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もうすぐドラフト・その10[社会人編]……薗部優也

楊順行スポーツライター
あなたの気になる選手はどこへ……?

「これだけハートの強い選手は久しぶり。投手への思いやり、そして厳しさなどは新人離れしていると思います。打撃も勝負強く、1年目から定位置を奪ってもおかしくない」

自らも捕手だったJR東日本東北・藤井省二監督がそう絶賛したのが、14年の春季キャンプ。東日本国際大から入社したばかりの、薗部優也に対してだ。

大学時代は、首位打者3回。通算打率が4割を超えているというから驚きだ。そして藤井監督の見立て通り、1年目から定位置をつかむと、都市対抗1次予選の七十七銀行戦で満塁アーチ含む5打点。2次予選でも打率・429を記録し、敗れはしたが都市対抗本戦でも3安打と気を吐いた。しかも、勝負強い。14年は23試合の公式戦で、四番・小笠原涼介に次ぐ18打点をたたき出している。薗部はいう。

「捕手として何万球も受けているので、相手投手のタマが手を離れた瞬間、その軌道が見えてくることもあるし、自分なら捕手としてこうする、と配球を読むことにも自信があるんです。それが、バッティングにつながっている」

2年目の今季も中軸を打ち、リード面では、都市対抗東北2次予選4試合でわずか5失点の投手陣を支えた。そして8強に進出した本戦では三番を打ち、1ホーマーを含む11打数4安打。ただ、

「打つほうでは自信があっても、配球やスローイング、まだまだやることはたくさんですね」

"間"は"魔"でもある

たとえば、14年の都市対抗初戦。大阪ガスに敗れた延長11回、先頭打者への3ボールをしきりに悔やんだ。結果的にヒットで出したその走者が、勝ち越しのランナーになったからだ。大阪ガスとは、今季の都市対抗・準々決勝でも対戦した。自らの同点弾で追いつき、ふたたび延長10回の裏。二死からヒットの走者を許すと、次打者の3ボールから要求したのが、無造作にストレート。足立祐一の一閃は、サヨナラ2ランとして左翼スタンドへ……。これには、藤井監督も手厳しい。

「それにしても、なぜ最後の場面で真っ直ぐを要求するのか。成長がない」

薗部自身も、痛いほどわかっているはずなのだ。

「全国の舞台では、ちょっとしたミスが敗戦になる。あとは、"間"の大切さ。たとえば、決めに行ったフォークにバットが止まってボールになるとするでしょう。次も無造作に同じフォークを続けると、まずかなりの確率で打たれる。打者の"間"になっているんです。だからけん制などをはさみ、少しでもこちらの"間"にしないと」

レベルの高い野球には、相撲の立ち合いのような、間のせめぎ合いがある。それをある程度支配できるのが捕手だ。だが、"間"は"魔"でもある。わかっているはずなのに、吸い込まれてしまう"魔"。薗部にとっては、魅入られたようなサヨナラ負けだっただろう。

「錦織圭選手の本を読んだら、こんな内容がありました。錦織がフェデラーを尊敬していると知ったマイケル・チャンコーチが、"尊敬しているようでは、いつまでもフェデラーを超えられない。乗り越えるんだ、という気持ちがないと……"。印象的でしたね」

薗部が越えるべきものは、"魔"だ。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は64回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて55季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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