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「殺人シーンを書くのが喜び」“クレイジー”と呼ばれる芥川賞作家・村田沙耶香の肖像

てれびのスキマライター。テレビっ子
第155回芥川賞・直木賞受賞会見(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

第155回芥川賞を「コンビニ人間」で受賞した村田沙耶香。

彼女が直木賞作家の西加奈子や朝井リョウ、加藤千恵ら作家仲間から「クレイジー」と呼ばれていることは、今回の受賞報道などでも取り上げられていた。だが、10人産んだら、1人殺せる「殺人出産」システム(『殺人出産 』)や夫婦間のセックスが「近親相姦」としてタブー視される世界(『消滅世界』)といった小説の作風だけでそう呼ばれるのではない。

では、村田沙耶香はどのように「クレイジー」なのか。

これまで彼女がメディア出演したニッポン放送『朝井リョウ&加藤千恵のオールナイトニッポン0』(15年12月18日放送)、若林正恭司会で加藤千恵とともにゲスト出演したBSジャパン『ご本、出しときますね?』(16年4月29日放送)、若林と本谷有希子と鼎談したフジテレビ『ボクらの時代』(16年5月22日放送)の中で明かされたエピソードを振り返ってみたい。

週3日コンビニバイト生活

芥川賞受賞作「コンビニ人間」はコンビニ店員として働く30代独身女性を主人公に描いた作品だが、村田自身も現在もコンビニで働いている。

収入的には作家一本で生活できるので金銭的な理由ではない。

村田: よくバイトしてるんですって言うと「それは小説の題材にするためにお客さんを観察してるんでしょ?」って言われるんですけど、でも違うんです。もっと真剣に働いてるんで。観察とかしてない。だって自分のこと観察してくるコンビニ店員って嫌じゃない? だからタバコとかを買いに来るお客さんにもドヤ顔で「あ、いつものラークですね?」とか出したり絶対しなくて、今日出会ったかのように「おタバコ、何番ですか?」とか聞いたりして。

若林: ああ。でもいいですよね、店員さんが明るいと。すげえスベった収録の後でもヨーグルト買わなきゃって買って「ありがとうございました!」って元気に言われると気分良くなるもん。

村田:こういう方のために働いてる!

若林: (笑)

出典:BSジャパン『ご本、出しときますね?』(16年4月29日放送)

コンビニには様々な客が訪れる。当然、わがままだったり横暴だったりと迷惑な客も少なくないだろう。

そんなわがままな客に対しても「怒り」を覚えたことはないと言って、きっぱりとこう断言する。

村田:それを愛すのがコンビニ店員だから

加藤: えっ、そうなの!?

若林: オレ、無理だわ! それ時給安すぎるだろ! だとしたら。

村田: 店員はみんなそうだよ。

加藤: そんなことないよ、絶対そんなことない!(笑)

出典:BSジャパン『ご本、出しときますね?』(16年4月29日放送)

コンビニのバイトがない日は、小説を書けないという。逆にバイトがある日は、早朝(というより深夜)2時に起きて6時まで書いて、8時からのバイトにでかけ13時まで働く。そしてバイトが終わると喫茶店などで、小説を書くのだという。バイトは週3日。バイトがない日はずっとネットなどばかりを見て仕事をしないため、担当編集者からはバイトのシフトを増やすように言われるのだと笑う。

村田: アイデアもパソコンの前に座ってると出てこないんだけど、レジ打ってる時、ラストシーンああしようって浮かんでくるんで、すごくコンビニに依存して。これ直さなきゃって思ってるんですけど。

出典:フジテレビ『ボクらの時代』(16年5月22日放送)

こうした生活は、小説家としては「ちょっと変わってる」程度で「クレイジー」とは呼べないだろう。

ケンカ中、ど真ん中を通る

では、子供の頃はどのような少女だったのだろうか。

幼いころは、繊細で「すぐ泣いちゃう子」だったという。例えば、幼稚園の運動会ではこんなことがあった。

村田: 「大玉送り」の大玉を先生が「これは先生が頑張って作ったから大事に扱ってください」って言葉が忘れられなくて、ものすごく大事に運んでたら遅すぎて幼稚園の運動会が一時中断みたいになってしまって、でも先生が大事って言ってたからって思って。大人から見たら神経質すぎて怖い感じに見えてたと思います。

出典:フジテレビ『ボクらの時代』(16年5月22日放送)

また幼い頃から眠リ方も特殊だった。以前、羽田圭介から「なかなか寝付けない」という悩みを聞いた時、村田は「『羽田圭介』のままだから眠れないんじゃない?」と事も無げに答えたという。そして「別な人になればいいよ、私はいつも別の人になってるよ」と続け、周囲の人たちを困惑させた。

村田: 私たぶん、子供の頃から「村田沙耶香」のまま眠ったことは、すごく疲れて泥のように眠った時以外はないです。

加藤: それは誰になるの?

