【果てしなき近親憎悪】 自民党を揺るがす二階派対宏池会の戦い
山口3区を巡る代理戦争
山口県宇部市長選が11月22日に行われ、県議の篠崎圭二氏が当選した。林芳正元文科大臣の秘書だった篠崎氏には林氏の応援が入り、自民党県連の推薦が付いた。宇部市を含む衆議院山口県第3区を巡って林氏と対立している河村建夫志帥会会長代行は、篠崎氏の対抗馬の望月知子元市政策広報課長を応援した。
まさに血肉の争いだ。志帥会の領袖の二階俊博幹事長は10月4日、同市で開かれた河村氏のパーティーに同会派の国会議員19名を引き連れて参加し、「売られた喧嘩という言葉があるでしょ」「河村先生に何かがあるんじゃないかということであれば、政治行動の全てをなげうって、我々はその挑戦に受けてたちます」と林氏を挑発した。そんな因縁のある宇部市長選は、河村対林の戦いであると同時に、二階派対宏池会の戦いでもある。林氏が岸田派(宏池会)に所属しているからだ。
16年の福岡6区補選でも……
実はこの戦い、山口県内に止まらず非常に根が深い。鳩山邦夫元総務相の死去に伴って2016年10月に行われた衆議院福岡県第6区補選も、邦夫氏の次男の二郎氏の対抗馬として自民党福岡県連は蔵内勇夫県連会長(当時)の長男・謙氏擁立した。謙氏は林氏の秘書で、この時ばかりは犬猿の関係の県連最高顧問の麻生太郎財務相と宏池会名誉会長だった古賀誠氏が手を結んでいる。
宏池会の牙城で公明党が代理戦争?
そして11月19日に公明党の斉藤鉄夫副代表が衆議院広島県第3区から出馬を表明したことも、この系譜に繋がるといっていいだろう。もともと3区は河井克行氏の地盤だったが、河井氏は妻・案里氏が出馬した昨年の参議院選での公職選挙法違反で逮捕された。河井氏自身は安倍普三前首相や菅義偉首相に近いが、宏池会の本拠地である広島県としては、岸田文雄会長は宏池会系の候補を擁立したい。にもかかわらず、いきなり斉藤氏が出馬表明したから、たまらない。
斉藤氏は1993年に現在の第3区を含む旧広島県1区から初めて出馬して当選。岸田氏に2万票及ばなかったが、10万票以上も獲得。1996年の衆議院選から比例区に転じている。
以来、広島県には公明党の候補が立っていないため、実際のところ3区で斉藤氏がどのくらい票を得るのはわからない。
だが公明党は勝てない選挙は行わない。すでに自民党幹事長の二階氏と折り合っているのは明らかだ。いやもしかしたら、二階氏から持ちかけた話かもしれない。逮捕された案里氏が参議院選に出馬したのも、夫の克行氏から依頼を受けた二階幹事長のお墨付きがあったからだ。実際に当選後、案里氏は二階派に所属した。
すでに血しぶきが飛び交う福岡県
週刊文春が数度にわたって報じた中央自動車道にかかる橋梁の耐震補強工事を巡る手抜き報道も、この関連から考えればよくわかる。問題の建設会社との癒着が取り沙汰された宮内秀樹農水副大臣の福岡県第4区内の県議や市議は、21日に宮内氏を呼び出し、ヒアリングを行おうとした。宮内氏は二階派の所属で武田良太総務大臣に近いが、そのヒアリングの発起人は吉松源昭福岡県議会議長で、麻生派の大家敏志参議院議員と近い。
そして二階派の武田氏と大家氏は、昨年4月の福岡県知事選を巡って対立した。現職の小川洋知事と対立した麻生太郎財務相は、元厚労省官僚の武内和久氏を擁立。その選対委員長を務めたのが大家氏だった。
麻生派は宏池会が加藤派になることに反発して結成された河野派が源流。そして今、麻生氏は岸田派と再結成して大宏池会構想を抱いている。今年9月の自民党総裁選で、麻生氏は岸田氏を応援する代償として(麻生氏と肌合いの合わない)名誉会長の古賀氏を切るように申し出たのはその布石だろう。
福岡4区についても、次期衆議院選で自民党内から宮内氏の対抗馬を出すとの話も出ているようだが、その主導権を握るのは麻生派だろう。まさに血で血を洗う争いになるが、武田氏など県内の二階派がどのように反撃してくるのか―。すでに「令和戦国時代」は始まっている。