時代が生む多様性:大人にも見てほしい『プリキュア』 その1
2004年にテレビ放映が始まり、今年で16年目に入る人気アニメ『プリキュア』シリーズ。劇場映画も毎年作られ、この10月19日から27作目となる『映画スター☆トゥインクルプリキュア 星のうたに想いをこめて』が劇場公開されている。女児向けでありながら、大人のファンも多い。しかし、まだその魅力を知らない人も多いだろう。そこでここでは、「大人にも見て欲しい『プリキュア』」と題して、作り手の方々へのインタビューを通じ、3回にわたってその魅力を掘り起こしてみたい。
近年『プリキュア』シリーズは、ジェンダーや多様性といった観点から注目されることが少なくない。第1作である『ふたりはプリキュア』(2004)では、「女の子だって暴れたい」とのコンセプトの下、2人の女の子が素手で敵と戦うアクションシーンが大きな反響を呼んだ。また今年の『スター☆トゥインクルプリキュア』(2019)では、異星人とのコミュニケーションが大きなテーマとなっている。このシリーズ記事では特に、こうしたジェンダーや多様性といった視点から『プリキュア』を取り上げている。その理由については記事をお読みいただきたい。
インタビューは2019年10月15日、練馬区の東映アニメーション(株)大泉スタジオにて行った。インタビューに応じていただいたのは、『映画スター☆トゥインクルプリキュア 星のうたに想いをこめて』の田中裕太監督と村瀬亜季プロデューサー、及びテレビシリーズ『スター☆トゥインクルプリキュア』の柳川あかりプロデューサーだ。以下のインタビュー部分は3人のお答えを再編集するかたちで構成している。インタビューしたのは山口の他、駒澤大学グローバル・メディア・スタディーズ学部山口ゼミの学生たち4人。これも再編集している。
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駒澤大学グローバル・メディア・スタディーズ学部山口ゼミ(以下「駒大」):今公開中の『映画スター☆トゥインクルプリキュア 星のうたに想いをこめて』の見どころはどこでしょう?
田中監督(以下「田中」):「先入観なく映画を子どもたちに楽しんでもらいたい」という想いで作っていますので、あえてこちらからは ここ、と限定しないようにしています。見た方にそれぞれ見つけていただければと思います。
駒大:監督が特別に込めた想いなどは・・
田中:私の仕事は企画の意図をいかに映像として表現するかということです。シナリオの段階からチームで作っていきますので、私だけでなくみんなの意見を総合して反映していきます。
駒大:プリキュアのファンの中には大人もたくさんいると思います。今回の作品を作るうえで、そうした大人のファンの存在をどのくらい意識されましたか?
田中:メインの対象顧客はあくまで3~6歳の女の子ですが、大きくいえば老若男女どなたにも通じるものがあると思います。『プリキュア』のターゲットの子どもたちは、いわゆる「チャンネル権」がありません。TV、映画問わず親たちが子どもに「安心して見せられる」ように、というのは作品作りのうえで大きなポイントとなります。
駒大:子どもたちには難しい内容もありますよね?
田中:100%伝わるのは難しいと思います。でも場面場面で、キャラクターが喜んでいるとか悲しんでいるとか、そういった感情は伝わると思います。それでいいという想いでいつも作っています。
村瀬プロデューサー(以下「村瀬」):企画から案を出していくところでは、子どものことを1番考えています。でも、何を伝えるかというときには、大人・子どもで分けて考えることが必ずしも正解とは思いません。たとえば、「友だちと仲直りするときは直接会って気持ちを伝えよう」というメッセージなら、それは子どもにも大人にも伝わるはずです。特に映画は、お子さんと保護者の方に一緒になって楽しんでもらうことも意識しています。
駒大:『プリキュア』シリーズは以前から、初代プリキュアの「女の子だって暴れたい」にみられるように、かつてとは異なるアクティブな女の子像を描いてきました。ジェンダーやダイバーシティといった側面でかなり「進んだ」作品として評価する声がよく聞かれます。本作において、このような要素は意識しておられましたか?
