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藤井聡太王位(19)お返しの快勝で1勝1敗のタイに! 王位戦七番勝負第2局

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 7月13日・14日。北海道札幌市・ぬくもりの宿ふる川において、お~いお茶杯第63期王位戦七番勝負第2局▲藤井聡太王位(19歳)-△豊島将之挑戦者(32歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 13日9時に始まった対局は14日18時21分に終局。結果は99手で藤井王位の勝ちとなりました。

 七番勝負はこれで両者ともに1勝1敗。第3局は7月20日・21日、 兵庫県神戸市「中の坊瑞苑」でおこなわれます。

 両対局者は次局に向けて、次のように語りました。

藤井「(王位戦)第3局にかけて(棋聖戦第4局もはさみ)対局が続く形になるので、しっかりよいコンディションで臨めるようにしたいと思います」

豊島「すぐ次があるのでコンディションを整えて、またがんばりたいと思います」

 両者の通算対戦成績は藤井14勝、豊島11勝となりました。

 藤井王位の今年度成績は8勝3敗です。

藤井王位、リードを保って押し切る

 第1局と先後が入れ替わって、藤井王位先手。事前の戦型予想は相掛かりか、角換わりか、ほぼ二択と見られていました。藤井王位が本局で選んだのは、角換わり。序盤は両者ともにほとんど時間を使わないうちにすらすらと進み、現代最新の腰掛銀に。43手目、藤井王位はさっそうと桂を跳ねて動いていきます。

藤井「角換わりは予定だったんですけど、どういう形になるかはわかっていなかったです。本譜の形から仕掛けていこうかなと思っていました。一応この形の、本譜の攻め筋をやってみようかなとは思っていました」

 藤井王位が3筋の歩を突っ掛けたのに対して、豊島挑戦者はじっとその歩を取る工夫を見せました。

豊島「(46手目△3五同歩は)やってみたい指し方だったんですけど」

 両対局者が難しいことを考えている間、観戦者の話題をさらったのが「かっぽん ベリー・ピスターシュ」でした。

 53手目、藤井王位が1筋の香を走って攻めを続けます。

 そこで豊島挑戦者が長考に入り、局面はぴたりと止まりました。

豊島「(46手目△3五同歩は)やってみたい指し方だったんですけど。まあでも、こちらから注文をつけていって、先に長考してというのでは・・・。まあ、なんていうか、準備不足というか、ちょっとあまりよくなかったかなと思っています。こちらから形を誘導しているので、それで先に長考しているので、ちょっと、失敗というか、冴えない感じかなと思いました」

 昼食休憩をもはさんで、考えること2時間55分。豊島九段はタダで取れる香をようやく取りました。55手目、藤井王位は手にした歩を桂取りに打ち、盤面の左右から攻めかかっていきます。

藤井「(53手目)▲1五香から▲7四歩で踏み込んでいったんですけど、ちょっと。そのあと終盤がかなり考えないといけない変化が多くて。ちょっと長考した場面も多かったんですけど、なかなか判断しきれないところが多かったなと思います」

 コンピュータ将棋同士の対局場でもある「floodgate」でも同一局面があったそうです。

 56手目。豊島挑戦者はじっと飛車取りに香を成ります。

豊島「やっぱり(相手の)2九飛車がいい位置なので(△1八香成と)香車成らないとしょうがないかと思ったんですけど。そのあといろいろいやな攻め筋があるので、まずそうな感じはしたんですけども、まあでも仕方ないかなと思っていました」「(△1八香成に代えて△7二香は?)香成らないで△7二香ですか。ああ、そうでしたか。いやでもなんか、それだと飛車が2四に逃げられる展開とかがあるので。確かにこちらから見て右側の形がいいですけど。考えたんですけど、あまり自信が持てなかったのでやめました」

 藤井王位は1時間39分の長考。当たりになっている飛車を逃げず、桂を取って踏み込んでいきました。

豊島「(相手が飛車を逃げずに7筋から攻めてくるのは)それでまずくても仕方がないというか。まずい可能性はあると思いました」

 豊島挑戦者は取れる飛車を取らずに、受けで対応します。コンピュータ将棋が示す形勢は藤井王位が大きくリード。第1局は豊島挑戦者完勝でしたが、そのときの序中盤と同様に、角換わり腰掛銀の先手側がポイントを上げる格好となりました。

