〔令和6年能登半島地震〕ホテルを避難所として活用せよ!災害関連死防止のカギは災害救助法にあり
ホテルを避難所として活用せよ~法律家が緊急提言
2024年1月4日、「一人ひとりが大事にされる災害復興法をつくる会」は「令和6年能登半島地震に関する緊急提言」を公表し「建物倒壊等により避難生活が長期化する可能性が高く、適切な住まいが確保されなければ、災害関連死が生じます。…被災自治体の外にある安全な地域にある宿泊施設等を活用し、集団的な緊急避難を早急に実現することによって、被災者の命を守る必要があります」と訴えました。
また、同年1月5日、仙台弁護士会は「令和6年能登半島地震に関する会長談話」を発表し「…令和2年7月豪雨や令和2年台風10号の際には、ホテル・旅館、国の研修施設等を避難所として活用し、被災者の方の当面の生活環境を整えた事例があります。被災した県や自治体には、被災者の命を守るため、余震が落ち着き、安全に生活できる環境が整うまでの期間、早急に避難所の環境整備を行うとともに(令和6年1月1日付け内閣府事務連絡「避難所の確保及び生活環境の整備等について」参照)、広域避難やホテル、旅館等の宿泊施設を活用した被災者支援を実施することを求めます」と具体的な提言を行いました。なお、ホテル等はあくまで「避難所」として利用するものであり、被災世帯の住家被害の厳密な認定は不要で、罹災証明書の発行を待つ必要はないことは言うまでもありません。
ホテル避難所実現に向け災害救助法を徹底活用せよ
ホテルを避難所として利用するためにカギとなるのが「災害救助法」です。災害救助法は、市町村に「多数の者が生命または身体に危害を受け、または受けるおそれが生じた場合」(災害救助法施行令1条1項4号、いわゆる4号基準)などに適用される法律です。これにより、災害救助実施主体が市町村から都道府県になる、災害救助の財源の国費支出が相当手厚くできるようになる、災害救助法が定めた様々な災害救助メニューや関連省庁の救助施策が一斉に動き出す、自然災害債務整理ガイドラインの利用ができるようになる、などの大きな利点があります。被災地にとってとても頼りになるのが災害救助法です。
災害救助法は、都道府県(または救助実施市)が行うべき救助の種類については、たとえば「避難所及び応急仮設住宅の供与」というように大枠のみを定めています(災害救助法4条)。そこで、具体的な運用のために「災害救助法による救助の程度、方法及び期間並びに実費弁償の基準」(内閣府告示228号、いわゆる一般基準)が定められ、そのマニュアル「災害救助事務取扱要領」や解説資料が内閣府のウェブサイトで公表されています。これらは過去の災害対応の実例がぎっしり詰まったノウハウ集とも言えます。このうち一般基準告示には次のことが明記されています。
解説資料では、さらに詳しい記述があります。
このように、避難所の形態には、多種多様な選択肢があり、法律がそれを認めているのです。体育館や公民館で集団生活を送り、雑魚寝などで我慢をするしかないという避難所のイメージが払しょくされたのではないでしょうか。
国は災害直後に事務連絡を発出して助言をしている
ところが、災害救助法が適用されるほどの災害に襲われた被災地では、内閣府が準備している解説資料をじっくりと参照する余裕がありません。「災害救助事務取扱要領」も250頁を超える分厚さを誇ります。せっかくの知恵の宝庫も参照されなければ意味がありません。
そこで、災害救助法が適用された場合、内閣府は、都道府県等に対して、事務連絡『避難所の確保及び生活環境の整備等について』と題する2~3ページ程度の支援文書を発信する運用をしています。この『避難所の確保及び生活環境の整備等について』は、災害直後に最低限自治体の現場が行うべき避難所環境整備や在宅被災者支援、そして災害救助法の一般基準にさらに上乗せして『特別基準』をつくって手厚い支援を実現するノウハウを凝縮して記述しています。はじめて災害救助事務を担当する者であっても、災害救助のポイントが理解できるようにまとめられた優れものなのです。
令和6年能登半島地震では、災害発生の当日(2024年1月1日)に事務連絡が発出されました。事務連絡の冒頭には「多数の者が継続的に救助を必要としているところであり、必要に応じて、可能な限り多くの避難所の開設を図るとともに、避難所における生活環境を早急に整えることが重要である。特に、高齢者や障害者等の要配慮者については十分な配慮が必要である。このため災害救助法を適用した市町村での避難所の生活環境の整備等について、「避難所における良好な生活環境の確保に向けた取組指針(令和4年4月改定)」等を参考としながら、下記のことに留意の上、十分な配慮をお願いしたい」という、災害救助法を活用して生活環境整備をすることを重視する国のメッセージが記述されています。ただ、この事務連絡は、ニュース配信時点では内閣府のウェブサイトには公表されていません。これでは、被災地で活動する自治体職員や応援職員らがこの通知に気が付かない場合に、周囲の支援者が事務連絡を示しながら助言することができません。国は、直ちに、災害時に発信されるすべての通知や事務連絡をリアルタイムで公表しアーカイブする体制を構築してほしいところです。