村瀬:『プリキュア』シリーズは、ふつうの女の子が戦士になるお話です。ジェンダーやフェミニズムといった視点で取り上げていただくことも多いのですが、私は、そういう内容を必ず取り上げなければいけないと思っていなくて。今はそういう世の中だ、といった感じでしょうか。作品としての面白さのためにプラスになるのであれば、その時代にあった形に挑戦してみる、ということかなと思っています。
田中:単純に、女の子向けの映画だから、女の子が活躍するとうれしいだろうと思います。男の子向けならスーパー戦隊シリーズや仮面ライダーのシリーズがありますし。もし女の子向け男の子向けと区別しない映画ならメインキャラクターに男の子がいることもあるでしょう。
村瀬:『プリキュア』シリーズは、毎年スタッフも替わっていきます。1年を通じてキャラクターがどう成長していくか、その年のスタッフが工夫して表現していく。映画も同じように毎回違う挑戦に取り組んでいます。
田中:個人的には、むしろエンタテインメントに徹しています。もちろん、見た人がなんらか込めたものを感じ取ってもらうならそれは否定しませんが。たまたま女の子が2人出てくる作品(初代『プリキュア』)があって、たまたまそれが人気が出て、ありがたいことに15年続いていて、劇場作品も作られているというだけだと私は思います。ジェンダー的な意味で注目されるとのことですが、たまたま時代がそのようになってきたというだけで、こちらがやっていることは以前から変えていないつもりです。時代が追いついてきた、というといやらしい表現ですが。
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「女の子はおしとやかに」というステレオタイプを打ち破り、ダイバーシティやインクルージョンといった概念を作品の中に織り込む『プリキュア』の作り手たちは、そのことに対して特段構えることなく、いたって自然体という印象を受けた。田中監督、村瀬プロデューサーのお2人は共通して、本作におけるジェンダーや多様性の描写を、時代の「空気」があって生まれたものと考えているようだった。もちろん作品はクリエーターの創意でゼロから作り出されるものであって、そこに何らかの意図が込められているわけだが、彼ら自身は社会に挑戦するとかリードするとかいういわば「上から目線」ではなく、社会の「空気」を感じ取ってそれを作品に表現していく、という姿勢であるようだ。
近年ハリウッドにおいて、女性監督や女性主演作品の数など、映画界における女性の地位の低さを問題視する声が多く上がるようになってきた。日本映画界においても、女性の地位は高いとはいえない。しかしその中で例外となっているのが、アニメの世界である。女性監督作品も多く、また女性キャストが主演となる作品も多い。昨年公開された15周年記念作『映画 HUGっと!プリキュア ふたりはプリキュア オールスターズメモリーズ』は、歴代のプリキュア55人が登場し、ギネス世界記録「アニメ映画に登場する最も多いマジカル戦士の数|Most magical warriors in an anime film」に認定された。「主演」の多さもさることながら、そのすべてが女性キャラクターであるということはある意味驚異的だ。東映アニメーションへのインタビューを考えたのは、こうした背景を受けてのことだ。
55 anime characters unite in anniversary film to achieve unique record
私たちはえてして、映画などの作品が社会にどのような影響を及ぼすかばかりを考えがちだ。『プリキュア』シリーズをジェンダーや多様性といった視点で賞賛したり批判したりするのも、そうした観点からのことだろう。もちろん、そうした面もないではない。しかし実際は逆の方向の方が重要なのではないか。作り手たちは、時代の風をとらえ、創意をもってそれを作品の形で表現しているのではないか。
今、子どもたちのまわりに流れている時代の「風」はどんなものか。おそらくその答えの少なくとも一部は『プリキュア』の中にある。その意味で大人にも、『プリキュア』シリーズ27作目の劇場作品となる『映画スター☆トゥインクルプリキュア 星のうたに想いをこめて』を見てもらいたい。
劇場公開中『映画スター トゥインクルプリキュア 星のうたに想いをこめて』あらすじ
ある日突然、プリキュアの元にやってきた不思議な生き物ユーマ。
言葉が通じないユーマに、ひかるとララは振り回されっぱなし…。
ユーマと気持ちを通じ合わせる方法、それは<うた>!?
<うた>を通じてユーマとの絆を育んでいくひかるたち。
しかし、突如謎の宇宙人ハンターが現れ、大ピンチ!
さらには、ユーマとはいずれ離れ離れになることが告げられてしまう…。
ユーマを、そしてみんなの想いを守るため、プリキュアが立ち上がる!!