きょうから台湾観光が解禁 現時点でどんな旅行が可能?現地のプロに聞いてみた
総統自ら往来再開を宣言
「あと3日で国境が開放され、台湾と世界各国の往来は正常に戻ります」
今月10日の国慶日、つまり建国記念日として毎年、盛大な記念式典が行われる。その式上、蔡英文総統が語った言葉である。
コロナ前、日本からはビザなしで渡航できた台湾だったが、2020年3月、新型コロナウイルスの水際対策として、海外からの入境者を遮断する措置が取られたことで、往来の道は閉じられてしまった。あれから2年半。10月13日、ついに台湾観光が解禁となった。
今回の開放は新たな一歩だ。台湾では次世代ワクチン接種が始まり、医療資源の確保といった受け入れ側としての体制が整えられてきた。日本同様、台湾でもマスクの着用について議論がされているものの、10月12日現在、基本的に飲食時を除き、外出時にマスクは必須である。
台湾の感染状況としては、10月11日現在、累計の死者数は1万1,620人(日本は4万5,667人)、2022年1月からの累計感染者数は694万5,018人(日本は2,159万3,704人)、うち99.57%が軽症もしくは無症状となっている。ここ数日の新規感染者数は3〜5万と比較的高めだが、ほとんどが軽症もしくは無症状で、台湾CDC(中央流行疫情指揮センター)も「コントロールできている」と判断したものだろう。
気になる到着後の動き
「旅行できる」となった今、飛行機に乗って台湾に着いたら、どうなるのだろう。台湾政府のサイト(リンク)をもとに、ざっとまとめておこう。
飛行機に乗る前に必要だったビザ申請やPCR検査の書類提出はすでに不要になっている。手荷物受け取りの際に抗原検査キット4本が渡される。検疫を通過する際、同時に発熱がないかゲートチェックがある。特に症状がなければ、そのまま公共交通機関で移動する。宿泊は原則1人1室、到着日から8日間は抗原検査陰性なら、写真など検査結果持参で外出でき、飲食時以外はマスク着用で行動——いかがだろうか。これまでの旅行に、かなり近づいたのではないだろうか。
とはいえ、往来が活発だった頃とはさまざまな点で旅のインフラが変わっている。
まず、年に何冊も刊行されていた台湾のガイドブックがない。筆者の知る限り、最新の台湾情報は『CREA』2020年5月号(文藝春秋)。あとは、月刊の雑誌『&Premium』(マガジンハウス)で毎号、台湾情報が掲載されているが、残念ながらまとまってはいない。……と書いていたところへ、年内刊行のガイドブックがあるという話が飛び込んできた。台湾南部・高雄在住の編集ライター大西稚恵さんによれば、12月に『ひとりぶらり台湾』(コスミック出版)が刊行予定とのこと。同書のテーマは1人旅だからこそ楽しめる台湾情報が厳選されているとか。これは大いに楽しみだ。
そこで、旅の情報を台湾から提供する側にいて、台湾ガイドブック制作にかかわってきた、コーディネーター3人に、これからの台湾旅行について訊ねてみた。
観光再開を迎える側は?
台北の老舗問屋街、迪化街でセレクトショップ「你好我好」を営み、数々のコーディネートを手がけてきた青木由香さんは「今はまだ旅の筋肉が落ちた状態じゃないかと思います」と語る。台湾に定住して20年。この2年半は、日本人観光客の激減を真正面から受け止めつつ、越境ECなど事業を工夫しながら、観光復活を心待ちにしていた1人である。発表の直後には、店の入り口に「祝観光解封」と自筆で筆書きした写真とともに、その喜びをインスタグラムにアップ。投稿には2395もの「いいね」がついた。
けれども、その後の動きを見つつ、こんなふうに話す。
「過去にも、尖閣諸島問題や地震などで観光客の波が落ち込んだ時期はありました。そこから考えると台湾側の扉が解禁されて、あと半年くらいは回復までにかかるのではないかと見ています。まずは“おさらい”ということで、台北から回る人が多いのではないでしょうか」
確かに街は大きく変わった。コロナの影響で閉店した店もあれば、新しくできた店舗も多い。
「たとえば観光客の方に人気だった鼎泰豊。本店はフロアがやや窮屈だったのですが、本店の斜向かいに広い店舗をオープンしています。日本語のできるスタッフもきちんと配置されていて、すでに日本からのお客様を待っている状態と受け止めています」
実際に筆者も足を運んだが、入店を待つスペースが広く取られており、以前よりも店舗はかなり広く感じた。行列を待つ間、注文をする流れもできて、待ちながらも楽しめそうだ。
青木さんが店を構える迪化街は、ガイドブックでは必ず取り上げられるエリアだ。以前は漢方薬や乾物の店が多く、エリアの奥側は開発の最中だった。この2年ほどで開発がぐっと進み、新しい店舗が増えている。青木さんの店舗も移転し、新住所になって1年になる。観光解禁が発表された直後、以前から課題になっていた店内の動線をスムーズにすべく、店舗内の配置換えを行なったそう。
日本からの訪問を心待ちにしている人は、台湾のあちこちにいる。
変わりゆく台北を知るチャンス
「旅の基本が整うのに、もう少しかかりそうですよね」と語るのは、同じく台湾在住でノンフィクションライターの近藤弥生子さんだ。