事務連絡『避難所の確保及び生活環境の整備等について』で災害関連死を防げ
事務連絡『避難所の確保及び生活環境の整備等について』には、「1.避難所の設置」「2.避難所の生活環境の整備等」「3.福祉避難所の設置」「4.炊き出しその他による食品の供与」「5.在宅避難者への物資・情報等の提供」「6.特別基準の設定」の6項目について記述があります。いずれの項目にも最低限の居住環境を整え、災害関連死を防止するために不可欠なノウハウが記述されています。ぜひご一読いただけたらと思います。
ホテル・旅館の借り上げについては、事務連絡に次の記述があります。
■1月9日追記■令和6年能登半島地震でみなし避難所費用の特別基準設定
内閣府は1月8日までに、「令和6年能登半島地震におけるホテル・旅館の避難者の受け入れについて(変更)」を定め、みなし避難所の費用を従来の基準から大幅拡充しました。いまのところ石川、富山、福井に限られるようです。スキームについて詳しくは自治体に確認しておく必要がありますのでご注意ください。
内閣府「避難生活の環境変化に対応した支援の実施に関する検討会」
2023年8月から12月までの間に5回開催された、内閣府「避難生活の環境変化に対応した支援の実施に関する検討会」による「論点の中間整理」(2023年12月8日)では、「新型コロナウイルス感染症拡大を受けて分散避難の取組が進み、旅館・ホテルの活用や親戚・知人宅への避難といった形態も推奨されており、避難者等の避難生活の状況は多様化している」と検討会設置の背景事情を説明しています。そのうえで対応の方向性の中に「車中泊避難者等への対応の検討と並行して、車中泊避難を選択する避難者等を抑制し、また、早期の解消を図るため、避難所への誘導、ホテル・旅館の活用、応急仮設住宅への早期の入居等の方策を検討すべきである」といったことも明記されました。災害救助法はそもそもホテル・旅館を避難所として活用する選択肢を認めていますが、一層活用を図ることが政府の目指す方向性だと言えそうです。
災害法制を学ぶ訓練と研修を
これまで「市町村アカデミー」や「人と防災未来センター」などをはじめ、専門家団体、市民団体、自治体職員の皆さまに対し、災害救助法の実務に関する研修や災害対応サポートを行ってきましたが、災害救助法を徹底活用することでより良い避難生活環境をつくるという発想は、まだまだ根付いているとは言えません。実際、巨大災害に直面してから、はじめて向き合う法令や関係通知・事務連絡を深く読み解くハードルは高いと思います。これからの災害対策訓練の中に、災害法令や制度を使いこなすための「法務対応訓練」や、住民のニーズから逆算してどのような法律や制度が必要か、といった「知識の備え」について学ぶ機会も増やすべきです。そのためには、過去の災害救助法適用時の内閣府の通知や事務連絡の一切が、教材として国民に公開される前提も整えられなければならないでしょう。
令和6年能登半島地震でも早急に対応を
ほとんどの世帯が甚大な被害を受けた石川県珠洲市。発災直後から、ひとりの経営者の方が行政と掛け合い、被災地外の事業者の方々とも連携されて、ホテル・旅館の確保に奔走されています(その成果として「能登半島地震被災者受け入れ宿泊施設一覧」がリリースされています)。このような動きは、本来は行政機関が主導で真っ先に行っていくべきものです。1月4日の深夜に、ようやく石川県知事より「甚大な被害を受けた6市町以外の13市町の首長から、被災者の受け入れについて、被災地以外の旅館・ホテルを二次避難所として活用し、高齢者・障害者・乳幼児などの要配慮者や、その家族の方々の受け入れに前向きな意向を示していただく。こうした二次避難所の設置に向けても具体的に進めます。」と、ホテル避難所に言及するSNS投稿が見られました。コミュニティの維持にも配慮いただきながら、ホテル避難所活用がさらに進むことを願います。
(参考文献)
内閣府事務連絡「避難所の確保及び生活環境の整備等について」2024年1月1日
※筆者の個人ウェブサイトへ
内閣府(防災担当)ウェブサイト「災害救助法」
岡本正『災害復興法学Ⅱ』慶應義塾大学出版会2018年・第2部第5章
岡本正『災害復興法学Ⅲ』慶應義塾大学出版会2023年・第2部第5章
中村健人・岡本正『災害救援法務ハンドブック改訂版』第一法規2021年