内閣府が令和6年能登半島地震の通知や事務連絡を公開 オープンガバナンス促進を
2024年1月15日、内閣府防災担当は、令和6年能登半島地震の特設ページ内に、新たに「内閣府防災担当からの各都道府県等への通知」を加えました。公表された通知や事務連絡は、1月1日に発出された「避難所の確保及び生活環境の整備等について」を含み、次のとおり4種(16通)でした(1月15日時点)。今後も随時追加公表されていくことを期待します。
1月1日以降、公表に至るまで多くの皆様に調整のご尽力をいただきました。ご協力・ご助力をいただきまたこと、謹んで御礼を申し上げる次第です。
通知一覧を見ると1月1日の時点で、定番の「避難所の確保及び生活環境の整備等について」が発出されています。ここには「設置した指定避難所の数では不足する場合には、公的宿泊施設、旅館、ホテル等の借り上げ等により避難所を確保すること」(いわゆる「みなし避難所」=「二次避難所」の確保)が明記されていました。1月1日直後に最初の通知である「避難所の確保及び生活環境の整備等について」が公表されて、広く国民の目に触れていたら、応援自治体、メディア、有識者から、より早期に「みなし避難所」について根拠を持った支援と政策助言が出来たはずだったのではとも思えます。このみなし避難所について公表されていたものとしては、1月6日の非常災害対策本部会議で「被災地外も含め、ホテル、旅館等の空き室を自治体で、借り上げる、みなし避難所を積極的に活用し、避難生活の改善を早急に図ってほしい」という内閣総理大臣発言が残ってはいますが、上記の通知や事務連絡は公表には至っていなかったのです。
災害救助法適用災害における通知や事務連絡の公表状況
内閣府防災担当は、災害発生後に災害救助法が適用された場合に(近年の災害救助法適用災害は「災害救助法の適用状況」参照)、都道府県等へ向けて発信する通知や事務連絡を、ウェブサイト上には公表しない運用をしてきています。最近の例では、たとえば内閣府が特設ページを作っている、
の3つでさえ、そこには「内閣府防災担当からの各都道府県等への通知」などの項目はありません(1月15日時点)。通知が1つもなかったということはありません。少なくとも災害救助法の適用と同時に「避難所の確保及び生活環境等の整備について」と題した、ある意味定番の通知は発出されているからです。
熊本地震・西日本豪雨・令和元年東日本台風・令和2年7月豪雨での公表について
内閣府防災担当は、2013年の法改正によって、災害救助法の所管部署になりました(それまでは厚生労働省)。その後から能登半島地震の前までに起きた「特定非常災害」である「熊本地震」「西日本豪雨」「令和元年東日本台風」「令和2年7月豪雨」の4災害に限っては、内閣府防災担当から被災地都道府県等へ発出された通知や事務連絡の一覧が公表されています。ただし、リアルタイムでは通知や事務連絡は公表されていませんでした。いずれの災害においても、発災後に、被災地都道府県、支援団体、学術界、メディア、そして与党国会議員などの要望を経て、ようやく公表に至ったという経緯があります。たとえば、2016年4月14日におきた熊本地震の「関係通知等一覧」が内閣府防災担当から公表されたのは、要望を重ねたのち、2016年7月を過ぎてからでした。それまでは内閣府防災担当による通知や事務連絡は未公表状態だったのです。
なお、令和6年能登半島地震は、1月11日に「特定非常災害」指定を受けました(ヤフーニュースエキスパート「令和6年能登半島地震が8例目の特定非常災害指定 行政手続や相続放棄の期限延長や半壊住宅の公費解体も」)。内閣府が通知や事務連絡を一挙公開した背景には、その影響もありそうです。しかし、そもそも特定非常災害だから開示する、そうでない災害救助法適用災害の場合は開示しなくてよいという話でもないはずです。
災害対応に求められるオープンガバナンス
行政と市民が協働して政策課題の解決を目指すことを、オープンガバナンスといいます。新規の政策立案の場面でよく登場する考え方ですが、既存の施策を正しく円滑に行うためにも重要なキーワードです。
大規模な災害が発生すると、多くは災害救助法に基づく被災者の命を守るための救援・救護活動が行われます。同時に、助かった命をつないで生活再建や復興を達成するために法制度を根拠とした支援施策が動き出します。
しかし、被災した行政機関の力だけでは、災害関連の法律があらかじめ定めているはずの救助や生活再建支援を漏れなくやり抜くことは不可能です。そもそも災害法制は平時から使うものではないので、多くの被災自治体が初めて運用することになります。だからこそ、被災していない他の行政機関の支援は当然のこと、民間事業者、支援団体、学術団体、メディアなど、あらゆる外部支援のリソースを集結して、一気呵成の支援や情報提供を行う必要があるのです。
