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石破茂首相の年頭宣言「地方創生2.0」「令和の列島改造」の評判最悪。これでは地方はさらに衰退する!

山田順作家、ジャーナリスト
「令和の列島改造」? いったいなにをやろうとしているのか?(写真:つのだよしお/アフロ)

■時代錯誤としか思えない「令和の列島改造」

 「いわば『令和の列島改造』として大胆な変革を起こしてまいります」

 石破茂首相は、1月6日の伊勢参り後の念頭記者会見で、こう高らかに宣言した。そうして、一枚看板である「地方創生2.0」を「強力に推し進めていく」と続けた。

 しかし、その中身というと、「政府機関の地方移転」「都市部の企業の地方移転促進」「若い女性の働きやすい職場づくり」「次世代燃料の供給拠点を拡大」など、抽象的なことばかりで、具体的といえば、「最低賃金を1500円に引き上げる」くらいだった。

 とくに、これまで日本は明治維新以降「強い日本」を目指し、戦後は「豊かな日本」を目指してきたが、今後は第三の日本である「楽しい日本」を「国民とともにつくり上げていきたい」と言うに至っては気持ちはわかるが、元ネタが堺屋太一氏としても、単なるスローガンにしか思えなかった。

 そのためか、「地方創生2.0」の評判はすこぶる悪い。

「いくら田中角栄を尊敬しているとはいえ、列島改造は時代錯誤」「高度成長時代といまは時代が違う」「首相のアタマのなかは昭和レトロか」「人口減社会に対する回答がこれか」「最低賃金1500円にしたら地方の中小企業はやっていけない」などという声が、ネットにあふれた。

■地方創生は首相にとって思い入れのある政策

 なぜ、「地方創生2.0」が、ここまで評判が悪いのか?

 それは、この10年ほどで、国民が地方創生の失敗ぶりを目の当たりにし、やればやるほど衰退を加速させるだけだと知ってしまったからだろう。

 実際のところ、政府自身も、昨年の7月、地方創生政策10年目の節目の報告書で、「人口減少や東京圏への一極集中などの大きな流れを変えるには至っておらず、地方が厳しい状況にあることを重く受け止める必要がある」と総括し、失敗を認めている。

 しかし、地方創生は、石破首相にとって、これまでのキャリアからして思い入れのある政策であり、首相になった以上、さらに強化して取り組むことを表明せざるをえないものだ。ほかに目立った政策もないし、岸田文雄前首相のように、ほぼ出まかせで「新しい資本主義」などと言える性格ではない。 

■「今度失敗すると大変なことになります」

 地方創生は、2014年年9月に発足した第2次安倍晋三改造内閣の目玉政策の一つだった。それを任されたのが石破首相で、初代の地方創生相に就任した。

 そして、同年12月に「2060年に1億人程度の人口を確保する」「東京一極集中を是正し、地方の人口減少に歯止めをかける」という長期ビジョンを制定した。しかし、10年経っても、東京一極集中は是正されず、地方の人口減少も止まらなかった。

 石破首相は、就任後、官邸に「新しい地方経済・生活環境創生本部」をつくった。そして、これまで2回会議を執り行い、2回目の会議でこう述べた。

「今度失敗すると大変なことになりますので、10年前に地方創生というプロジェクトを始めたときも、それまでのいろんな地域振興策は、できたらいいねという感じだったのですが、10年前にこれを担当したときに、これができないと日本は終わるという危機感を持ったのですが、今度は本当にそれが更に強くなっております」(首相官邸HPより)

 首相の強い意向を受けて、今年度予算で地方交付金を倍増し、2000億円にすることが決まっている。しかし、一部に「金額だけを増やしてもなんの意味もない」という批判がある。

■東京から地方移住で最大300万円支給

 これまでの地方創生の最大の失敗といえば、地方移住がまったく進まなかったことだろう。

 地方移住を促進する「移住支援制度」は、2019年、鳴り物の入りで始まった。これは、国と地方自治体が一体となって、地方移住や地方での起業・創業を後押しするもので、条件に当てはまる場合は、「移住支援金」「起業支援金」が交付された。

「移住支援金」の場合は、現在東京23区に在住または通勤する人間が東京圏以外の道府県へ移住して、起業・就職を行う場合に交付された。支援金額の設定は各都道府県によるが、上限額は1世帯100万円(単身者60万円)。18歳未満の子どもがいる場合は1人につき30万円が加算された。これは、昨年4月から100万円に増額された。

