第155回芥川賞を「コンビニ人間」で受賞した村田沙耶香。
彼女が直木賞作家の西加奈子や朝井リョウ、加藤千恵ら作家仲間から「クレイジー」と呼ばれていることは、今回の受賞報道などでも取り上げられていた。だが、10人産んだら、1人殺せる「殺人出産」システム(『殺人出産 』)や夫婦間のセックスが「近親相姦」としてタブー視される世界(『消滅世界』)といった小説の作風だけでそう呼ばれるのではない。
では、村田沙耶香はどのように「クレイジー」なのか。
これまで彼女がメディア出演したニッポン放送『朝井リョウ&加藤千恵のオールナイトニッポン0』(15年12月18日放送)、若林正恭司会で加藤千恵とともにゲスト出演したBSジャパン『ご本、出しときますね?』(16年4月29日放送)、若林と本谷有希子と鼎談したフジテレビ『ボクらの時代』(16年5月22日放送)の中で明かされたエピソードを振り返ってみたい。
週3日コンビニバイト生活
芥川賞受賞作「コンビニ人間」はコンビニ店員として働く30代独身女性を主人公に描いた作品だが、村田自身も現在もコンビニで働いている。
収入的には作家一本で生活できるので金銭的な理由ではない。
コンビニには様々な客が訪れる。当然、わがままだったり横暴だったりと迷惑な客も少なくないだろう。
そんなわがままな客に対しても「怒り」を覚えたことはないと言って、きっぱりとこう断言する。
コンビニのバイトがない日は、小説を書けないという。逆にバイトがある日は、早朝(というより深夜)2時に起きて6時まで書いて、8時からのバイトにでかけ13時まで働く。そしてバイトが終わると喫茶店などで、小説を書くのだという。バイトは週3日。バイトがない日はずっとネットなどばかりを見て仕事をしないため、担当編集者からはバイトのシフトを増やすように言われるのだと笑う。
こうした生活は、小説家としては「ちょっと変わってる」程度で「クレイジー」とは呼べないだろう。
ケンカ中、ど真ん中を通る
では、子供の頃はどのような少女だったのだろうか。
幼いころは、繊細で「すぐ泣いちゃう子」だったという。例えば、幼稚園の運動会ではこんなことがあった。
また幼い頃から眠リ方も特殊だった。以前、羽田圭介から「なかなか寝付けない」という悩みを聞いた時、村田は「『羽田圭介』のままだから眠れないんじゃない?」と事も無げに答えたという。そして「別な人になればいいよ、私はいつも別の人になってるよ」と続け、周囲の人たちを困惑させた。
小学生の頃はクラスの端の方にいるような、おとなしい存在だった。「いかに空気のような存在でいるか」と思いながら学校生活を送っていたが、時に「クレイジー」で大胆な行動に出ることもあった。
「クレイジー」な片鱗が徐々に見え始めてきている。
負の感情で遊ぶ
「自分に湧き上がった感情、特に負の感情は頭のなかで分析し原型が無くなるまで研究して遊ぶ」というのが自分の中のルールだという。
それは既に中学の頃から彼女の中で行われていた。
こうした人の悪意に対する態度は大人になっても変わらず、聞いているこちらがヒヤヒヤしてしまうものが少なくない。たとえばコンビニバイト中、20代の頃はよく客から「抱きつかれていた」とあっけらかんと言うのだ。
何か事件に巻き込まれてしまわないか、心配になってしまうレベル(というか既に遭遇しているとも言える)の「クレイジー」さが浮き彫りになるエピソードである。
他にも、男性と付き合うとなんでもやってあげてしまう結果、ことごとく壊れたダメ男になってしまうため「壊れた人作りマシーン」と呼ばれていたり、小説の題材のために買った大人のおもちゃを捨てるのに奮闘したりと「クレイジー」エピソードは枚挙にいとまがない。
人間の未知の部分を知る喜び
彼女は子供の頃から文章を書くのが好きだった。
小説の中でだけは、周りの顔色を気にせず、自由でいられたからだ。だが、中学の頃、小説を自分の「承認欲求」のために書いて強い自己嫌悪に陥った。
そうした少女時代の強い贖罪意識のある彼女は現在、「喜怒哀楽」の感情のうち、なにが小説のモチベーションなのかを問われ、「喜」だと意外な答えを出している。
そんな彼女が一番興味のある肉体的感覚は「快楽」だという。
繊細であらゆる物事や事象を突き詰めて熟考している一方で、自分が実際に被害を受けた時には無頓着と言えるほど、どこか無防備だ。
そうした危うさを感じさせるアンバランスさが村田沙耶香が「クレイジー」と呼ばれるゆえんなのだろう。