言われたのは、『深追い禁止』『勇気ある撤退』『受傷事故防止』以上の3つでしたね。これはもう、毎日厳しく言われていました。しかし、例えば飲酒運転などの場合は、現行犯で捕まえなければ飲酒の事実は消えてしまいますので、警察官としてはなんとかその場で捕まえたいという思いがあるのです」

宮城県警交通機動隊で白バイ隊員として乗務していたころの佐々木氏(佐々木氏提供)
宮城県警交通機動隊で白バイ隊員として乗務していたころの佐々木氏(佐々木氏提供)

 また、佐々木氏は、必死で逃げている車を「追いかけて止める」ということは、実は非常に難しいことだと指摘します。

アメリカなどではパトカーを車に体当たりさせたり、発砲するなどして、力ずくで停止させることができるのですが、日本の警察にはそれが許されていません。逃げている車が他人を巻き込まず、自損事故でも起こして運よく止まってくれればそれに越したことはないのですが、現実には少なく、引き際が大変難しいのも事実です。追跡車両のナンバーさえ押さえたら、後で捜査することもできますので、とにかく、周辺への危険を感じたら逃がしてしまうという判断も重要です」

■パトカー追跡事故で夫を失った妻からのメッセージ

 冒頭でもお伝えした通り、5月6日、栃木県でパトカーに追跡されていた乗用車がセンターラインを越えて対向車と衝突。対向車を運転していた男性(46)が、命を奪われるという事故が発生しました。

 この男性の妻が、事故から1週間たった13日、辛く悔しい思いを、メディアを通して訴えました。 

 以下のニュース記事に、そのメッセージの全文が掲載されています。

【パトカー追跡の車“はしご酒”か、衝突され男性死亡 妻の思い(TBS系(JNN)) 】

 この記事によると、逃走中に事故を起こした男(22)は、はしご酒をしていたそうです。

 飲酒運転がばれるのを恐れたのでしょうか、パトカーの追跡から逃れるため赤信号を振り切って走行し、挙句の果てに、通勤途中だった何の落ち度もない一人の男性の命を奪い、妻、そして2人のお子さんとの未来を、一瞬にして断ち切ってしまったのです。

 残された奥さまは、飲酒運転への思いをこう綴っておられました。

『どうか皆さん、飲酒運転を絶対にしないでください。させないでください。家族、親戚、友人 みんなが悲しい思いをします。本当にどうかお願いします。夫の死を無駄にしないであげてください。いつの日か必ずこういった悲惨な事故がなくなってくれることを本当に心の底から願ってやみません。』

■追跡中の市民巻き込み事故、どう防ぐか

 もちろん、この事故が、加害者の悪質な飲酒運転によって引き起こされたものであることは言うまでもありません。

 また、この加害者がそのまま走り続けていたら、さらなる被害者が生まれたかもしれません。

 でも、その一方で、

『もし、パトカーがもう少し早いタイミングで「勇気ある撤退」を決断していたら……』

 前出の佐々木氏の話を聞きながら、そんな思いがよぎったのも事実です。

 

 先日、大津で散歩中だった保育園児の死傷事故が起こったとき、被害者である保育園側の記者会見が事故当日に行われ、その様子が繰り返し報じられました。

 一部では、事故直後にあのような質問を被害者に浴びせかけることに対し、問題視する声も上がっているようですが、記者クラブに所属しているメディアの方々には、繰り返し起こっているこうした事故についてこそ警察に質問していただき、

『パトカーでの追跡時、どのような状況だったのか?』

『現時点で”適正な取り締まりだった”と発表する根拠は何か?』

『追跡による取り締まり時に、一般車両や歩行者の安全を守り、同様の事故を防ぐためにはどうすべきなのか?』

 深く追求し、報道していただきたいと思います。

 悪質ドライバーを逃してしまう危険と、追い詰める先にある危険……。

 なんの罪もない市民の犠牲を、いったいどうすれば防げるのでしょうか。

ノンフィクション作家・ジャーナリスト

交通事故、冤罪、死因究明制度等をテーマに執筆。著書に「真冬の虹 コロナ禍の交通事故被害者たち」「開成をつくった男、佐野鼎」「コレラを防いだ男 関寛斉」「私は虐待していない 検証 揺さぶられっ子症候群」「コレラを防いだ男 関寛斎」「自動車保険の落とし穴」「柴犬マイちゃんへの手紙」「泥だらけのカルテ」「焼かれる前に語れ」「家族のもとへ、あなたを帰す」「交通事故被害者は二度泣かされる」「遺品 あなたを失った代わりに」「死因究明」「裁判官を信じるな」など多数。「巻子の言霊~愛と命を紡いだある夫婦の物語」はNHKで、「示談交渉人裏ファイル」はTBSでドラマ化。書道師範。趣味が高じて自宅に古民家を移築。

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