村田: 小っちゃい時は特定の人になってたんだけど。

朝井: それは実在の人?

村田: あんまり詳しく話すと心が壊れるかもしれない……。

加藤: じゃあ、やめよう!(笑)

村田: 実在の人ではなくて、その人がいて、その人になりきって、ドラえもんやのび太くんと遊びに行ったりしながら寝てた

加藤: 別にドラえもんのキャラクターとかではないんだよね?

村田: そうです。

加藤: それが小っちゃい頃。

村田: 小さいころ、そうやって寝てて、ドラえもんやのび太くんと友達で。でも大体子供ってそうやって眠るよね?

加藤: うーーん……。

村田: 大人になっても「村田沙耶香」のままでは眠れなくて違う人間になって眠るの。

加藤: どういう人?

村田: 色々いるんだけど私が作った色んな人格。

出典:ニッポン放送『朝井リョウ&加藤千恵のオールナイトニッポン0』(15年12月18日放送)

小学生の頃はクラスの端の方にいるような、おとなしい存在だった。「いかに空気のような存在でいるか」と思いながら学校生活を送っていたが、時に「クレイジー」で大胆な行動に出ることもあった。

若林: クラスで問題起きるときもあるじゃないですか、たまに。誰かが大ゲンカしたりとか。そのときはどうするんですか?

村田: なんかヤンキーの人たちのケンカじゃないけど、絡まれるのかなと思って、気が付かないふりして真ん中突っ切ろうとしたことがある。

加藤: わかんない、わかんない!(笑)

若林: 普通はケンカしてるところからスーっといなくなるっていうのならわかるけど、真ん中を通る? 目立とうとしてない?

村田: でも、私のようなおとなしい女子が殴り合ってるのに気付かずに真ん中を突っ切ったらケンカって終わるんじゃないかなって思って。

若林: ハッハ!(笑)

加藤: ええ、それってどうなるってこと?

村田: 「俺たちのやってることって些細な事だ」って(笑)

若林: でもねえ、あるかもね(笑)。

加藤: ないでしょ!

出典:BSジャパン『ご本、出しときますね?』(16年4月29日放送)

「クレイジー」な片鱗が徐々に見え始めてきている。

負の感情で遊ぶ

「自分に湧き上がった感情、特に負の感情は頭のなかで分析し原型が無くなるまで研究して遊ぶ」というのが自分の中のルールだという。

それは既に中学の頃から彼女の中で行われていた。

村田: 小さいころなんですけど、自分に負の感情が起こったとき、これはなんなんだろうって考えてた。たとえば中学校でなんかみんなにセクハラするって言われてすごい嫌われてる先生がいて。確かにギュウギュウ体を押し付けてきたり、ちょっとおかしくて、嫌悪感があったの。でもこの嫌悪感は、本当にこれは正しい嫌悪感のなのだろうか、公平だろうか、みんなの噂とかに惑わされて私は嫌悪感を持っているだけじゃないかって思って。たとえば別の先生だったら体をギュウギュウ押し付けられても「やめてくださいよ」で終わってたことなのに、私は差別してそういう感情を抱いてるんじゃないかって分析してるうちに、嫌悪感全然なくなってくるの。

加藤: へー!

村田: そう思うとあの先生のこと全然気持ち悪くないし全然体ギュウギュウされても平気だ!って。

若林: 危ないよ!

加藤: それダメじゃない?

若林: 体ギュウギュウって押し付けてくるの?

村田: でも悪気はないと思うの。

若林: あるよ!

加藤: 絶対あるよ!(笑)

出典:BSジャパン『ご本、出しときますね?』(16年4月29日放送)

こうした人の悪意に対する態度は大人になっても変わらず、聞いているこちらがヒヤヒヤしてしまうものが少なくない。たとえばコンビニバイト中、20代の頃はよく客から「抱きつかれていた」とあっけらかんと言うのだ。

村田: 結構、コンビニ店員って抱きつかれる。

加藤: だから「あるある」みたいに言ってるけど、ないんだよ、みんなは!

村田: 「ちょっとこっちこっち」って言われて「はい、なんでしょう?」って行ったらギュッて抱きつかれて。

若林: ハハハハハハ。

加藤: これ笑って話せてるからいいけど結構やばい話だよ。

若林: 事件だよ。抱きつかれた瞬間はどう思ったの?

村田: あのね、気が付かないふりをしようと思って。気がついて反応しちゃったらセクハラっぽい雰囲気になっちゃうから

加藤: っぽいっていうかさ、セクハラだし!

村田: おにぎりを品出してた時に、ずっと男の人から足首を掴まれてたことがあって。しゃがんで足首を掴んできたの。でも気がついたらこの人がセクハラしてるみたいになっちゃうなと思っておにぎりを並べ続けていたら、他のお客さんが血相変えて飛び込んできて「お前何やってんだ!」「大丈夫だった?」って。ああ、セクハラみたいになってしまったって。

加藤: みたいって(笑)。セクハラだとは思わないってこと?

