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「鬼滅の刃実写化」 ツイッターでトレンド入りも否定的反応 なぜ?

河村鳴紘サブカル専門ライター
劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編のヒットでにぎわう映画館(写真:西村尚己/アフロ)

 人気アニメ「鬼滅の刃」の劇場版「無限列車編」の興行収入(興収)が10日間で100億円突破し、史上最高興収の「千と千尋の神隠し」(308億円)を上回るペースで推移するなど話題になっています。しかし実写映画化の可能性の記事が出ると、インターネットでは否定的な意見が目につきました。なぜでしょうか。

◇実写化の記事で否定的反応

 「鬼滅の刃」は、「週刊少年ジャンプ」(集英社)で2016年から今年5月まで連載された吾峠呼世晴(ごとうげ・こよはる)さんのマンガが原作です。優しい少年・竈門炭治郎(かまど・たんじろう)は鬼に家族をほぼ皆殺しにされ、生き残った妹も鬼にされます。妹を人に戻す手がかりを探すため、炭治郎は鬼を倒す「鬼殺隊(きさつたい)」になって戦う……という物語です。

 劇場版では、炭治郎が鬼殺隊の仲間と共に、人々が行方不明になる列車の事件を解決するため、鬼の関与を疑って乗り込みます。

 さて「鬼滅の刃」の実写化について話題になったきっかけは、21日に配信された記事でしょう。ツイッターで「鬼滅の刃実写化」がトレンド入りしました。

【参考】「鬼滅の刃」実写化なら炭治郎役は誰が? “身のこなしと殺陣”で浮かぶ6人の俳優(日刊ゲンダイ)

 また26日には、同じく実写映画化の可能性に触れた記事がヤフートピックスに掲載され、記事のコメント欄に大変多くの意見が寄せられました。ところが、実写化への否定的な意見が目立ちます。

【参考】理想は海外ドラマとして世界配信? 『鬼滅の刃』実写化の可能性と問題点(リアルサウンド)

 現段階では「鬼滅の刃」の実写化自体は、公式でもなく妄想の域を出ません。しかし、「将来的に実写化の可能性はあるか?」と質問されたら、「ある」と答えるしかありません。もちろん原作者サイドが「NO」と言えば終わりの話なのですが、企画だけでいえば議題に出ないはずはありません。

 実写化に反対するネットのコメント内容を並べると、概ね以下のようになります。

・アニメ化より実写化は、ハードルが高い

・演技の下手な人が起用される可能性がある

・役と俳優の年齢が合わない(イメージとずれる)

・映画の予算が足りず、演出が不安

 特に配役を心配するコメントが目につきましたが、「良い俳優が付けば……」と言うコメントもありました。またツイッターでは「鬼滅の刃実写化」を受けて、配役を予想して盛り上がっていますから、楽しみにしている人もいるわけです。

【参考】実写化するなら誰?『鬼滅の刃』竈門炭治郎を演じてほしい俳優ランキング

 そして、マンガ・アニメ作品の実写化に対する否定的意見は、「鬼滅の刃」に限ったことではありません。

◇大半の人は実写化は気にしない?

 実写化について、当事者のアニメや出版業界の関係者らに、マンガやアニメの実写化をするとき、ファンの反応はどうなのかを聞いてみました。

 「原作ファンの抱く理想があり、実写化はイメージから外れる可能性が高い。実写化企画に抵抗があるのは理解できる」

 「予算の問題はある。マンガやアニメの世界を忠実に再現するには、演出にコストをかけることだが、洋画に比べて邦画の予算は厳しく、演出などがチープに見えるのはある」

 要するにファンの指摘するところと似ています。ただしその一方で、多くの関係者が「大半の人は実写化を楽しみにしていて、否定は一部だと考えている」と指摘しています。さらに「ネットでは少数の意見も目立ち、大勢の意見に見える傾向にある」「原作者の喜びの声が伝われば、ファンも肯定的にとらえるもの」と付け加えていました。

 要するに、一定層の不満に理解を示しつつ、意見を言わない多数派「サイレント・マジョリティー」の動向をくみ取ろうとしています。

◇ビジネスと作品性の難しいバランス

 そもそもなぜ実写化を企画するのかと言えば、実写化をすれば興収などの形で成果が出るからです。「作品世界を壊すからダメ」と突き付けても、立案者がいて、制作資金があればクリアできてしまうわけで、その結果としてコンテンツが増え、新規ファン層も開拓でき、原作マンガも売れるとなれば、「やる」という方向性になります。言い換えると、実写化を見送ることで収益を伸ばす方法がある、もしくは実写化をしたマイナスが数字的にハッキリすれば、実写化は誰もしないでしょう。

 こうしたビジネスの論理は、人気コンテンツをカネに変換しているように見える……、極端に言うと「食い物」にしているとイメージされやすいのも確かです。そうなると事実よりファンの心証の問題になり、一部の層から嫌われることも間違いありません。特にあるのが、配役でイメージから外れたキャスティングをしたときです。企画立案にあたり、動員数を予想してビジネスの成功の見通しを提示するのは当然のことです。しかし、「配役にアイドルやタレントを起用して客層を増やす」という制作側の狙いが見えすいてしまい、作品の出来もイマイチとなれば、ファンの怒りとなります。その矛先は、許可した原作者サイドではなく、実写化の企画と存在そのものに向くわけです。

 客層を増やすためのキャスティング手法は、劇場版アニメでも普通に使われていますし、喜ばれるケースもありますから、それ自体は悪いとは言えません。むしろ集客も増やす手を打ち、作品性を維持するバランスは、企画の腕の見せ所といえます。ところが、集客を追い求めるあまりに作品イメージと違う人を起用したり、キャラクターの設定や性別、名前を変える、原作にないテーマを追加すれば、一部ファンからすれば作品性を損ったように見えます。

 作り手側も悪意があって変えているわけではありません。出資した以上は必死ですし、そもそもダメだと次がないわけです。一方でファンの立場からすれば、最優先すべきは作品性を損なわない傑作となります。ビジネスの論理と作品性の担保は水と油のようなところもあり、永遠に対立するテーマともいえます。

◇実写化の流れは既に定着

 ただし、原作マンガの実写化の流れは、既に定着しています。「るろうに剣心」や「銀魂」をはじめ、「ニセコイ」「暗殺教室」「BLEACH」「進撃の巨人」「鋼の錬金術師」「キングダム」、12月18日公開予定の「約束のネバーランド」など、ここで挙げきれないほどあります。人気マンガには、アニメ化権、実写化権の争いがありますが、特に前評判の高いものは、連載1話の掲載でこの手の話が来るそうで、そこまでし烈なのです。

 興味の反対は無関心であって、「実写化への反発」は作品に入れ込んでいるからこその“愛”とも言えます。“愛”があるからこそ、自身の抱くイメージと違ったときの“怒り”もあるわけで、それ自体は当然のことです。そして最初は否定していた実写作品の出来が良いと、「手のひら」を返したように絶賛するのも、しっかり作品を見て「良いものは良い」と判断しているからこそです。

 しかし作品にはさまざまな見方があり、それぞれの主観で評価は変わります。世に出た作品を評価したり、厳しく批判する自由はあっても、作品が世に出る前から全否定するのは惜しい気もします。特に今は個人がSNSで意見を発信して作り手側に声が届く時代です。気に入らないものは個人がスルーすることもできます。さまざまなコンテンツ作りへの挑戦について、寛容な社会であってほしいものです。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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