令和6年能登半島地震が8例目の特定非常災害指定 行政手続や相続放棄の期限延長や半壊住宅の公費解体も
令和6年能登半島地震(2024年1月1日)が、2024年1月11日の閣議決定により、史上8例目の「特定非常災害」に指定されました。
特定非常災害とは
特定非常災害とは、「著しく異常かつ激甚な非常災害」であって、被害者の行政上の権利利益の保全等を図るために措置を講ずることが特に必要と認められるものが発生した場合に、国によって政令指定される災害です。根拠となる「特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律」(特定非常災害特別措置法)は、阪神・淡路大震災をきっかけに成立しました。
「著しく異常かつ激甚な非常災害」かどうかは、(1)死者・行方不明者、負傷者、避難者等の多数発生、(2)住宅の倒壊等の多数発生、(3)交通やライフラインの広範囲にわたる途絶、(4)地域全体の日常業務や業務環境の破壊などを総合的に勘案して判断します。数値要件もありませんし、被害の完全把握が必要なわけでもありません。
これまで特定非常災害となったのは、阪神・淡路大震災(1995年)、新潟県中越地震(2004年)、東日本大震災(2011年)、熊本地震(2016年)、西日本豪雨(2018年)、令和元年台風第19号(2019年)、令和2年7月豪雨(2020年)で、令和6年能登半島地震(2024年)で8例目です。
特定非常災害の指定について明確な方針が国から発表されたのは、地震発生から6日後の1月7日でした。当時のNHK報道によれば、石川県で死者128人、安否不明者195人、全壊住家1370棟という被害状況(未確認被害も多数)で、多くの被災者が避難継続を余儀なくされていました。すでに特定非常災害指定の要件を満たしていたことは明らかだったといえます。
特定非常災害の指定は何のためにするのか
特定非常災害特別措置法は、閣議決定を経る政令指定のみによって、主に行政手続について一括で法定の期限の延長措置等をとれるようにしている法律です。その手続対象は200種類以上に及び、所管省庁も多岐にわたります。
被災したことで、各種手続の本来の期限までに届出や許可申請が間に合わなかったり、免許期間などが過ぎてしまったりすることがあります。そうすると、違法状態や無許可状態になる被災者が続出してしまいます。ところが、個別の法律には、延長や猶予の定めがないものもあります。またあっても、手続きが複雑で時間がかかったり、行政側の事務負担が過大になったりする場合もあります。そこで、阪神・淡路大震災をきっかけに、将来の大災害に備えるために、この特定非常災害特別措置法が制定されました。
政府が当該災害を「特定非常災害」と指定し、あわせて、法が定める項目のうち発動させる措置を決定します。国会審議を経ずに政令指定の閣議決定さえすればよいので、方針を決めさえすれば、迅速に手続きを進めることができるのです。特定非常災害特別措置法がなければ、期限延長のために膨大な数の法改正が必要になってしまいます。
特定非常災害指定により具体的にどんな効果があるのか
令和6年能登半島地震では、次の5分野の措置について特定非常災害特別措置法による指定がありました。それぞれの項目によって対象地域や措置期間が異なるので注意が必要です(内閣府「令和6年能登半島地震による災害についての特定非常災害及びこれに対し適用すべき措置の指定に関する政令」の公布・施行について)。
(1)行政上の権利利益に係る満了日の延長(法第3条)
自動車運転免許のような許認可等の有効期間が、最長で令和6(2024)年6月30日(日)まで延長されます。具体的な対象地域や期限は、各省庁が別途定めていき、それらは「総務省」のページにまとめられます。期限が来てしまう手続きを抱えている方は、まずは当該機関へ相談してください。
(2)期限内に履行されなかった義務に係る免責(法第4条)
事業報告書や薬局等の各種届出など履行期限がくる法令上の義務が、災害によって履行されなかった場合であっても、令和6(2024)年4月30日(火)までに履行された場合には、行政上及び刑事上の責任を問われません。法令上の各種義務を履行すべき方については、まずは当該窓口へ相談して、対象になるかどうかをチェックしてください。
(3)債務超過を理由とする法人の破産手続開始の決定の特例(法第5条)
今回の災害の影響で債務超過となった法人については、令和7(2025)年12月31日(水)まで、債権者申立による債務超過を理由とした破産手続開始決定が留保されます(支払不能や法人清算中を除く)。被災した法人を一定期間保護することを目的としたものです。
(4)相続の承認又は放棄をすべき期間に関する民法の特例措置(法第6条)
今回の地震で「災害救助法」が適用された新潟県、富山県、石川県及び福井県にまたがる35市11町1村に住所を有していた相続人については、相続の承認又は放棄のための「熟慮期間」(本来は亡くなったことを知ってから3か月以内)が、2024年1月1日以後に満了するものについて、一律で令和6(2024)年9月30日(月)まで延長されます(法務省「令和6年能登半島地震の被災者である相続人の方々へ」)。