その支援の根拠や拠り所になる情報こそが、「通知」や「事務連絡」です。これまで先人が壮絶な被災経験とそこからの血の滲むような復興や再生の過程で獲得してきた知恵の結晶がそこに含まれています。冒頭の内閣府防災が公表した通知等の内容を読むと、それを実感できると思います。これらがオープンガバナンスの達成に不可欠な情報であることは明らかです(ヤフーニュースエキスパート「〔令和6年能登半島地震〕ホテルを避難所として活用せよ!災害関連死防止のカギは災害救助法にあり」)。
通知や事務連絡の公表は政府全体の合意事項
2015年3月、総務省行政管理局が事務局を務める「第61回各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議」において「Webサイト等による行政情報の提供・利用促進に関する基本指針」が決定されました。ここでは、国が「Webサイト等により提供する情報の内容」として「法令」「告示」「通達」「その他国民生活や企業活動に関連する通知等(行政機関相互に取り交わす文書を含む。)一覧及び全文」が明記されるに至っています。各府省庁の通知や事務連絡はすべて公表対象なのです(なお外交的な国家機密等は当然例外となるでしょう)。「業界団体限りで」「自治体限りで」という通知などは本来なく、すべからくウェブサイトで公表されなければならないのが政府の基本方針なのです。なお、上記基本指針は、2019年4月に、各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議決定「Webサイト等による行政情報の提供・利用促進に関するガイドライン」の技術指針である内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室作成の「Webサイトガイドブック」に統合されています。
新型コロナウイルス感染症が蔓延した2020年以降、国は国民生活や事業者の経済活動支援のための様々な給付や支払減免措置などを打ち出していました。それらを知らせるために国から国民へ発信された情報はあまりに膨大な数でした。国は通称「テックチーム」を組織し、内閣官房新型コロナウイルス等感染症対策室「新型コロナウイルス感染症対策」ページ内に「新型コロナウイルス感染症に伴う各種支援のご案内」コーナーを構築しました。同時に膨大な数の関係通知や事務連絡についても、ほぼ例外なくリアルタイムで公表し続けていたことが印象的でした。
そもそも、自然災害発生時には、すべての省庁が、発信した通知や事務連絡を、ほぼリアルタイムで災害特設ページやお知らせ欄に公表していくのが通例です。令和6年能登半島地震でも、これまでの過去の災害同様、ほとんどの省庁は、通知や事務連絡の開示を実施しています(これらをまとめたリンク集の例としてAI防災協議会「令和6年能登半島地震における情報リンク集」等)。危機時に立ち向かうために情報を開示し、産学政官協働で知恵を寄せ合うべきであるというオープンガバナンスの視点は、基本的には政府にも浸透しているはずなのです。
国が発信している情報をリアルタイムで公表するフローを確立せよ
災害救助法が適用されるほどの大災害ともなれば、災害法制の多くを所管する内閣府防災担当や被災地の自治体は多忙を極めることになります。通知や事務連絡の名宛人となっている自治体は、その存在自体を知ることもできない可能性が高いのです。だからこそ、国が被災自治体や業界団体へと発信した情報だけは、リアルタイムで公表し続けなければなりません。災害法制なら尚更です。通知や事務連絡を拠り所にして、民間事業者、学術界、専門士業団体、各種支援団体、メディア等のあらゆる主体から、法に基づく行政の円滑な執行に資する新たな知恵を求めたり、支援の申出や支援のアイディアを呼び込んだりすることができます。例えば、産学官による災害対策のデジタルプラットフォーム支援などはその典型例と言えます。
これを機会として、内閣府防災担当が発信しているはずの通知や事務連絡について、平時から常に公表(ウェブサイトへ掲載)するフローが確立され、日常業務に組み込まれることを願います。そのために人員や組織体制が必要であるなら、その整備と予算化を求めます。また、過去の通知や事務連絡のアーカイブ(ウェブサイトへの一覧の掲載)もあわせて実現されることを、切に願います。過去の叡智の結晶は、次の災害に備える学習素材でもあるのです。まずは、内閣府が災害救助法を所管するようになってからの災害救助法適用災害(「災害救助法の適用状況」)について、通知及び事務連絡の一切を開示することがスタートラインとなるのではないでしょうか。
(参考文献)
岡本正『災害復興法学Ⅲ』慶應義塾大学出版会2023年/第1部第7章「新型コロナウイルス感染症に立ち向かう知識の備え」、第2部第5章「避難所TKBと感染症対策」
岡本正『災害復興法学Ⅱ』慶應義塾大学出版会2018年/第2部第5章「災害救助法を徹底活用せよ」
室崎益輝・幸田雅治・佐々木晶二・岡本正『自治体の機動力を上げる 先例・通知に学ぶ 大規模災害への自主的対応術』第一法規2019年
中村健人・岡本正『自治体職員のための災害救援法務ハンドブック改訂版』第一法規2021年
宇野重規・奥村裕一・犬童周作・関治之・熊谷俊人・久保田后子「わたしの構想28 オープンガバナンスの時代へ」NIRA総合研究開発機構2017年