「起業支援金」は、地域の課題解決に資する社会的事業を新たに起業しようとする人間が対象。条件を満たせば、最大200万円が交付された。つまり、「移住支援金」と併わせれば、地方移住で最大300万円になった。

■おカネだけでは動かない。東京の転入超過は続く

 政府は、この二つの支援金で、東京圏からの地方移住者を年間1万人にすることを目標に掲げた。しかし、その予測は大甘だった。

 直近の人口移動統計を見ると、東京都の転入超過は続いている。東京都の2023年の転入超過は6万8285人で前年比80%増。2024年は11月末時点で8万6627人に上り、地方創生がスタートした2014年以降で最大となっている。毎年、転出者数は4万人ほどを記録しているが、その3倍の転入者がいる。

 転出者のうち、支援金をもらって地方に移住した人は、2019年度から2023年度までの5年間で、1万5957人(支援件数7582件)にすぎない。年平均で、約3000人である。これでは、目標の年間1万人はとうてい無理。単におカネだけでは人は動かない。

「地域おこし協力隊」も散々な結果に終わる

 「地域おこし協力隊」という事業にも失敗している。

 この事業は、応募者を都会から地方に送り込み、そこで、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR等の地域おこし支援や、農林水産業への従事、住民支援などの地域協力活動を行いながら、その地方への定住・定着を図っていくというもの。

 隊員を任命するのは各地方自治体で、活動内容や条件、待遇は、募集自治体によりさまざま。任期はおおむね1年〜3年。目標は、「移住支援制度」と同じく年間1万人とされた。

 総務省の資料によると、2023年現在この事業に取り組んでいる自治体数は1164団体。隊員数は7200人。2023年3月末までに任期終了した隊員は累計1万1123人で、任期終了後、およそ64.9%(7214人)が地域に定住している。10年あまりで、たった7000人余りにすぎない。

 こんな結果を招いた理由の一つに、自治体や地域住民と隊員のトラブルが挙げられている。

■成功例は一部。隊員の半数以上は都会にUターン

 私の知り合いのライターは、原稿料収入の激減から、「地域おこし協力隊」に応募して、ある地方に移住したが、3年持たずに東京に戻ってきた。

「最長3年間、夫婦で月額30万円の給料(1人約15万円)がもらえるうえに住むところも提供されるので、思い切って応募しました。3年後には、現地に溶け込んで、起業する予定でしたが、行ってみたら思惑がはずれました。

 役所は“いい人間”が来てくれたと歓迎してくれましたが、役場の雑用から自治会のお手伝い、町の特産品店の営業、農家の草刈りの手伝いなどをしなければならず、それだけで毎日がつぶれて、起業まで手が回りませんでした」

 総務省のHPには、協力隊の活躍ぶりが紹介され、メディアも、岡山県美作市や山形県朝日町などの成功例を取り上げてきた。しかし、それは一部の話にすぎない。協力隊員の半数位以上が、都会にUターンしてしまった。

■「ゆるキャラ」と「B級グルメ」はどこへ?

 かつて「地方創生」=「地域おこし」の目玉として、ブームとなったのが「ゆるキャラ」と「B級グルメ」だ。

“くまモン”や“ふなっしー”が登場して、メディアにもてはやされると、全国の自治体はこぞって「ゆるキャラ」づくりに励んだ。そうして、少しでも知名度を上げて地元の特産品などを売ろうとしてきた。しかし、いま生き残っている「ゆるキャラ」はどれほどあるだろうか。

 「ゆるキャラ」といっても、制作費、宣伝費、イベント会場費、着ぐるみ人件費、交通費、宿泊費など、バカにならないおカネがかかる。それらは、国からの「緊急雇用創出推進事業補助金」などで民間委託されていたり、あるいは自治体の予算に計上されていたりしたが、すべて税金だ。いま思えば、とんでもない無駄遣いではなかったか。

 かつてあった「ゆるキャラグランプリ」は、いまはもうない。

 「B級グルメ」も次々につくられた。富士宮やきそば、横須賀海軍カレー、佐世保バーガー、八戸せんべい汁、甲府鳥もつ煮……など。しかし、全国区で人気になったのは一部であり、それ以外の多くが討ち死にした。その地域とは縁もゆかりもない一発勝負型の「B級グルメ」が多かったからだ。