一時はLCC含めて台湾へのフライトが多数あったが、コロナ禍で渡航人数に制限がかかり、LCCだけでなくレガシーキャリアまでも減便された。
台湾側の門戸が開く2日前には、日本への個人旅行も解禁になり、直後からパスポート申請者が一気に増加したと報道があったが、その動きの速さに比べると日本人は少しゆっくりだ。そういえば筆者が会社員時代も、年間で大まかに休暇を計画し、資金を準備しながら計画を練る、というサイクルだった。それで考えると、これからエンジンをかける人が多いのかもしれない。
ただ、懸念材料もないわけではない。まずは世界的な円安、そして航空券代とサーチャージの値上がり、さらには台湾でも物価が上がっている。
「台湾の朝ごはんを紹介する連載で取材した、台湾の国民的サンドイッチとして知られる洪瑞珍が日本に進出しました。他にも、この間に日本進出した会社が結構ある。わざわざ台湾に行かなくても、日本でも手に入る、という状況ができてきた可能性もありますよね」
となると、コロナ禍明けの今、台湾現地でしか触れられない、あるいは見ておくべき台湾とはなんだろうか。
「台湾では例年、旧正月後にランタンフェスティバルが行われるのですが、その開催地は地方都市が持ち回りで行っていました。2023年はちょうど台北が開催地にあたっています。会場も国父紀念館、松山文創、台北101など、定番スポット。旅行を再開して台北をおさらいするには、もってこいの機会だと思います」
もう一つ、新しいスポットとして挙げてくれたのが台北パフォーミングアートセンター(臺北表演藝術中心/TPAC)である。
「今年7月に正式にオープンした劇場です。2012年の着工から10年かかっていて、外観は台湾で食べた火鍋にインスピレーションを得たオランダの建築家による設計なんだそう。外壁には特殊な波形のガラスが使われていて、内側からの景色も楽しめます。私は取材で伺いましたが、中はガイド付きで参観できるうえに、カフェなどの施設も充実していて、楽しめると思います」
さらに、近藤さんはこんなふうにも教えてくれた。
「これまで、台湾の旅というと『安い』『ゆるい』『懐かしい』あたりがキーワードでした。でも、どんどんと新しい建物やスポットができてきて、それを見ると『すごい』と思ったんです。そういう意味では、旅の仕方、あるいは感じ方が変わって、新しい発見が多くなるんじゃないかなと思います」
ホテル、鉄道、インフラの変化
片倉真理さんも、コーディネーターとして多数のガイドブックを手がけてきたひとり。コロナ前の2019年から『&Premium』で台北を案内する企画「&Taipei」として毎月1エリア約10軒を紹介していた。ところがコロナで国境が封鎖され、店舗取材が難しくなったことも重なって、2022年5月号から台湾人のお宅紹介へと切り替えていた。
「以前誌面で取材したうちの、かなりの軒数が閉店に追い込まれてしまいました。それだけでなく、日本人ツアー客が利用していた手頃な価格の中級クラスのホテルが軒並みなくなっているんです」
筆者宅の近所にはツアー客の宿泊していたホテルがあったが、そこはかなり早い段階で撤退し、しばらくして防疫ホテルへと変化を遂げた。また、この1年で三井ガーデンホテル、JRと日系ホテルもオープンした。
「とりわけ台北で景観が大きく変わったスポットとしては、台北駅周辺が挙げられます。歴史建築がリノベされて一般公開され、再開発で道路ごと整備されて広場や鉄道博物館ができました。鉄道といえば、鉄道全体の変化も見逃せません。以前は台湾の東側に向かう列車は予約もひと苦労でしたが、12両編成の日立製の車両が導入されて、かなりスムーズになりました。また2020年末にスタートした観光列車『鳴日号』は、邱柏文さんというデザイナーが設計した車両で、レストラン車両もあるんです」
ホテルに店に鉄道と、観光に必須の情報は、かなり調べ直す必要がありそうだ。なお、9月18日に起きた花東地震で東側は現在も一部不通区間があるので、特に注意してほしい。Googleである程度判明するとはいえ、やはりガイドブックの刊行、あるいは旅情報の更新が待たれる。片倉さんは「お店のインスタグラムやフェイスブックなどで確認しておくのが大事」とアドバイスをくれた。
新たな台北と出会おう
新型コロナウイルスが世界中に広がった当初、国と国との間の移動がここまでできなくなることを、一体、誰が予想していただろう。
2019年の日本から台湾への旅行客は216万2,426人。単純計算でひと月に18万人が訪れていた計算だ。場所の移動に関するさまざまな変化を経た今、旅のあり方そのものも、あるいは節目を迎えているのかもしれない。
「台湾大好き編集部」として数々の良書を企画し、そのリサーチや取材のために幾度となく台湾を訪れていた1人、十川雅子さんは言う。
「まずは、台北で好きだったお店がまだ営業されているか確かめに行きたいです。特にご年配の方がされていた喫茶店などは、コロナを機にお店を畳まれていないかな……と気になっています。あとは最近、台北とその近辺が舞台の小説を読んだので舞台地めぐりをしたいです! そして可能であれば長距離列車に乗って駅弁を食べながら地方にも足を伸ばしたいです」
台湾への旅は、13日以降、いつでもスタートできる。新たな出会いが何をもたらすのか。上記、ぜひ次の旅のヒントにしてほしい。