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図書館は子どもにとっても大切な居場所…コロナ禍で考える公共施設の役割

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
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映画「パブリック 図書館の奇跡」が公開中だ。記録的な大寒波により、緊急シェルターがいっぱいで行き場がないホームレスの集団が、図書館のワンフロアを占拠。ひとりの図書館員が奮闘するというストーリー。監督・主演のエミリオ・エステベスが、11年かけて作り上げたという。コロナ禍の状況も合わせ、図書館の役割について、改めて考えた。

作品中で図書館は、ホームレスの大事な居場所として描かれる。身だしなみのために水道を使ったり、仲間の安否を確かめたり。ホームレスの図書館利用は、様々な意見があるが、物語では、命を守る公共施設だ。「Black lives matter」につながる場面もあり、分断や差別について考えさせられる。それでも全体にユーモアがちりばめられ、深刻になりすぎない。

〇コロナ禍、ほとんどが閉館

図書館のあり方といえば、新型コロナウイルスの影響で、しばらく図書館が利用できなくなったことで、「コミュニティにおける子どもの居場所であり、福祉の一環でもある」と実感した。

6月21日の朝日新聞によると、図書館や美術館などの活動を支援する団体「save MLAK」の調査で、ピーク時には9割超の図書館が開架エリアも立ち入り禁止になった。

独自の試みをする図書館もあった。送料は借りる人の負担になるが、本の宅配サービス。子どもや学生には、無料の宅配も。さらに、電子書籍の貸し出しや、ドライブスルーでの受け渡しといった挑戦だ。でも、こうした柔軟な例は、わずかだった。

〇いすやテーブルも片付けられ…

コロナ休校中、図書館が利用できなかったのは、筆者にとっても、小学生の娘にとっても、悲しいできごとだった。娘は、週末に図書館に行くのがルーティーンになっている。借りたい本の予約や検索方法、延長手続きを自ら覚えて、一度に10冊ほど借りる。

大人が読書を強要したことはない。筆者が子どもの頃、これほど読んでいなかったから、単純に「好き」なのだろう。自分で選ぶ本は、「表紙のイラストがかわいい」とか、「おしゃれやマナーに興味が出てきた」とか、親から見ると、「名作や勉強になる本でなくて、いいの?」と言いたくなるものもある。

それでも、インターネット・テレビ視聴が当たり前の現代っ子が、図書を通して、知らない世界に興味を持つ体験は必要だと思う。

娘はいつのまにか、図書館のスタッフと仲良くなった。行政から委託された、民間のスタッフらしい。「こういう本が読みたい」と相談すると勧めてもらえるし、コミュニケーションも楽しんでいた。

ところが、4月にはコロナ禍で図書館の中に入れなくなってしまった。3月に学校が休校になり、授業という刺激もなく、行くところがなかった。図書館は、貴重な場所だったのに。

急に閉鎖になったわけではなく、コロナが広がるにつれ、図書館にも緊張ムードが漂っていた。徐々に、子どもの図書コーナーを含め、いすやテーブルが片付けられ、中に入れなくなり、以前に予約した本の受取だけになった。オンライン予約自体も、できなくなった。

〇借りるだけでない、集える場

4~5月は図書館通いがなくなり、出会う本もなく、親子で毎日を淡々と過ごした。ひたすら学校のサイトに上がる宿題をプリントして書き込み、課題の水彩画や歌唱、自然観察にも取り組んだ。健康を考えて、踏み台昇降運動・なわとび、日光浴をかねた散歩をした。オンラインの習い事も少しずつ始まり、娘はすぐにZoomを使いこなすようになった。

ステイホーム中は、「読書を」と言われていた。けれど、図書は借りられず、近くの書店は閉店してしまった。ネットショップでは、筆者のノンフィクションも扱われ、広く知ってもらえる良さを感じているが、無限に買えるわけではない。

子どもは、「話題だから」「広告を見て、おもしろそうだから」という理由よりも、本を手に取って、少し読んでみて、わくわくしたら借りる。図書館がないと、気軽に手に取ることができない。

親にとっても、無料で、多様な世界につながれる図書館は、ありがたい。昨夏は、図書館の学習室で宿題をした。本を借りるだけではなく、集って、過ごすことのできる場なのだ。

〇市民とのつながり、保てる図書館に

6月1日、入れなかった図書館が開いた。学校の分散登校の初日でもあり、放課後にさっそく向かった。図書館に足を踏み入れる時、娘のウキウキぶりが伝わってきた。しばらくは、学校のない日もあったので、数日おきに足を運んだ。

そして短い夏休みに入った。コロナの影響で、プール授業もなく、近所のお祭りもない。図書館に行くのは、コミュニティ内での楽しみの一つだ。

学習室は使えないし、長時間の滞在はできない。日曜日の夕方などは、親子連れで密になるぐらい、人が集まっている。よく見ると、窓が少し開けられ、配慮はされている。

絵本や紙芝居を読んでもらって、機嫌を直す子がいる。一人で来て本を読んでいる子、友達と来て勉強している子もいる。

まだまだコロナとの生活がどうなっていくか、わからない。天候や災害、ウイルスによって、行く場所や社会とのかかわりがなくなることが一番の問題だ。再び、学校や図書館・児童館などの公共施設が休みになったら、子どもたちはどう過ごせばいいだろうか?

この映画のように、行き場所がない人たちが、屋内で命を守りたいときに、どんな選択ができるだろうか?

現実には、難しい問題もあるけれど、地域の図書館が、市民とのつながりを保てる場所であってほしいと願う。

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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