採用面接、スーツを借りにくる若者たち
NPO法人育て上げネットでは、企業の社会貢献の一環として社員が使わなくなった「リクルートスーツ」を譲渡いただくことがあります。多くは新卒採用時に着ていたもので、入社後に着なくなったものやシンプルなスーツです。
その他、クリーニング済みのシャツやネクタイ、ベルトやバッグもいただいています。これらを面接が決まった若者に貸与しているのですが、年間20名から30名の方がお越しになります。
実際、採用面接においてスーツを指定している企業はどれくらいあるでしょうか。私が知るなかで、スーツ着用を指定している例はほとんどありません。特にスーツであることにはこだわってなく、ふさわしい服装であれば問題ないとされているのではないでしょうか。
これまでなかなか就職が決まらなかったり、やっと面接にこぎつけたという若者は、服装を含めて、少しでも採用の可能性を高めたい。マイナスポイントは作りたくないという心境です。そうなれば必然的にスーツを着衣して面接にのぞむことを選択します。
低価格のものがあるといっても、スーツ、シャツ、ネクタイ、靴やバッグを一通り揃えるにはそれなりの費用がかかります。収入がなく、経済的に余裕のないひとにとって、数万円という金額は簡単には拠出できません。スーツを着たから採用されるわけではないですし、できることなら生活費として残しておきたいはずです。
ある男性は、市役所から紹介をされてスーツを借りにきました。面接が決まったところでスーツをどうするか迷った際、市役所の職員から「あそこは貸与しているから」と事務所に連絡をくれました。生活面はかなり厳しいようで、最初はスーツ一式だったのですが「もしできればシャツも・・・」とおっしゃいました。
また、ある男性はインターネットでスーツが借りられないか調べて、育て上げネットにたどり着いたといいます。面接に際してスーツがなく、「ちゃんとした服装」でいかなければならないとスーツをお貸ししました。
社会福祉協議会からの紹介で来られた女性も、生活に余裕がなく、やっと決まった面接に着ていく服装が準備できない。少しでも面接にあたって心象の悪くならない格好をしていきたいと、スーツなど一式を持っていっていただきました。
このような話は、就職や就労支援を行っていると少なからず経験することだと思います。一方、別にスーツで行く必要はないと考えるひとも多いでしょう。確かに、面接にあたってスーツ着用を言われているわけではありません。採用担当者もスーツでなければいけないとは考えていないと思います。
ただ、少しでも採用される確度をあげたい、ちゃんとした服装で面接にのぞみたい側からすれば、着用指定がなければもっとも無難と思われるスーツを選択します。たかがスーツではありますが、働きたい企業の面接を受けられることが決まった若者にとっては、されどスーツです。
面接に際して、採用担当者がスーツでなくても大丈夫ですよ、と一声かけてくださったり、紹介したハローワークの職員が採用担当者に当日の服装について確認してくださると、そういった若者にとって無用な出費が不要になります。
現状では、スーツの貸与を求める若者がおりますので、サイズなどを含めてできるだけ貸与の選択肢を持てるように企業との連携などを図っていきます。しかし、特にスーツで来ることを求めないということでしたら、一言「スーツでなくてもいい」という言葉が面接前に添えられていると、安心して面接に向かう若者が増えるのではないかと思います。
※育て上げネットでは個人からのスーツ寄贈は現在受け付けておりません。