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筆者も滑ってケガ 転倒する前に 簡単除雪のコツを雪国在住の筆者が解説

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
手前からタイル張りのステップ(段)に足をかけて滑ってケガをした(筆者撮影)

 雪で凍った路面に、ペンギン歩きなど通用しません。誰でも滑って転倒するのが凍った路面というもの。スリップに特に気をつけたい箇所と、その危険箇所を簡単に除雪するコツを右手受傷の雪国在住の筆者が伝授します。

今の雪国の状況

 このところの寒波の影響で、雪国・長岡ではそれなりの積雪があります。図1は1月27日朝の長岡駅前の様子です。バスの屋根の上の積雪を見ると、一夜で降った雪の量がわかります。今週はテレビにもよく映し出された長岡市ですが、筆者の個人的な感想によれば、市街地の積雪は平年より少ないように感じます。

図1 長岡駅前大手口バスロータリーの様子(1月27日朝 筆者撮影)
図1 長岡駅前大手口バスロータリーの様子(1月27日朝 筆者撮影)

 雪国の人は、スリップしやすい箇所を把握しています。駅前のバスターミナルには、バスの乗降口付近をせっせと雪かきしているバス会社の社員の方々が常にいます。雪国の人の冬は、ある意味雪かきが主たる仕事になる(?)ので、若い人も年寄りも、誰にも何も言われなくてもスコップをもって雪かきに精を出します。

 図2はバス乗降場の様子です。特に降り口の地面の除雪がしっかりしていることがわかるでしょうか。バスから降りるときに地面が凍っていると、間違えなくここでスリップして転倒するお客さんが出てしまいます。

図2 バスターミナルのバスの降り口付近の除雪はいつも完璧。降り口付近を歩く長岡っ子の服装は街中でよくみかけるスタイル(筆者撮影)
図2 バスターミナルのバスの降り口付近の除雪はいつも完璧。降り口付近を歩く長岡っ子の服装は街中でよくみかけるスタイル(筆者撮影)

特に滑る箇所

 カバー写真に示した現場は、まさに筆者が本日1月28日に滑って転倒し、怪我をした現場です。図3を使って何が危ないのか説明します。

図3 筆者が滑って転倒した現場の詳細図(筆者撮影)
図3 筆者が滑って転倒した現場の詳細図(筆者撮影)

 手前の雪の積もった歩道から歩いて、中央に写っているタイル張りのステップ(段)の上にのった瞬間に右足が滑り、右側に転倒しました。滑った箇所は〇Aです。足は左側に流れて、矢印Bの点で右腰を強打、右手をザラメの雪に突っ込みました。結果的にザラメのクッションのおかげで重傷は避けられたようです。ただ、路面についた右手と腰の右側を強く打ち、いまだ右手の痛みが治まらず、右足はびっこを引いている状態です。

 毎日歩いている凍った通路ですから、かなり気を付けていて、歩き方はペンギン歩きに近いのですが、それでも滑るところでは誰でも滑るものです。図3には他の人が滑って転倒した跡(矢印C)も残っていました。

 ステップの上がり下がりは大変危険です。凍っていれば、誰でも滑ります。どう気を付けてもダメなものはダメです。ステップ付近まではツルツルしながらも上手く歩けているわけで、やはりそこに至るまでの成功体験の積み重ねが悪いのでしょうか、ついついステップにて滑ってしまいます。

 日々の生活の中でも特に滑る場所は、自宅の玄関先の階段です。誰でもがその朝の第一歩を踏み出すところです。街中の至る所のスリップ注意に気を配るのもよろしいのですが、自宅の玄関先にこそ、細心の注意を払いたいところです。

危険箇所を簡単に除雪するコツ

 除雪はそれなりに体力を使うので、簡単というわけにはいかないのですが、自宅の玄関先の除雪に絞れば、簡単に済ますコツは当然あります。

注意:お湯をかけてはダメ

 最初に誰もが思いつく方法です。お湯をかけると雪はいっときだけ融けるのですが、周囲の冷え込みが厳しくて氷点下の気温、キンキンになっていれば、すぐに、ときには1分も経たずにツルツルの氷になって固まります。再凍結と言います。

 元の雪が比較的ふわふわしていたのに対して、再凍結したらカチンカチンの氷に早変わりです。再凍結した氷はスコップで削ろうとしても、まさに歯が立たなくなります。図3のステップ上のような氷の状態になります。