豊島「(封じ手のあたりは)自信がないというか、まずい順があったらしょうがないかな、という感じで」

 藤井王位は再び長考。今度は1時間56分を使って、そのまま18時に。藤井王位が59手目を封じて指し掛けとなりまし

定山渓かっぱ祭り
定山渓かっぱ祭り提供:イメージマート

 明けて2日目。藤井王位の59手目、封じ手は大方の予想通り、桂打ちの王手でした。なおも飛車を逃げずに攻め続ける藤井王位。この時点ですでに、先の先まで詳細に読んでいます。しかしそれでもなお、読み切れていないところがあったようです。

藤井「(封じ手の前後で考えて)▲2三歩成から▲7四歩をやってみようかなと思ったんですけど」「(飛車を逃げずに▲3四桂と攻めていったが)ただちょっとそうですね、変化の仕方がわからなかったです。(封じ手▲3四桂に1時間56分考えた)本譜がやっていけるかどうかというのが、あるいはいったん▲2七飛車とか逃げて、というのは比較が難しいと、はい、思っていました。すでに終盤なので、わからない変化が多かったです。本譜は後手玉を逃してしまうので、ちょっとほかの指し方がわからなかったので」

 観戦者の目には、藤井王位は終始気持ちよく攻め続けているようにも見えました。もしかしたら2日目の早い段階で終局があるのかもしれない。しかし豊島挑戦者は容易に土俵を割らずにしのぎ続けます。振り返ってみれば過去の両者の対局では、辛抱が実って豊島大逆転勝利という例もありました。

 戦いは2日目午後に入ります。73手目、藤井王位は王手飛車取りで金を打ちました。セオリーでは、玉は上部、中段に逃げ出していきそうなところ。しかし豊島挑戦者はその逆、一段目に落ちてしのぎました。

藤井「(1日目、封じ手前後で長考した)その時点では、本譜の(73手目)▲6二金△4一玉という逃げ方が見えてなかったので。ちょっと進んでみると、うまくいってるかわからないなと思って進めていました」

 豊島九段は銀を1枚取らせる間に、自玉を逃していきます。

豊島「(終盤、△4一玉や△5一銀と辛抱していたが)そうですね、ちょっと他の手はダメかなと思ったので、仕方ないかなという感じでした」

 コンピュータ将棋の評価値は、終始藤井王位よしで推移していました。しかし持ち時間など、様々な制約のある人間同士の実戦となれば、また別です。豊島挑戦者が反撃に転じたあたりでは、逆転の可能性が生じてきたようにも見えました。

藤井「△7六歩からの攻めをうまく対応できるかどうかなのかなあ、と思ってやっていました。(87手目▲7七歩のあたりは)手が広くてどういう対応がいいのか、わからなかったです。(95手目)▲2五桂に△8九銀とか打たれたときに、しのげるかどうか、かなりきわどい形なのかな、と思っていました」

豊島「(90手目△7七歩から△6九飛と反撃して)難しそうな感じもしたんですけど。まあでも、本譜で見切られてるのかもしれない。そうですね、いやちょっと・・・。▲2五桂は詰めろじゃないんで攻めていってどうかな、という感じで思ったんですけど。そのあと▲8五桂と跳ねられる形がけっこう広いので。飛車打ったときはまだそこまでわかってなかったんですけど。△8九銀とか△9五歩の感じで、王手を決めていって桂跳ねて。7五の地点が抜けているので。最初は▲2五桂が詰めろじゃないなら、という感じで思って進めてたんですけど。もうちょっとうまい攻め方があったかもしれなかったですけど、わからなかったですね」

 豊島挑戦者の攻めをしのいだ藤井王位。歩を打って相手玉に王手をします。

藤井「(97手目)▲2三歩のあたりで詰めろが続く形になったかなと思いました」

 99手目。藤井王位は龍で王手。豊島玉が詰めろの連続で受けなしに追い込まれる一方で、藤井玉は詰みません。18時21分、豊島九段が投了し、対局は終わりました。

豊島「(本局を振り返って)基本的にはまずい時間・・・まずいというか、ちょっとわるい感じだったような。最後になんかチャンスがあったかどうかという感じ・・・。まあ、調べてみないとわからないですけど。まあ基本的には苦しかったかなと思います」

 第1局、第2局ともに角換わり腰掛銀で、先手番の利を活かした側がリードを奪い、きわどいながらもそのままほぼノーミスで勝ち切るという、現代トップクラス同士の対戦らしい内容となりました。

 先後が入れ替わり、第3局は豊島挑戦者が先手。熱い夏の王位戦は、まだまだ続いていきます。

 藤井王位が注文してバズった「かっぽん ベリー・ピスターシュ」。一般の方向けに販売が決まったそうです。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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