被相続人の借金が多額等の理由で相続を希望しないような場合、「相続放棄」することができます。その場合、亡くなった方(被相続人)の死亡を相続人が知ってから3か月以内に、家庭裁判所へ申し立てをしなければなりません。この期間を「熟慮期間」といいます。しかし、日々の生活に困難が多い中で、財産調査をして、債務状況を確認して、相続放棄をするかどうかの判断をすることは非常に困難です。いざ申し立てをしようと裁判所に提出する書類を整えるのも、自分だけでやろうとすると大変な労力です。民法には、もともと熟慮期間の延長制度がありますが、延長を認めてもらうには、結局は熟慮期間内の家庭裁判所への申述が必要です。今回の措置は、該当者は自動的に熟慮期間が先延ばしになりますので、被災者に余裕が生まれます。なお、もし延長後の期限までに相続放棄の是非の判断がつかない場合は、その間にもともとの民法による熟慮期間の延長の申述を家庭裁判所にすればよいことになります。
(5)民事調停法による調停の申立ての手数料の特例措置(法第7条)
今回の地震で「災害救助法」が適用された35 市11町1村に住所・居所・営業所・事務所を有していた方が、今般の地震に起因する民事紛争について、裁判所に民事調停の申立てをする場合には手数料納付が免除になります。期限は令和8(2026)年12月31日(木)です(法務省「民事調停の申立手数料の特例措置」)。
たとえば「自然災害債務整理ガイドライン」(被災ローン減免制度)を利用する場合、債権者との合意プロセスで裁判所の特定調停手続を利用します。この特定調停は債務者(被災者)側が申立人となりますから、この条項によって一定期間は無料で申し立てられることになります。
なお、このほかに(6)景観法による応急仮設住宅の存続期間の特例措置(法第8条)もありますが、今回はこの項目は指定されていません。
応急仮設住宅の入居期間と特定非常災害
応急仮設住宅には、建設型応急住宅と賃貸型応急住宅(みなし仮設住宅)があります。存続期間は原則2年です。というのも、建設型応急住宅は、建築基準法上の応急仮設建築物に該当し、存続期間は2年とされているからです。みなし仮設住宅は、もともとの住宅を利用しますのでそのような期限はありませんが、建設型応急住宅と足並みをそろえるために、存続期間は原則2年になっています。2年を超えてもどうしても応急仮設住宅の存続が必要な場合で、公益上やむを得ないと認める場合には、建築基準法により1年ごとに存続延長の許可を申請できることになっています(2022年に法改正があった部分ですので十分注意してください。令和2年7月豪雨のときとは根拠法が異なります)。
ここで問題なのは、被災地の自治体の判断で、2年を超えて仮設住宅を延長できたとしても、その費用を災害救助費用としては認めない、すなわち超過分は国費による予算措置をしないというのが災害救助法の原則的運用だという点です。ただし、国は、「「特定非常災害の指定」が行われた災害などの大規模な災害に限り都道府県知事等と国との協議・同意を通じ、被災地の被災や復旧・復興の状況、被災者の住まいの確保の状況等を踏まえ、必要が認められた場合には、1年毎の期間の延長により対応」するとしています(災害救助事務取扱要領)。特定非常災害であれば、2年を超える存続を許可したのちも、災害救助法による国費での予算措置を継続できることになりそうです。このように、仮設住宅の延長を見据えると、特定非常災害の指定がなされたことは、被災者にとっても大きなメリットなのです。
ただ、レアケースである特定非常災害に限って2年以上の部分の費用を手当てするという厳しすぎる運用基準は、直ちに緩和されるべきです。また、被災者からすれば、建築基準法による延長判断も自治体ごとにバラバラになり、支援格差を引き起こす可能性もあることに留意が必要です。
法テラスの無料法律相談事業もスタート
特定非常災害指定に伴い、「令和6年能登半島地震による災害についての総合法律支援法第30条第1項第4号の規定による指定等に関する政令」も1月11日に閣議決定されました。日本司法支援センター(法テラス)が、被災者を対象とした資力を問わない無料法律相談事業を実施できるようになります。「災害救助法」適用地域の被災者が対象となります(法人は利用できません)。期間は、令和6(2024)年12月31日(火)までです。生活再建の知恵を得るためには、弁護士や司法書士への相談が欠かせません。そのアクセスへのハードルを下げる効果が期待されます。詳しくは法テラスや弁護士会に確認してください。
半壊住宅の公費解体ができるように
特定非常災害指定により、被災建物の解体・撤去を行う災害廃棄物処理事業において、「半壊」以上の被害を受けた住宅の「公費解体」ができるようになります。原則として公費解体の対象は「全壊」被害を受けた建物に限られる運用ですが、特定非常災害のときには、公費解体の対象を半壊にまで拡充します(環境省「令和6年能登半島地震について 災害廃棄物対策」)。これにより、半壊以上の被害を受けた被災者の住宅再建の選択肢が大幅に増えることになり、被災地の復興の加速につながることが期待されます。詳しくは市町村窓口に確認をしてください。
(参考文献)
内閣府「特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律」
総務省「「令和6年能登半島地震による災害についての特定非常災害及びこれに対し適用すべき措置の指定に関する政令」の公布・施行」
岡本正『被災したあなたを助けるお金とくらしの話 増補版』弘文堂2021年
岡本正『災害復興法学Ⅲ』慶應義塾大学出版会2023年