 

■ふるさと納税で得た資金を移住促進につぎ込む

 ふるさと納税はいまも大ブームで、地方創生に大いに寄与していると思われている。しかし、それで得た収入が地方創生に結びついているかというと、そういう例は少ない。

 次は、2023年度のふるさと納税受入額ランキング自治体のトップ5である。

 1位:宮崎県都城市193億8400万円

 2位:北海道紋別市192億1300万円

 3位:大阪府泉佐野市175億1400万円

 4位:北海道白糠町167億7800万円
 5位:北海道別海町139億300万円
 
 1位の都城市は、返礼品の宮崎牛、地鶏などが人気で、毎年のようにランキング1位となっているが、それで得た資金を移住促進政策に惜しみなく使っている。

 全国の自治体でもいち早く独自の保育料無料化を制度化。そして、1世帯あたり最大300万円の基礎給付金に加え、子ども(18歳未満)1人あたり100万円を給付するという「移住応援給付金」の制度を設けた。

 さらに、昨年7月には、東京で中央のメディアを集め、人気「ゆるキャラ」の“ふなっしー”に住民票を与えて都城市に移住させるというキャンペーンを行った。

 しかし、このようなことの成果はいまのところ上がっていない。

 

■移住者は過去最多も、たった220世帯435人

 都城市は宮崎県第2の都市で、人口は約16万人。数年前から穏やかな人口減少に見舞われ、今後それが加速し、20年後には12万人台になると予測されている。

 そこで移住促進策をつくったわけだが、2023年、市の窓口に移住相談をして実際に移り住んだ人は220世帯435人。過去最多を記録したというが、たった220世帯435人である。ちなみに、東京都からが37世帯ともっとも多かった。

 給付金を出せば、たしかに移住者はやっては来る。しかし、この人数では今後20年で約4万人、年間約2000人の人口減少が防げるはずがない。しかも、移住者がそのまま定住するという保証はない。

■全国規模で見るとまったく意味のない税制

 次は、ふるさと納税により住民税の税収額が減った自治体のワースト5である。

 1位:横浜市304億6700万円

 2位:名古屋市176億5400万円

 3位:大阪市166億5500万円

 4位:川崎市135億7800万円

 5位:東京都世田谷区110億2800万円

 ふるさと納税というのは、じつは全国規模で見るとまったく意味のない税制だ。このワースト5にあるように、大きく税収を減らしている自治体があるからだ。

 つまり、本来どこかの自治体に入るはずの税金がほかの自治体に移るだけで、全国規模での税額はほぼ変わらない。

 しかも、そこから返礼品や事務処理費用が差し引かれてしまうので、ある意味で、無駄な支出が増える。また、返礼品に指定された業者だけが儲かり、同地域の他の業者は疲弊する。公平な市場競争が失われてしまう。

■「地方創生」よりも「地方安定」ではないか

 このように多くの地方創生政策が失敗しているのに、いまさら石破首相はなにをやろうというのか?「列島改造」などという政策は、この人口減社会ではありえない。

 公金をつぎ込む政策である、移住支援、産業誘致支援、起業支援など、どれも単なるバラマキにすぎず、効果のほどは知れている。このようなバラマキにすぎない支援を続けると、経済は逆にどんどん衰退する。

 もはや人口減は、どんな手を打っても防げない。地方の自治体の人口を増やすなど「夢物語」である。そんななかで「列島改造」といっても、人手不足でそれをやる人手もない。

 人口減社会においては必然的に経済もシュリンクし続けるので、やるべきは「縮小均衡政策」である。そうして、地域の安定を図るほかないと思う。「地方創生」より「地方安定」である。

 もはや維持できない公共インフラや行政サービスは切り捨て、人口の中核都市への「集住」を図り、スマートシティ化コンパクトシティ化を急ぐべきだ。行政サービスの切り捨てに合わせて、議員数も公務員数も減らし、給料、報酬も減らす。政府機関の地方への移転を考えるなら、国の権限の一部ないし全部を都道府県、自治体に移譲するのも手である。

 改造すべきは日本列島ではない。いまの時代が見えなくなった化石アタマのほうである。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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