塩水(湯)を使って融かす

 再凍結するまでの時間を遅らせる方法があります。お湯に食卓塩などの塩を入れるのです。

 周辺の気温が氷点下5度くらいなら、お湯1リットルあたり100 g程度の塩を溶かします。例えば2リットルのペットボトルに給湯器から40度程度(浴槽に入れるお湯の温度程度)を2/3くらい入れます。そこに130 gくらい(大さじ8杯くらい)の塩を入れて、ペットボトルのフタをしてペットボトルを振って塩を溶かし切ります。そのペットボトルの中の塩水(湯)を凍った雪路面にまきます。

図4 塩水(湯)を使った雪路面の溶かし方(筆者撮影)
図4 塩水(湯)を使った雪路面の溶かし方(筆者撮影)

 2リットルくらいの塩水だと、図4の右に示すように100 cm × 70 cmくらいの範囲の硬くしまった雪を融かすのに十分です。一度シャーベット状に融けますので、1分後くらいにスコップで取り除きます。柔らかいので、プラスチック製のスコップやプッシャーでも比較的簡単に除雪ができます。 

 通常、水は0度で氷になりますが、塩水にすれば周囲が氷点下の気温でも(理論的には)再び氷になりません。これは凝固点降下という現象です。例えば水1リットルに塩を100 gを溶かせば、凝固点(純粋な水は0度)が氷点下7度くらいまで下がります。つまり、気温が氷点下5度程度だったら凍らない(凝固しない)ということです。

 ただし実用上はそうもいかないものです。塩水をかけてもせいぜいシャーベット状になるまでなので、時間が経過すると水分が徐々に路面にしみ込んでいって、氷の部分だけが路面表面に残ります。そして周辺の冷えによって次第に再凍結してしまいます。

 お湯をかけた時ほどは早く再凍結することはないのですが、できるだけ早くスコップでシャーベットを取り除きます。

融雪剤を使う

 ホームセンターで販売されている融雪剤を予め準備しておけば、かなり楽に除雪できます。

 図5は塩化カルシウム配合の融雪剤を階段にまいた写真です。融雪の効果はすぐに現れます。融雪剤を散布して1分後には融雪剤の顆粒の周辺から雪が融けだして、5分後にはほぼ液体化しました。残っている白い粒は融け切れなかった融雪剤の顆粒です。あっという間に路面の氷が融けてなくなりました。

図5 融雪剤で雪が融けていく様子(筆者撮影)
図5 融雪剤で雪が融けていく様子(筆者撮影)

 塩化カルシウムによる融雪の原理は次の通りです。

 まず、水に対する凝固点降下は塩に比べて大きく、塩と同じ量でもより低い温度まで凝固点を下げることができます。

 そして、塩化カルシウムに接触している周辺の雪から凝固点降下現象で雪が水(水溶液)になります。その水に接触している雪は次々に融けていくのですが、融けるのに必要な熱をさらに周囲の雪から奪います。なにか読んだだけではよくわからない現象ですが、続きは追って2月にでもYahoo!ニュースで解説します。

 なんだかんだの化学は一旦おいておいて、図5の右の写真の上に示したように、氷に穴が開いたように塩化カルシウムの顆粒の周りが融けていきます。これは楽です。

道をつける

 塩水や融雪剤で雪を融かした後には、スコップで雪をのけます。シャーベット状になっているので比較的簡単に除雪できます。

 ただ、塩(塩化ナトリウム)にしても塩化カルシウムにしても、屋外にて使用量をできるだけ減らしたい目的もあって、道をつけるのであれば、玄関前なら人が一人行き来できる程度の幅にすればよいのです。

 図6は、最終的に玄関前の階段の道つけをした後の写真です。作業開始から5分程度で完了しました。ステップの部分は塩化カルシウム融雪剤で融かし、黒の部分は塩水をかけて融かしました。

図6 道つけ後の様子。紫色のプラスチック製プッシャーをつかってシャーベット状態に融けた柔らかい雪をどけた(筆者撮影)
図6 道つけ後の様子。紫色のプラスチック製プッシャーをつかってシャーベット状態に融けた柔らかい雪をどけた(筆者撮影)

さいごに

 大事なお客さんがお店に出入りするタイル張りのステップの部分。ここは凍っていると特に滑りやすい箇所になります。ぜひ融雪剤をまいて、凍らないようにしたらいかがでしょうか。融雪剤をまくのに手間はかかりません。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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