村田: だってなんで掴んでるかはその人に聞いてみないとわからないじゃない?

若林: 痴漢とかされたらどうですか?

村田: うーん、露出狂って結構電車の中にいるよね?

加藤: そんなにいません。「あるある」じゃありません(笑)。

村田: 電車の中で露出してる人がいて、それがうっかりなのか…?

若林: (爆笑)……、いや、うっかり出ちゃうってないんですよ! ベルト、チャック、トランクス……。いろいろ何段階かあるんですよ。

村田: でも、変態じゃない可能性もある

若林: 変態だよ!

出典:BSジャパン『ご本、出しときますね?』(16年4月29日放送)

何か事件に巻き込まれてしまわないか、心配になってしまうレベル(というか既に遭遇しているとも言える)の「クレイジー」さが浮き彫りになるエピソードである。

他にも、男性と付き合うとなんでもやってあげてしまう結果、ことごとく壊れたダメ男になってしまうため「壊れた人作りマシーン」と呼ばれていたり、小説の題材のために買った大人のおもちゃを捨てるのに奮闘したりと「クレイジー」エピソードは枚挙にいとまがない。

人間の未知の部分を知る喜び

彼女は子供の頃から文章を書くのが好きだった。

小説の中でだけは、周りの顔色を気にせず、自由でいられたからだ。だが、中学の頃、小説を自分の「承認欲求」のために書いて強い自己嫌悪に陥った。

村田: 中学校の頃は承認欲求で小説を書いていて、それでデビューしたいと思ったんだけど、でもその時、「あ、私、小説を汚した」と思ったんです。その罪悪感が忘れられないんだと思う。小学校の時、本当に自分を出せるところがどこにもなくて、小説でだけは顔色を伺わず自由になることができて唯一の場所だったのに汚してしまった。本書いたら大人は小説として完成されてると思うんじゃないかみたいなことをやろうとした。それが本当に卑怯で汚いことで、それが忘れられなくて、今は意図的に(承認欲求を)あんまりわからないように、考えないようにしてるんだと思う。

出典:フジテレビ『ボクらの時代』(16年5月22日放送)

そうした少女時代の強い贖罪意識のある彼女は現在、「喜怒哀楽」の感情のうち、なにが小説のモチベーションなのかを問われ、「喜」だと意外な答えを出している。

村田: モチベーションは「喜び」かなぁ。

加藤: え! 意外(笑)。

若林: 「喜び」であの小説が出てくる? だって書籍のポップに血だらけのナイフとかあるのに……。

村田: なんか人間の未知の部分を知るのって喜びじゃない? なんかものすごい喜びがある。

若林: 人を知るってことが喜び?

村田: ものすごい楽しい、喜び。

加藤: (10人産めば1人殺していい世界を描いた)『殺人出産』とか書いてる時も喜んでる?

村田: すっごい喜び。

若林: 怖いシーンがあるじゃないですか。

村田:殺人シーンとか書くの本当に喜びです。

若林: 怖っ!単純に怖っ(笑)。

村田: 血がいっぱい出たり、人体の仕組みを調べたり、すっごい喜び。

出典:BSジャパン『ご本、出しときますね?』(16年4月29日放送)

そんな彼女が一番興味のある肉体的感覚は「快楽」だという。

村田: 走って気持ちいいとか、今までで気持ちよかった肉体に興味がある。

若林: この心地良さはなんだろうなとか。

村田: そう。リラックスしたいい感じはなんだろうって。結構意識して考える。

若林: 人間の「仕組み」に興味ありますか? 人間ってなんだろうっていう全体ですか?

村田:人間っていう動物そのものに興味があります。動物番組をよく見るんですけど、あれで「人間」をやってほしい。

一同: (笑)

若林: どういう映像がみたいですか?

村田: なんだろう? ま、交尾とか……。

若林: 放送できねーよ!

出典:BSジャパン『ご本、出しときますね?』(16年4月29日放送)BSジャパン『ご本、出しときますね?』(16年4月29日放送)

繊細であらゆる物事や事象を突き詰めて熟考している一方で、自分が実際に被害を受けた時には無頓着と言えるほど、どこか無防備だ。

そうした危うさを感じさせるアンバランスさが村田沙耶香が「クレイジー」と呼ばれるゆえんなのだろう。

ライター。テレビっ子

現在『水道橋博士のメルマ旬報』『日刊サイゾー』『週刊SPA!』『日刊ゲンダイ』などにテレビに関するコラムを連載中。著書に戸部田誠名義で『タモリ学 タモリにとって「タモリ」とは何か?』(イースト・プレス)、『有吉弘行のツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか 絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』、『コントに捧げた内村光良の怒り 続・絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』(コア新書)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『笑福亭鶴瓶論』(新潮社)など。共著で『大人のSMAP論』がある。

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